第15話
十五、
目を覚ましたとき、はじめて私は眠っていたことに気づく。しかし、夢を見た記憶すらなかった。さらに言えば、入眠時の記憶もなかった。いったいいつ眠ったのか、それすらまったく覚えていない。
ひどく薄暗い部屋だと思った。
高泊の駐屯地にいるのだ、そう私の思考は判断していた。やや混乱していたのだろうが、目覚めた私の視界には、狭く簡素なインテリアが目につくだけで、それはイコール、駐屯地の自室で眠っていたのだと判断する有力な材料になっていたからだ。
だが、すぐに私は思い出す。
記憶の混乱も数秒でおさまる。
なぜなら、私は、私たちはそういう訓練を受けてきたからだ。反復的に。あるいは、医科学的処置として、直接身体を調律(チューニング)して。
格子の入った窓。窓自体がさほど大きくないのは、冬を主眼にした造りだからだ。二重窓。厚手のカーテン。柚辺尾の私の実家の窓を思い出す。北国のそれだ。
木張りの壁。部屋に隅に置いてあるのは、木製の簡素なデスク。そのほかに家具は何もない。私は横を向いて眠っていた。目を開くと部屋は薄暗かったが、窓から淡く光が漏れていたから、夜中ではないのだろう。天井からはこれまた簡素なランプシェードと白熱球が下がっている。
懐かしい匂いがした。布団からだ。誰かの匂いがする。姉の匂いに似ていた。長姉の匂いだ。小さいころ、私はよく姉の部屋に泊まりに行った。姉は博識で、小説から図鑑から果ては経典に至るまで、諳んじて私に話して聞かせてくれた。思えば、私が都野崎の帝国大学へ進学する遠因の一つは、そうした姉の語りだったのだろう。姉は幼い私の問いに、丁寧に詳しく、必ず答えてくれた。即答できないことは宿題にし、時間をかけても必ず答えてくれたのだ。
その姉とはいつから会っていないだろう。
柚辺尾の家には、いつから帰っていないだろう。
私が陸軍に入隊することは、祖父を除けば全員がいい顔をしなかった。なんのためにわざわざ都野崎の帝大に入学したのか。なぜ戦場に最も近いといわれる陸軍に入隊したのか。
これがたとえば私が進学先に国防大を選んでいたなら、あるいは士官学校を目指したのなら話は違ったと思う。軍人になることに反対されたのではなく、都野崎帝大の、それも文科系学部から陸軍に入隊したこと、それも下士官養成課程を志願したことが、私の家族はみな解せなかったのだ。大学卒なら、ふつうは士官学校か国防大学を志願する。部隊配属と同時に少尉に任官され、いきなり部下は二十人だ。私はそうせず、下士官養成課程を受験し、あろうことか特殊作戦部隊を志願した。
私が第五五派遣隊に所属していることは、家族はみな知っている。だが、第五五派遣隊の任務を家族は知らない。表向きに、五五派遣隊はどこの方面軍にも師団にも属せず、統合幕僚監部直轄の部隊として存在している。人材不足の部隊がいるならそこを充足させるために派遣されるタスクフォースの一種、ということにされている。もちろん実態は違うのだが。国防省も公式にはそう発表している。どこにも五五派遣隊が特殊作戦部隊だと明記されてはいないし、事実上は連隊規模の組織であり、いわゆる「兵卒」がほぼいないこと、ほぼ全員が下士官以上の階級であり、部隊指揮官としての教育も受けていること、一般部隊とはまったく異なる装備と、訓練と、作戦を行っていること、それらは一切伏せられているのだ。もともと陸軍の組織図には、その名のとおりの特殊作戦部隊が存在している。広報や統幕が発表する資料には、仰々しい装備やバラクラバで顔を隠す謎めいた隊員たちの姿が映し出され、実際、そうした特殊作戦には全面的に彼らが参加する。
翻って私たち第五五派遣隊は、表向きに前線の人材補充部隊として認識されているため、あけっぴろげに報道されたりはしない。訓練も非公開で、一般部隊の兵士たちからですら、「なにをしているのかわからない部隊」「員数合わせのための何でも屋」といった呼ばれ方をしている。そして私たちは公式行事などに参加しても、顔を隠すこともしなければ、仰々しい装備を身に着けることもない。一般部隊と同じ迷彩服を着、一般部隊と同じ小銃を担いで整列するだけだ。実際の作戦で使用する装備をまとってそうした行事に参加することはなかった。
