第2話 赤ずきんの願い
調律の巫女御一行―――それは調律の巫女であるレイナと、空白の書の持ち主であるタオ、シェイン、エクスの四人のこと。調律の巫女と呼ばれるレイナには空白の書以外に想区を『調律』するという能力を持っていた。その能力はストーリーテラーによって定められた運命に逆らう存在……混沌の元凶であるカオステラーにとりつかれた者を止め、調律することで運命を元通りにするものであり、一行はカオステラーの現れた想区を調律するために旅をしていた。
「さて、自己紹介はこんなところでいいかしら」
レイナは、赤ずきんの要望に答え名乗るついでに、自分たちのことや旅について、そしてその目的を説明した。
「んー、信じられないと言いたいところだけど……」
すべてを聞いた赤ずきんは、困ったような顔をして言葉を濁した。
赤ずきんと共に現れた女性は、赤ずきんの隣で静かに話を聞いていた。しかし、困り顔の赤ずきんを横目で見て、おもしろおかしいというように目を細めた。
「まぁ、そのカオステラーとやらの話が本当ならば、色々説明が着くのぅ」
少し小さな声で、しかし四人にもしっかりと聞こえる声で赤ずきんの隣の女性は意味あり気に笑った。
「あ。ちょっと!茜!?」
その言葉と赤ずきんの反応に、レイナは確信する。
「何か、心当たりがあるのね?」
その言葉に、赤ずきんは下を向いてしまった。赤ずきんに答える気配はない。
そこにあるのは沈黙。
「……あのー、ちょっと聞いてもいいですかね?」
気まずい沈黙を破ったのは、シェインだった。
「…なぁに?」
赤ずきんは、シェインの方を見る。
「隣の……あかねさんでしたか?この方は赤ずきんさんの何ですか?」
シェインの質問にタオが同意する。
「あー、それ、俺も気になってた。お嬢も実は気になってんだろ」
「やだもう~、気にしないようにしてたのに!」
赤ずきんは赤ずきんで、茜がこの四人と出会ってからまだ自己紹介はしてないし、言葉も2回くらいしか発していなかったことに気付いた。
ちらりと茜の方を見ると、茜と目が合う。
赤ずきんはレイナの方を見て「茜は私の友達だよ」と宣言してにこりと笑った。
その笑顔を見た茜は、レイナをじっと見つめる。
その視線に気付いたのはエクスだった。
「茜さん、レイナがどうかしたの?」
その言葉でレイナも自分が見つめられていることに気づく。
「お主らは、運命をねじ曲げようとする
茜の質問に、レイナは「そうよ」と答えた。その反応に、茜はさらに質問を重ねる。
「では、その運命をねじ曲げようとする輩は殺すのかえ?」
殺すという単語に赤ずきんがビクッと反応した。レイナが答える前に、エクスが口を開いていた。
「僕たちは、前にも赤ずきんちゃんが主人公の想区に行ったことがあるんだ。そこでは主人公である赤ずきんちゃん自身がカオステラーにとりつかれていた」
突然語りだしたエクスの言葉に赤ずきんは驚き、「えっ!?」と声を漏らした。
エクスはちらりとレイナを見て、また赤ずきんへと視線を戻す。
「その想区でも、カオステラーを止めて調律をしたんだ。きっと、その想区ではきっと今でも赤ずきんちゃんは幸せに暮らしてる」
優しい目で遠くを見つめるエクスとエクスの語った話の結末に、赤ずきんはほっと一息つく。
それを見た茜は口を開いた。
「そうか。では調律の巫女御一行よ、この子の望みを叶える協力をしてもらえぬかの?」
「茜!?」
「よいではないか。この者たちは戦えるようじゃし、目的は正しい運命に導くこと、らしいからの」
茜の言葉に、赤ずきんは口ごもる。
茜はレイナを見つめ、「どうじゃ?」と答えを催促する。
「……その子の望みって何なの?」
レイナは茜を見つめ返すが、茜は森の方へと視線を向けてしまう。
そして、スゥっと目を細め、言葉を紡いだ。
「この子の望みは運命をまっとうすることじゃ。……しかし、それを邪魔立てする男がいての」
邪魔という言葉に、レイナが反応する。
「邪魔って……」
その反応に、茜はレイナの方を見て鼻で笑う。
「……フン。お主らの探すカオステラーとやらに取り憑かれておるのは恐らくそやつじゃ」
茜はちらりとエクスの方を見たが、もう一度レイナに視線を戻す。
