バレンタインデー

「あ~、癒される~」


 深夜のバイトを終え、帰宅早々炬燵に潜り込んだ俺は至福の時間を味わっていた。


「二月だっていうのに、今日は何でこんなに冷えるんだろうな」


 昨日の天気予報では十二月並の冷え込みになる、と知らせていたが、帰宅中に体感した寒さは十二月のを越えていた。


 しかし、それも今は関係ない。冷えきって固まった身体は段々と緩んでいく。


「あは~、やっぱ炬燵はいいよな~。何でも暖め溶かしてくれるもんな~」


 安らぎと温もりを与えてくれる秘宝、炬燵。誰にでも平等に受け入れ、そして優しく身を包み込んでくれる炬燵はまさに聖母のようだ。疲れなんか一気に吹き飛んでしまう。もちろん、嫌な事も――。


『今日こちらで買ったお店のチョコを誰に渡しますか?』


『え~? それはまあ……彼氏に? やだ、ちょ~恥ずかしい~』

『もちろん彼にあげます。実は、その日は彼と付き合った日なんです。だから、記念日として――』

『旦那にです。普段は喧嘩ばかりしていますけど、まあ今日だけは日頃の頑張りを称えてあげようかな、と』


『と、ご覧のように、二月十四日のバレンタインのためにチョコを買う女性が大勢います。その中で、今注目を浴びているお店が――』


 炬燵で暖まりながら、俺はテレビから流れる内容を耳にする。


 そう。今日は二月十四日。バレンタインデー。好意のある異性にチョコを送るイベントデーとして、世間では甘~~い雰囲気が広がっていた。


 少し前までは、仲の良い友人にあげる友達チョコや、男性が女性に送る逆バレンタイン等と流行っていたが、どうやら今年は本来の形である女性から男性へと送るものになったようだ。しかも、義理チョコはなくなり本命のみのバレンタインとして。


『さあ、今年は本命バレンタインデー! 一体何人の男性が、何人から想いを告げられるのでしょうか! 全国の男性の皆さん、しっかりとお待ちしてください!』


 リポーターがそう締め括り、画面はスタジオに戻る。それから昨日一日で起きたニュースを続けて報告し始めた。


 バレンタイン、か……。


 知らない訳ではない。むしろ嫌というほど熟知している。なぜなら、さっきまでバイトで散々チョコを売っていたし、告知もしていたからだ。おかげで、チョコの売り上げは通常の五倍近くに昇った。疲労もそれなりにある。しかし、それだけではない。


「……バレンタインなんて……滅んじまえ……!」


 ゴツン、とテーブルに額を打ち付けながら俺は愚痴った。


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