番外編 堕ちた猟師(第3.5話)
花畑に放ったヴィランたちは、徐々に数を減らしていく。
あの女を仕留めるためのヴィランたち。
赤ずきんをオオカミの元へ行かせないためのヴィランたち。
それが、徐々に数を減らしていく。
「なぜだ……なぜ止める……!!」
ヴィランを続々と倒していく一行にそれを陰から見ていたカオステラーは苛立っていた。
「どうして……邪魔をするんだっ!」
ヴィランたちに出した命令は、赤ずきんの
しかし、このままでは赤ずきんに会うこともできないだろう。
今、手持ちのヴィランはこの花畑とお婆さんの家に出している。
どうせみんな赤ずきんから離れない。
そう思ったのが間違いだった。
赤ずきんより早くこの場所に来るなんて……
イライラしているうちにヴィランたちは全てやられてしまった。
「……仕方ない」
カオステラーは、お婆さんの家に向かおうと立ち上がる。
そろそろオオカミが来る頃だ。オオカミを仕留めよう。どうせあのオオカミだってあの壁のせいで入れない……
「クルゥゥ……ッ」
その時、この場にはいないはずの下僕の声が聞こえ、猟師は驚く。すると、前から走ってくる下僕の姿が目に入った。
「クルックルックルルゥ……クルゥ……ッ」
「……なに!?」
ヴィランの報告は、壁の先にオオカミが現れたというものだった。
「どこかに抜け道があったのか……?それとも、またあの女の変な力か……?」
振り向くと、あの女と他に3人、おばあさんの家のある方に走り出した。
「……赤ずきんの護衛は1人か……」
カオステラーは、赤ずきんの保護用に少しだけヴィランを放ち、おばあさんの家に向かった。
カオステラーの心は、悔しさで溢れていた。
目にはほんの少し涙がたまっている。
「ずっと、ずっとこんな運命嫌だった……。どうせなら、助けたいと思うのは当然じゃないか」
カオステラー、それはこの想区の猟師だった男。彼の運命では、赤ずきんを殺したオオカミを射殺することになっている。
それは、これからの被害をなくすため。
「どうして……どうして、そんな運命受け入れるんだ」
彼女の運命は……彼女の存在価値は、殺されることで『人々の教訓となること』だった。
「僕は、笑顔溢れるあの少女に……赤ずきんにこれからも幸せに生きてほしいだけなのに」
始めは好奇心だった。
オオカミに殺されてしまう少女がいったいどんな少女だったのか。それを知りたくて見に行った。
そこにいたのは、とても素直で優しい良い子だった。
「どうしてうまくいかないんだ」
なんとなく、観察していた。
どうして、あんな子が殺されなくてはならないんだろう、と疑問に思ったのだ。
そんな時、見たのはおかしな姿をしたあの女。
「あの変な壁も、町に近づけないのも……おかしいじゃないか……おかしいじゃないか……っ!」
ここらでは見ない格好、狐のような耳。
人間にあるはずのない、尻尾……
怖かった。あんな化け物が、どうしてあの子の町が近いこんな場所に……と思ったのだ。
この脅威をどうにかしなくてはいけないと思ったのに、恐怖でただ観察することしかできなかった。
「あの女が原因なのはわかってるんだ。あの女さえいなければ……」
あの女を見つけて3日目のことだった。
たまに動くのが見えるが、ほぼ横になったまま動かないその女に、赤ずきんが気づき、話しかけた。
離れていったと思ったら、あの女の人間ではない部分、つまり耳と尻尾が隠れるようなずきんとローブを持って戻ってきた。それは赤ずきんと同じ赤い色で、それをプレゼントされた女はそれからずっと赤ずきんの隣にいるようになった。
「どうして僕の気持ちは伝わらないんだ……」
でも、おかげでどうして赤ずきんが死ななくてはならないのか、わかった気がした。
警戒心のない純粋無垢な素直さ。
だから、オオカミを見ても怖いなんて思わないんだ。
きっと、何でもかんでも信じてしまって、その結末なんだ。
「死なせてたまるか」
何がなんでも守りたい。そう思った。
でも、何もできない。
どんなに言葉を尽くしても、誰も取り合ってくれなかった。気にもとめなかった。
それが悔しかった……。
いつの間にか、心が黒くなっていった。
「どんなことをしても、彼女を死なせない」
手段なんて選ばない……いや、選んでられない。
どうする?オオカミを根絶やしにする?
そんなこと、できるだろうか。
いや、やってみせる。
いつの間にか、力を手にいれていた。
忠実な下僕たち。オオカミ退治を命令して、これで全てがうまくいくと、そう思ったのに。
狩りはうまくいかなかった。
最初に15匹程度仕留めたが、それ以降うまくいかなくなった。
見つからなくなった。
気配がしても、見えない壁に阻まれる。
オオカミを根絶やしにするのは断念するしかなかった。
「おの女……やっぱりオオカミの、獣の味方じゃないか」
その次に考えたのはおばあさんのこと。
突き止めたんだ。彼女が森に行く理由を。
忠実な下僕たちが、教えてくれた。
森に行くのはおばあさんに会うため。
それなら話は簡単だ。おばあさんをなきものにすれば良い。
けれど、既にあの女に手をうたれていた。
透明の壁。それは、その家の周囲を覆うようにあった。
もう、打つ手がなくなってしまったために、とりあえずは下僕を森に配置した。
命令はひとつ。
『見つけ次第、オオカミとあの村の子ども以外全員を殺せ』
それでも、大した実績はなかった。
オオカミのいそうな場所、お婆さんの家、あの村。その3ヵ所が透明の壁によって近づけなくなっていた。
そんな能力、この世界には存在しないはずだ。
つまり、外部から来た力。十中八九間違いないだろう。どうせあの女だ。
「絶対に……」
助けて見せる。
「おばあさんは死んだ。このままでは次は赤ずきんの番だ……。とりあえず、あの壁をなくすためにも、あの女を仕留めるか……」
猟師はおばあさんの家の少し手前で、茜が来るのを待った。
茜が現れたら、猟銃で狙い打つ。
「俺は猟師だ。狩れない獣なんていない……!」
カオステラーである彼の目は、獣を狩る者の目だった。
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