第4話 望まれた結末-前編-

「これは……っ!?」

 赤ずきんのおばあさんの家周辺―――そこにはヴィランたちが群雄割拠していた。

 その場にたどり着いた茜を除く3人は、目の前に広がる光景に絶句した。

「クルルルゥゥゥゥ」

「クルゥッ」

 ヴィランたちは、家の少し手前で暴れていた。

 それは、まるでそこに透明な壁があるようで……ヴィランたちはそれを壊そうとしているようだった。

「これはどういうことでしょう……?」

 シェインが、ヴィランたちの動きに対する疑問を口にする。

「あれは、見えない壁…かしら?」

 それは当然、一行の誰であっても驚く事実。

 そこに1人、冷静だったのは―――

「お主ら、あれはもうあまり長くはもたぬ……」

 冷静だったのは茜だった。

 茜は、冷静でいて、そしてさらに、全てを知っているようだった。

「……みんな、今は僕たちのやるべきことを……ヴィランをた」

 エクスがヴィランを倒そう、そう言おうとした時だった。

 パンッと一発の銃声が響く。

「うっ……」

 狙われたのは、茜だった。

 そして、物陰から姿を表したのは、ボロボロの布をマントにする中年の男。

 右手にはナイフを構えていた。

「ようやく、貴様を仕留められるときがきた……!」

 その声は怒りと憎悪に震えていた。その声は、決して大きくはないが、その場の大気を揺るがすように響く。

 男は、弾丸の飛んできた方向から現れた。つまり、撃ったのも、この男ということだ。

「……ちっ、よけきれなんだか……」

 茜は銃から弾丸が放たれる直前に気づき、とっさに弾道を避ける動きをとったが、避けきることができず、右腕をかすめてしまったのだった。

「茜さん!大丈夫!?」

 エクスは、空白の書に『導きの栞』をはさんだ。

 それは今まで何度も茜たちに見せてきた、ヒーローとのコネクト。調律の巫女御一行が持つ戦うための力。

 すると、エクスの姿はカカシ――オズの魔法使いの想区でエメラルドの城を治める王であるカカシの姿になった。

「……少年、妾は大丈夫じゃ。それより、さっさと決着をつけようではないか……赤ずきんが来る前に」

 赤ずきんの望みを叶える。その言葉にとらわれてしまったかのように、茜の目には焦りの色が見えた。

 そんな茜にカカシエクスは近づき、回復魔法プラシーボ・ブレインを唱える。

「……そうですね。しかし、戦える者が多いに越したことはありませんから」

 茜は、それぞれ姿を変え自分を守ろうと立ち向かう仲間たちの姿に、気が立っていた心が凪いでいくのを感じた。

「……すまぬ」

 謝る茜の姿にカカシエクスは優しい笑みを浮かべた。

「いえ……それよりも」

 そして、回復を終えると、カカシエクスはコネクトを解除する。

「……行こう。赤ずきんの望みを叶えるために」

 エクスは、今度は戦うために『導きの栞』のコネクトをし直した。そしてエクスの姿は豆の木に登る勇気ある少年、ジャックの姿へと変わった。

「さぁ行こう!」




「どうして……邪魔をするんだっ!」

 カオステラーは、あからさまに茜だけを執拗に狙っていた。

「邪魔をしているのはぬしじゃろうて!妾は赤ずきんの望みを叶えるために最善を尽くしておるだけじゃっ!!」


 不思議の国のアリスの主人公であるアリスとコネクトしていたレイナがコネクトを不思議の国のアリスに登場する時計ウサギに切り替える。

「うわぁあぁぁっ!!!すみません、遅くなりましたぁ!今回復しますぅっっ!」

 時計ウサギレイナ回復魔法ラビット・フットで仲間たちの傷を癒し、また、アリスにコネクトを切り替える。

 そして、身近にいたヴィラン二匹を蹴散らした。

「あらぁ!うふふっ!」