つかみどころのない部隊。
私がその存在と、本当の姿を知ったのは、陸軍の教育隊に配属され、そこでの兵科希望を募られたとき、私の持つ特性を見いだされ、個別に面談を受けたためだ。私は空挺部隊やバラクラバで顔を隠すような特殊部隊を志願していた。だが、面接官が口にした部隊の名前は、「第五五派遣隊」なるつかみどころのない名前だった。一般大学の文科系学部で、夢の意味だの、言葉の意味だの、そうした世の中で到底役に立ちそうもない研究を四年間していた実績と、元空軍パイロットにインタビューしたように、北方戦域で兵士たちが見るという「夢の場所」に強い興味を抱いていた私の特殊性を見抜かれたのだ。身元調査で、私の祖父が元陸軍狙撃兵であることが判明し、私自身がライフルの所持許可と狩猟免許を持ち、狩猟経験を積んでいたことも関係したかもしれないが、詳細はよくわからない。
五五派遣隊の隊員はみなどこかおかしい。一般部隊出身だという南波や、極限状態を日常として体験したいとのたまった蓮見や、同室だった敷香防衛戦で戦死した嶋田准尉、みなおかしな連中だと思う。五五派遣隊にいる動機が分からない。そして、お互いにその動機を自ら話そうとしない。話したところで、その動機が、他人には理解できない。
私は、ワタスゲの原が実在するのか、……パイロットや兵士たちが北方戦域で遭遇した不思議な場所が本当に存在するのか、探したかった。冥府の入り口があるのなら、その入り口まで行ってみたかった。私の動機を端的に話すとすれば、それだけだ。
そうして私は、それまでの日常を失い、非日常が延々と続く日常を手に入れた。
思えば私は、確たる自分の意思で二八年間の人生をまっすぐに歩いてきたとは言えない。ライフルを持ったのも、祖父の猟に同行するようになってからだ。そして、私が自発的にライフルを持ったのではなく、祖父が私にライフルを提供してくれた。引き金を引くのが私自身の意思だとしても、根本的には私の意思でこの道を選んだわけではなかった。
なぜここにいるのか。
自答していた。
私自身に私自身が尋問できるなら、じっくり時間をかけて訊いてみたかった。
なぜ、ここにいるのか。
物理的に、いま、私が、ここにいる理由は……この場所がどこなのかをまず思い出すことから始まる。
私はようやく半身をベッドから起こした。
部屋。
ベッドと机以外に何もない部屋。
あのあと私は蓮見と分かれ、セムピに連れられ、この家に来た。ターニャと呼ばれた中年の女性が待っていた。セムピやイメルら生粋のイルワクとは明らかに人種が違うようで、北方会議同盟(ルーシ)連邦の国民そのものの顔をしていた。私より頭半分背が低く、やや太り気味の身体をしていたが、青く優しい目をしていた。そのまなざしを私はやはり懐かしいと感じた。初夏の北洋州の晴れた空を思わせる瞳に見つめられ、私は強ばった身体が緩むのを感じた。
「ようこそ」
薄汚れた、というより、汚れきった私の両肩にターニャは手を載せ、親愛の情を示してくれた。それに私は戸惑ったのだと思う。その場で返事はできなかった。
「トモ、このターニャがお前の世話をしてくれる。なんでも頼め。まずは水でも浴びて、着替えることだな。こういってはなんだが、ひどい汚れと、……ひどい臭いだ」
セムピの声音はずっと変わらない。私の肩をセムピは一度だけ軽くたたき、そして去っていった。微笑むターニャと、粗末だががっしりした造りの家、そして青く夜の世界に沈みかけた村。私の周りにあるのはそうしたものだった。敵意。そんなものはなかった。ターニャの本当の名前はタチアナと呼ぶのだろうなと漠然と考えながらも、どうでもよくなってきた。
私はターニャに招かれ家に入った。居間では薪ストーブが燃えていた。電気は通っているようだが、この村のインフラ水準は、半世紀前の柚辺尾のレベルに近いだろう。白熱灯に、テーブルに椅子。たとえるならば、長姉が私に話してくれた、北の異国のおとぎ話に出てくるような、そんなしつらえだった。
