赤ずきんのトモダチ
如月李緒
第1話 赤ずきんの想区
沈黙の霧――それは想区と呼ばれる世界を繋ぐ空間。沈黙の霧は、あらゆる言葉や概念を飲み込んでしまう。
そんな沈黙の霧の中を突き進む一行がいた。
それは空白の書と呼ばれる運命の書を持った、この世界では異質とされる存在である四人組。
この世界では、生まれたときに一冊の本を与えられる。それは、運命の書。
運命の書には本来、その持ち主の運命が書いてある。夢が叶う運命がかかれている者もいるし、不幸になる運命がかかれている者もいる。
全智の存在ストーリーテラーによって決められた運命……。
本を与えられたものはその運命を背負い、その役を生まれてから死ぬまで演じ続ける。それがこの世界の人々の生き方。
運命を演じて生きることが普通の生き方なのだ。
しかし、空白の項しかない運命の書――空白の書には、運命は何も記されていない。だからこそ、異質なのだ。
空白の書の持ち主がどんな一生を過ごすのか。
それは誰にもわからない。すべては本人次第――――
「ここは……」
沈黙の霧を抜けると、そこは、見覚えのある峠道だった。
「赤ずきんの想区かしら」
レイナは辺りを見回しながら言った。
それは以前訪れた赤ずきんの想区にとても似ていた。
「……赤ずきん、か。だとしたらここの想区はどんな結末なんだろうな」
レイナの言葉にタオが苦い表情を浮かべて呟いた。
その言葉の表情の意味がわかっているために、四人をどんよりとした空気が覆う。それを吹き飛ばすように、エクスが声をあげた。
「まだ、赤ずきんの想区とは限らないし、とりあえず、情報を集めない?」
「シェインもその方がいいと思います。でもその前に……」
シェインが見つめる木々の先で、何かが蠢いた。
「……あぁ、あいつらをどーにかしねーとな」
タオは不敵な笑みを浮かべた。
「みんな準備はいいわね?いくわよっ!」
レイナは導きの栞を手にみんなに声をかけるのだった。
「もう!どれだけいるのよ!!」
いくら倒しても全く減らない敵――ヴィランの姿にレイナが叫んだ。
「これはちょっと厳しいんじゃないかな…?」
エクスは肩で息をしていた。そして、少し離れたところで戦っているシェインやタオもかなり疲れてきているようで、動きが徐々に鈍ってきているのが見えた。
「クソッ!」
「タオ兄、これはいうまでもなく絶体絶命ってヤツですよ」
シェインが横目でレイナたちの様子を見ながらタオに声をかけた。
「わぁーってるよ!」
――こんなことなら、前の想区でちゃんと休んどくんだったな……
タオにも、これがいかに危険な状態かよくわかっていた。
ここに来る前の想区でも戦い詰めだった。その疲れがまだ、みんなにも残っているのだ。
どうしたらいいのか、タオが考えていると、突然森の方から声が響いた。
「
声のした方に視線をやると丁度ヴィランがこちらに吹っ飛ばされたところだった。
「――!」
一瞬、キラリと何かが光った。
それは戦いの光だろう。
「タオ兄!誰かが戦ってるみたいです!!」
シェインの言葉に疲労が見せた幻覚ではなかったのだとタオは安堵する。
(ヴィランと戦ってるってことは敵じゃあねーな。とりあえずここを乗り切れば……)
タオはまだ気づいていない二人に声を張り上げた。
「お嬢!俺たち以外にも誰か戦ってるみてーだからよ、もう少し頑張ろーぜ!!」
その声が聞こえたエクスは、レイナの方を見る。
レイナは四人のなかで一番バテているようだった。
エクスはレイナを援護しながらヴィランと交戦し、徐々にレイナに近づいていく。
「レイナ!聞こえたっ!?」
「えぇ…!聞こえた…わ。とり…あえず、頑張り…ましょう…っ!」
息も絶え絶えとしているその声とは裏腹に、レイナの目には力強い光が宿っていたのだった。
どうにかヴィランを
「はぁ……はぁ……」
ぐったりとするエクスたちの前に、森の方から、先程まで森の中でヴィランを相手に戦っていたと思われる二人が姿を表すのだった。
「あ、やっぱり!!茜、こっちでも人が戦っていたんだよ」
「……そのようじゃの」
現れたのは赤い頭巾を被る少女と、女性だった。そして……
「みなさんはじめまして!私は赤ずきん。あなたたちは?」
……少女は赤ずきんを名乗るのだった。
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