 アリスレイナは、全力でヴィランを倒していった。


鬼ヶ島流剣法おにがしまりゅうけんぽう斬桃の舞ざんとうのまいっ!」

 シェインは、桃太郎の想区の鬼ヶ島に住む鬼の姫、鬼姫とコネクトしていた。

 近くにいる敵を一掃し、コネクトを白雪姫の継母である王妃さまに切り替える。

「滅しなさいっ!」

 そして、援護射撃の後、敵が近づいてくれば鬼姫とコネクトし、敵を蹴散らしていた。


 ヴィランが順調に減っていく中、ジャックエクスは1人、戦いながらも茜に気をとられていた。

「主の方こそ、なぜ赤ずきんの邪魔をするのじゃ!?」

 茜は、ずば抜けた身体能力を駆使して戦っているようだが、たまに炎属性の魔法を使っているのが見えた。

「守りたいからだ!貴様のような化け物にはわかるまい!」

 カオステラーは茜を化け物と呼ぶ。

 それはつまり、正体を知っているからそう呼ぶのだろう。

「……貴様こそ今の姿は異形そのもの。化け物ではないかえ!?」

 そう、今ではカオステラーとなってしまった己自信おのれじしんが化け物に成り下がっているのに、茜を化け者呼ばわりするなんて救いようのない話だ。

「うるさい!うるさい!うるさいっ!!!」

 カオステラーは、茜の言葉に耳を傾けてはいなかった。否、聞いていても、心に届いていないのだ。

「貴様にはわからないだろう!少女が殺されるのを知っているのに、それを助けられない俺の絶望が!」

 それは、この赤ずきんの想区に住む、猟師であった彼に与えられた運命。カオステラーになるまで彼を追い詰めた運命。

「……っ!」

 茜は、カオステラーと戦いながらもヴィランの相手もしていた。

 しかし、目に見えて魔法の威力が下がってきていた。

「茜さん!」

 ジャックエクスは茜の援護をしながらヴィランと闘った。


 いつの間にか、ヴィランの残りはすぐに数えられるくらいに数を減らしていた。

 そして、それは、その時起こった。

「なっ……!」

 魔法の不発。茜の魔法が発動しなかったのだ。とっさにジャックエクスが助けにはいる。

 しかし、魔法が不発に終わったその瞬間、空気が揺れた。

「しまった……っ!」

 茜の顔が恐怖に歪む。そして、空気の揺れた原因に気付いたカオステラーは、オオカミのいるおばあさんの家に一直線に向かった。

 誰も反応できない。そう思ったが……

「っへ!そうはさせないぜ!!」

 そこには、『導きの栞』を手にしたタオがいた。

 タオがコネクトしたのはサムエル記の巨人戦士であるゴリアテ。

 タオは見事、カオステラーの一撃を受け止めるのだった。

「ちっ!」

「すまぬっ!また壁を作るゆえっ……!どうにか持ちこたえるんじゃっ……!」

 茜の絶え絶えとした声が響く。体力がつきかけているようだった。

 時計ウサギレイナ回復魔法ラビット・フットだけでは、回復にも限界があったのだ。

「さぁせぇるかぁぁぁああああっ!」

 壁を作るという茜の言葉に、カオステラーが叫ぶ。

 その手にはいつの間にか、猟銃が握られている。

「しまった!」

 エクスは、本日1番の寒気に襲われた。

 茜は明らかに疲弊し、誰が動いても間に合わない。

 そんな状況だったのだ。

 "間に合わない"と、そう思った。

 しかし、1人……茜とカオステラーの間に割り込む者がいた。

「だめーっ!」

 それは赤ずきんだった。

 茜はそれに気づき、目を大きく開けた。

「赤ずきんっ!逃げるのじゃぁぁああっ……!」

 茜は、その瞬間、赤ずきんを失ってしまうかもしれないという恐怖に目を瞑るのだった。

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