第24話:答え(M)
翌夕、カナはレイコをつれて、MITAKAGemesを訪問した。
昨晩の話をレイコに話すと、「若いって言っても、立派な絵描きだねぇ」と笑っていた。彼女も、絵描きへの返答を間違えて、何度も痛い目を見たことがあるという。
「馬鹿にしてるわけじゃないよ、感性がデリケートなんだろうという話」
「今日は、正直に評価しますか?」
「正直に評価するけど、それを口にするかどうかはわからないかな」
レイコは、応対に現れたコナツに会釈をしてMITAKAGemesのオフィスに入った。
その後ろを歩きながら、カナは(それは正直に評価しないということでは?)と疑念を覚えた。
オフィスのドアの横にあるテーブルの上には、ミサキの絵が並べられていた。
すでにトモミが確認作業をしていて、一枚一枚手にとって吟味している。
「どれどれ~」
レイコは、壁際に荷物を置くとトモミと同じように絵を手にした。
その場にミサキの姿が見えない事に気づき、カナはコナツに尋ねた。
「篠田さんは、今日は?」
「席にいます。結果が出たら呼んでほしいと……、まだ納得言ってないみたいですね……」
「そうですか」
昨日、自分とあったことをは言ってないないのだろうか、とコナツの発言を聞いてカナはふと思った。まるで、カナがミサキが納得してないことを知らないで話しているようである。
4人で品評会を進め、一通り見終わったところで、着席した。
「どうでした?」
レイコは探るようにトモミに尋ねた。
「及第点かな。もうちょっとイケルと思うんだけど、今の時点でやりきれることはやったと思う」
「コナツさんは?」
トモミの言葉を聞いたレイコは、隣りに座るコナツに話を振った。
「私も同じ意見です。彼女の現在の実力――本意ではないにしても、お客さんに提供できる内容だと思います」
「OK。じゃ、カナは?」
カナは、昨晩ミサキに話した内容をそのままレイコに伝えた。もちろん既に話しているので、トモミとコナツへのパフォーマンスになるが。
3人の話を聞き終わったレイコは、ふーっと大きく息をついて腕組みをした。考え事をするように目を閉じる。
判断は、多数決ではない。
お金の管理と売上の責任を取るプロデューサが最後に判断を決めなければ行けないのだ。
レイコは、口を開いた。
「私も、及第点だとは思う。既存のフィックスの商品と比較するとクオリティに満たない部分があるが、新規ブランドと考えると、既存と違うことは十分にメリットになる。違うからこそ、新規ブランドとして立たせることが可能だと思うわけだが……、もうひと押し足りないと言うのもストレートな意見だな~。才能はないわけではないと思うし、それが今の時点で発揮できてないと言うのもわかる。でもお客さんはごまかせないからね。今の絵には、頑張ろうと言う気持ちの他に、恐る恐る描いている雰囲気がつきまとってるんだよ。若さ――勢いがない。だからイマイチ載ってこない。ダメで元々だから、一気に筆を走らせるような……、フックになる荒々しさがあればいいんだけど。本人の性格かな?」
レイコの評価に、トモミとコナツは顔を見合わせた。
ミサキと話をしたカナが思うには、ミサキの向上心やモチベーションは非常に高く、レイコが言う性格の弱さではないように思えた。
カナもトモミとコナツに視線を移した。
ふたりは心当たりがなにかあるのか、目配せをしている。
「何か、気になる点でも?」
レイコがすかさず切り込む。
コナツは、首を傾げつつも、
「もしかしたら、デジタルでの描画に慣れてないところが、恐る恐る描いているというところにつながってるんじゃないなと。彼女は、10年くらいずっとアナログで描いてきて、デジタルでの描画経験は学生時代少しあるだけで、本格的な実践は今回が初めてなんです」
一瞬、眉をひそめたレイコは、告げた。
「アナログ絵、あります?」
コナツは、ミサキに就活のときに送ってきた作品を持ってこさせた。
レイコはそれを見るなら、声を荒げた!
「これだよ!! なんでこれを最初に見せないの!?」
何枚もある作品を見ながら、レイコは何時になく目を輝かせていた。
「ちゃんと魅力的な絵描けるじゃん!」
カナもレイコの隣で、ミサキの才能に驚きを隠せなかった。
活き活きしてる。
描画されている人物、風景、どれをとっても血が通った空気感が見て取れた。
すべての絵を見終えたレイコは、顔を上げて不敵に唇を歪める。
「わかったよ。ミサキちゃん、アナログで全部書き直しな」
レイコの言葉に、全員が驚愕した。
「全部書き直しは、スケジュール上厳しいのでは? それにアナログで描かれると、デジタルに持っていった後の調整が係ると思われますし」コナツが真っ先に言った。
「主役を先に描いて、それベースにスキャン後の調整内容をまとめるのはどう? その後関連するUIを作成していけば――全部出来上がってから調整するんじゃなくて」
コナツは、一寸思案して「今すぐジャッジは出来ませんが、おそらく……可能だと。しかし、リスクがないわけではありません」と言った。
「ミサキちゃんに、任せるなら、私も含めてリスクを追うよ。トモミ、コナツはその覚悟あるから、ミサキに任せてたんじゃないの?」
ふたりは、レイコに指摘されて、目をギラりと輝かせる。
「わかりました。開発のことは私たちで調整します」
レイコは次に、ミサキに目を向けた。
「どうかな?」
ミサキは突然のことに呆然としているだけで、すぐに返答できない様子だった。
レイコ、トモミ、コナツ、そしてカナはそれぞれミサキの言葉を待った。
彼女は心を落ち着けるように胸の前で両手をギュッと握りしめる。
「やります、絶対いい絵を描きます!」
意思の込められた決断だった。
ミサキは1週間でキャラクターを描き直し、全員が納得行く絵を描き上げた。
その後、MITAKAGemesのベテラングラフィッカー中田アツコがスキャンとトリミング、ゲームに実装できるように――元の原画の良さをそのまま実装できるようにカラーバランスなどの微調整を加え、ようやく1体メインキャラクターが完成した。
職業戦士を象徴するキャラクター:アレース
そして、本プロダクションが始まって、2ヶ月が過ぎようとしていた。
発売=リリースまで、残すところ半年。
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