abnormal ability

から揚げ

出会い

ある冬の日。今年一番の冷え込みを見せた日でもある。

「今日は本当に冷えるな....」

神宮寺 司はバイトから自宅へ帰る途中だった。

彼は大学生3年生であり居酒屋でアルバイトをしている。

「腹減ったな...ラーメン食いてえ」

時刻は深夜2時、遠回りではあるが大通りまで出れば朝5時まで営業しているラーメン屋がある。

「明日は休みだし少し歩くか」

彼は大通りまで出てラーメン屋へ歩いて向かった。

大学3年の冬。世間から見れば就活生であるが彼は就職活動と言うほどの活動は行っていない。周りの同級生は自分のやりたい仕事を決めて就職活動をしているが司はやりたい仕事も決まらず、企業説明会へ話を聞いて帰るだけの就活生である。周りとの温度差に少し焦りもあるが自分の中で答えが決まらないままなのである。

「このままだとマジでフリーターかニートだな...でも、興味のない仕事を一生続けるのは嫌なんだよな...みんなは何であんなに自分のしたい仕事が決まるんだろう...」

大学に行ったら聞いてみようと考えながら大通りまで出た。ラーメン屋までは後もう少しで着く所まで来たが、ここで今までに聞いたことのない大きな爆発音が司の耳に入る。

ガス爆発事故なのか、それともテロがあったのか、何にせよ司は爆発音である事だけは確信していた。


「...マジかよ!何が起きたんだよ!」

司は爆発音が聞こえた方角に向かって走った。


司が走って着いた場所は大通りの少し外れにある大きな月極め駐車場である。


司の眼前にある風景は今まで生きて来た中であまりにも非常識であり非日常的な風景だった。

赤髪で二つ結びの少女と短髪の男が向き合って立っている。

二人の間には燃え上がっている車が一台。

少女の手からは炎が出ており、男は片手で車を持っている。


司は目の前で起こっている事に対して理解が追い付かない。いや、理解が出来ないのである。


「嬢ちゃんすげぇなぁ!炎を操る奴なんて初めて見たぜぇ」

男が嬉々として少女に話しかける。


「私もこんなに頭の悪いゴリラは始めて見たわ。車を投げるしか脳が無いなんて」

少女は嫌味ったらしく淡々と答えた。


「嬢ちゃん...あんた死んだぜッ!!」


男が持っていた車を少女に向かって投げる。


風を切りながら物凄いスピードで少女に車が迫る。


戦いの外から見ていた司は間違いなく少女が車に巻き込まれると確信していた。


そして少女が居た位置で男が投げた車が爆発した。


「フッ...ハッーハッハッハッハァッ!!炎が使えようと車に当たって爆発すりゃひとたまりもねぇよなぁぁあ!!」


男が高らかに笑う。勝利を確信し悦に浸っている。燃え上がっている車まで高らかに笑いながら向かっている。


「純粋な力なんだよ!何よりもな!!力が強い奴が強いんだよ!!このくそガキが!!」


圧倒的な力。男の持つ異常な力。

司は目の前で起こっている事に目が離せないというよりもただ見てることしか出来なかった。

少女が車に巻き込まれた事よりも目の前で起こっている事に対して唖然とするしか無かった。

「どういう事だよ...これは...」

彼の中にある常識には無い漫画やアニメの用な風景が目の前で起こっている事にショックを隠し切れない。

自分自身の頭がおかしくなったのかと疑ってしまっている。


「すげぇ奴が居ると思ってテンション上がっちまったがたいしたことなかったな。まぁ所詮はただのガキだったって事か!」

男が燃えてる車を眺めながら物足りなさそうに愚痴を言いその場から去ろうとした。



「本当に...車を投げるしか脳が無いみたいね」


爆発に巻き込まれと思われた少女の声が聞こえる。


「なにッ?!」

男が横に振り向いたが、その時にはもう目の前は炎しか見えていない、

「ーーーーーーーーーッ」

声にならない叫び。男は少女の炎に焼かれている。


「殺しはしないわ。殺したら始末書書かなくちゃいけないのよ。」

男の意識は飛んでいる。気絶しているのである。


司は少女が生きている事に驚き、そのまま少女が炎で男を気絶させ勝利している事にも驚いた。

「...これ...マジかよ...どう...なってん...だよ」

司はパニック状態である。

炎を操る少女。車を片手で持ち上げる男。

誰がどう見ても異常な事である。

目の前で起きた事が現実なのか疑うレベルであり、さらに言うと司自身が本当に司自身なのか解らなくなるほど脳内で考えが飛び回っている。


「あんた、私の炎を見たわね?」

司が顔を上げると目の前には炎を操ってた少女がいた。

「さすがに車を爆発させたのが失敗だったかな」

司は少女を見る事しかできない事に気付いた。司は地べたに座っており完璧に腰が抜けているのである。

「今の戦いはあなたには全く関係ないわ。ごめんね。」


少女は優しく左手を司の目に被せた。

司は焦り少女に話しかけた。

「待って!今の戦いは現実で俺の知らない所であの人間離れした動きや行動を」


「ごめんなさい。貴方には話せないし話しても無駄になるから...」


少女は左手を司に被せたまま

「ロスト・メモリー」


その一言を発した瞬間に司の意識は飛んだ。

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