「しかし、赤ずきんは自分以外の犠牲を極端に嫌がっていてな」
「待て待て!犠牲ってまさか……」
犠牲という言葉にくいついたのはタオだった。その反応を見越していたのか、茜は眉ひとつ動かすことなく、話を続けた。
「主らが以前行ったという想区ではきっと今でも赤ずきんが幸せに暮らしてるといったな」
エクスはこくりと小さくうなずく。
しかし茜はエクスの方を見ることはせず、空を見上げ、この想区の赤ずきんに定められた残酷な運命を告げた。
「この想区に、そんな運命は存在しない。この子は狼に喰われ、死ぬ運命じゃ」
茜の言葉に一行に衝撃が走る。
「そんな運命をまっとうするのが、そいつの望みなのか?」
タオが1人異論を唱えると、赤ずきんが答えた。
「そうだよ。でも、それを阻止しようとする人がいるの。私はこの運命を受け入れてる。なのに、助けたいって……」
その言葉にタオは言葉が出なくなる。
赤ずきんの言葉に、茜が情報を補足する。
「最初は言葉だけじゃった。しかし、ある時から突然森に変な生き物、ヴィランだったな。あやつらが現れだしての。町人にも被害が出るもんじゃから、こうしてたまに町の外に出て退治しているんじゃ。とりあえず、毎日赤ずきんの
一息に説明をした茜は四人の顔を順番に見て、最後にレイナで目を止めた。
「さて、赤ずきんの運命と、この想区の現状はこんなところじゃ。そこで、そこまで聞いた主らに、確かめねばならぬことがある」
「……確かめねばならぬこと?」
エクスが茜の言葉を復唱した瞬間、茜が異様な雰囲気を放った。
「主らもあやつらのように赤ずきんの運命を否定するのかえ?」
その雰囲気に気圧されることなく、レイナは答えた。
「安心しなさい。赤ずきんも運命を受け入れてそれを望んでる。それなら私は……」
「お嬢っ!?」
タオに呼ばれ、レイナは言葉を切ったが、タオの方を見ることはなく、しかし力強く言い切った。
「もちろん、それが本心であれば、よ。それはこれから見極めさせてもらうわ」
レイナの言葉に満足したのか、茜は嬉しそうに目を細め、口角を上げた。
「そうか。ならば問題はあるまい」
(あれ……?)
その時、エクスは茜のシルエットに違和感を覚えた。
「そうね。私たちの目的は調律をすることだし、その望みを叶えることは目的とイコールだもの。問題ないわ」
レイナが茜の言葉に返事を終えると、シェインは森の奥を小さく指差し、小声でレイナを呼んだ。
「……姉御」
レイナがシェインの指差した方を見る。それに気付いたタオやエクス、そして茜がレイナが向いた方向を見ると、そこにはヴィランがこっちに向かってきているのが見えた。
茜は丁度よいなと四人を見た。
「さて主らのお手並み拝見といこうかの。赤ずきん、わしの近くを離れるでないぞ!」
茜は四人に向け不敵な笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんたちスゴいね!!なぁに、あれ!?変身してた!」
ヴィランたちを退けた一行を待っていたのは、目をキラキラさせた赤ずきんの質問だった。
「……その前に、1つ聞いていいかしら」
レイナは少し離れたところにいる茜の方を見た。どうやら茜はエクスに話しかけられているようだ。
「お姉ちゃん、茜がどーかしたの?」
レイナは茜のことを赤ずきんの友達ということしか知らない。それは彼女の話になったとき、すぐに彼女によって話題が変えられたからである。
「彼女、いったい何者なの?身のこなしがどうみても普通じゃ……」
レイナは戦闘時の動きを見て、茜はこの想区とは釣り合わない感じがしたのだった。赤ずきんの想区は狼こそいるものの、あんなに戦えるようになるほどの強さは恐らく要らない。
「あ……うん」
赤ずきんは、頷いて、そのまま下を向いてしまった。
「……?」
レイナもどうすればいいのかわからず、赤ずきんを見つめる。
「……ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんたちに1つ、お願いしてもいいかな」
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