第三話 勇者の洞窟
霧の晴れた先、そこはまた違う世界が広がっていた。
遠くに明かりの見える洞窟、そこを進んでいくと一つの空間が現れた。
円形状のその空間は、周囲が岩でできた崖になっていて、中央には円い池ができている。一行が現れた洞窟と池を挟んだ向かい側には見事な滝ができている。
遥か上空を見上げてみると、池の丁度真上に円形の空が見え、その円周である道の上には木々が生い茂り自然と天井のようになっていた。
辺りに響くのは、滝の水飛沫を上げて落ちる音と、時折吹く風で揺らぐ木々の音、小鳥の囀り、そして……ヴィランたちの声。
池の周囲、道になっているところにはおびただしい量のヴィランが闊歩していた。
出口の目前でその光景を目の当たりにした一行は、それぞれが反射的に栞を出していた。アレンは、いつもの大剣を更に大きくしていた。
出ると同時に一斉にヴィランに襲いかかる。不意を衝かれたのか、ヴィランたちは最初こそ混乱したものの、すぐに敵を認識して戦闘態勢に入った。しかしこの一行を相手にしたのが運の尽き、あるものは大剣、あるものは魔法、あるものは槍、と多種多様な武器の前になすすべなく撃破されていった。
ヴィランの声が消え本来の音たちが姿を現したころ、全員はようやく周りを見ることができた。
「なんてきれいな……」
一番に声を出したのはレイナだった。その場にいる全員ではない、ここに来る誰もが思うであろう感想だった。
「あ、あれ?」
その直後、滝の近くにいたアレンが直立していた。
「どうしたの?」
エクスが駆け寄ると、焦燥をまとった顔で振り向く。
「この滝の後ろ側に、洞窟の入り口があるはずなんだけど……」
「あるはずって言われても、何もないじゃないか」
円い空間の円周にある道は、そのまま滝の裏側を通っていた。近づけば滝の裏側を見ることができるが、そこには何の変哲もない壁があるだけだった。
「だから焦ってるのよ、逃げてきたときはここから出たのに……」
「さっきみたいになんでも創れるのなら、入り口も作創れるんじゃないか?」
「私はあくまでも代役、セレンの創らないものを創ることや勝手に改変することはしないわ」
「だからさっきもすぐに消したし、大きなものは創らなかったのね……ってあれ?シェイン?」
辺りを見回していたレイナが反対側にいたシェインに声をかける。
「こんなところにボタンがありますよ」
壁に向かったままそういうと、シェインはボタンを押した。すると、滝の後ろの壁が崩れ、アレンの言った通り洞窟の入り口が現れた。
「そういう仕掛けですか」
「つーか、なんで作った本人の代役がこの仕掛けを知らないんだよ」
「セレンはこんな仕掛け作ってなかったわ」
「ってことはヴィランたち!?」
「カオステラーでしょうね、もうここまで影響が出てるとは……」
アレンが入口へ向かうとともに、エクスたちも続いていく。
洞窟内は薄暗く、壁にかかった頼りない松明が風で時折揺れている。ずっと奥は暗くなっていて、入り口からどれくらいの長さまであるかは目測することができない。
アレンは恐れることなく進んで行く。さすがは作り手、といったところだろうか。
入り口の近くにヴィランたちの姿はなく、しばらくの一本道を進んで行った。
「アレン、ここはどういう世界なんだい?」
退屈したのか、エクスはアレンにこの世界についての疑問を投げた。
「冒険ができる世界、そうして作られた世界よ。この洞窟はちょっとした迷路になっていて、たまに宝箱とかあるわ」
「ちょっとまて、道わかるのか?」
タオは入り口の事があってか、洞窟に関してのアレンの知識が疑うべきものとなっていた。
レイナも同じだった。その理由は、カオステラーに書き換えられていないかというものだった。
「大丈夫、道は知ってるから」
「だといいけれど」
そう言っていると、道が二手に分かれているところに来た。
「ここは右」
言った通り右を進んで行くと、また分かれ道が現れた。
「今度は左」
そうやってアレンの通りに進んで行く。
三度目の分かれ道を過ぎたとき、冒険にありがちな敵のようにヴィランが現れた。すっかり油断していた四人は驚いたが、相手は一体だったためにアレンが倒してしまった。
「何、気を抜いてるの? ここは冒険の世界、勇者の洞窟よ。戦える準備はしておかないと」
そう言い放ち先へ進んで行くアレンに、四人は何も言えずただ栞を構えてついていくしかなかった。
先に進むにつれて枝分かれは多くなり、四方向に分かれている道が現れたり、急勾配の坂が現れたり、次第にヴィランの数も多くなっていった。
幸いにもカオステラーの改ざんは入り口の仕掛けのみの様で、道自体は何も変わっていなかったようだ。
右に折れた道を曲がったとき、奥に光が見えてきた。
「あそこがゴール、世界の端よ」
そう言ってアレンはどんどん進んで行く。しかし、冒険はそうやすやすとは終わらない。行く手にはまた大量のヴィラン、しかもかなり強いやつもちらほら見える。
「ここを通るしかないの? ……疲れたぁ」
「いつものことだろ」
「お疲れですけど、もうすぐですよ姉御」
「すぐに片づけよう」
疲れ切っているが、全員でヴィランに挑んでいく。しかし、疲れなど微塵も感じさせない動きがヴィランたちを捕らえていく。
間もなく、ヴィランは完全にその場から消え去り、洞窟の外へ出た。
広い野原の中央に、ぽつんと置かれた宝箱。そしてその奥には、あの霧。
「やっとクリアね……」
レイナはもう動きたくなかった。それもそうだ、歩き回って戦って、どこぞの勇者のようにしてここまで来たのだ。声には疲労が目に見える。
「このまま城へも行けるんだけど……疲れてるなら街へ行く?少し休めるかもしれないし、私も用があるから」
「行くわ、早く案内して」
アレンの言葉に即座に反応するレイナ、誰もがその速さに驚く。
「わかったわ」
少し笑いながらアレンは歩き、宝箱を素通りして霧の前まで歩く。
「ちなみにこの箱の中身は?」
霧に入る前に、宝箱を開けたシェインの質問に答える。
「確か……剣とかなんとかだったわね」
「もう誰かに取られちゃってますか……残念です」
その声には本当に残念そうな、子供の感情が見て取れた。
「シェイン、早くいくぞ」
「待ってくださいタオ兄」
また霧の中を進んで行く。洞窟のような狭い感覚はないが、どこへ向かっているのかわからない不安感は一緒だ。この先にある街は、どんな景色になっているのか、その期待を胸に進んで行く。
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