ターニャは私たちの言葉に堪能だった。ところどころに連邦訛りを感じたが、まったく問題にならなかった。ターニャは優しく私を迎えてくれた。ひどい違和感を覚えた。だが、私の身体はターニャの優しさで一撃に弛緩してしまった。私は居間の真ん中でそのまま崩れるように座り込んでしまった。頭半分下に見えていたターニャの顔が、見上げる位置にあった。笑っていた。
私は泣いた。
なぜか泣いた。
嶋田准尉が宿舎の部屋に帰ってこなかったときにも一滴も流れなかった涙が、あふれた。
ターニャは微笑んだままで、私の頬に手のひらを添えた。暖かかった。
ターニャの手は、私の戦闘用ヘルメットのチンストラップを解き、機能を停止したCIDSごとそっと外し、テーブルの上に置いた。そして、様々なものが沁みこみべっとりとした私の髪を、ターニャは撫でた。
「休みなさい」
私は反射的にうなずいた。
「着替えがあるから、身体を洗ってきなさい。部屋まで案内するからね」
しばらく私は居間で座り込んでいたが、ターニャの言葉に操られるようにして立ち上がり、ゆっくりゆっくりと、部屋まで歩いた。もっとも、正常な体力の私であれば、ほんの数歩でたどりつける距離だった。
私は部屋に入ると、4726自動小銃二挺を肩から降ろした。一刻も早く降ろしたかったのだ。四キロ以上もあるこの三〇口径ライフルはひどく重いのだ。それに、この部屋には場違いすぎると感じていた。それは私の装備もだ。チェストハーネスを外し、腿からはホルスターを外した。メルクア・ポラリスMG-7A拳銃はベルトにランヤードでつながっていたが、それも外した。スライドを引き、薬室から弾を抜く。弾倉も外し、予備弾倉とまとめて壁際にタクティカルベストや背嚢と一緒に置いた。
身体が一気に軽くなった。それだけで倒れそうになった。
装備は二〇キロ近い。長期作戦を考慮していなかったとはいえ、まず弾薬が重い。銃も重い。装備を外すと、本当に身体が軽かった。
ブーツも脱いだ。そして、戦闘服も脱いだ。身体からも戦闘服からもひどい臭いがした。
ふと扉を向くと、ターニャはいなかった。
私はアンダースーツのみを身に着けた格好で、しかも裸足で居間まで戻った。屈んで薪をストーブにくべているターニャがいた。
「おばさん(・・・・)、」
私の口をついて出たのはそんな言葉だった。おばさん。ああ、どうしたというのだろう。
「ああ、脱いだのかい。寒いだろう。こちらへおいで。少し温まりなさい」
私の身体はもう思考ごとターニャに支配されていた。それが苦痛ではなかった。私はターニャの隣にかがみこんだ。自分の臭いが気になった。それ以上に、小気味よい音を立てて燃えるストーブが、何にも勝って暖かく、心地よかった。
「ひと心地ついたら、奥にお風呂場があるからね。使いなさい」
立ち上がったターニャを見上げ、私はまた黙ってうなずいた。
誰にも見せられない。特に南波には。そう思う気持ちが、私の裡のごくごく片隅に存在していたが、そのような思考はもはやどうでもよくなっていた。
三〇分近くストーブに当たっていたと思う。ターニャは狭いキッチンで何事か準備をしていた。夕食だろう。私は勝手に思った。そして、ターニャがこしらえる夕食を心から望んでいる自分に気づいたのだ。なんということだ。
私はようやく立ち上がり、ターニャの言葉通りに風呂場へ向かい、湯を浴び、身体を洗った。浴室は狭かったが、何も不自由を感じなかった。素早く身体を洗ったが、湯の心地よさに全身が絡め取られるような気分だった。
脱衣場には着替えが用意されていた。ターニャや、キロール、そしてセムピやイメルがまとっているのと同じ、フェルト素材の衣類。傍らにはバスタオルまでたたまれていた。身体と髪の水分をぬぐう。生き返る。
ターニャが用意してくれた着替えは、男性用のようだった。ややサイズが大きめだったが、着心地はよかった。乾いた下着と乾いた上着とズボンが、何も言えないほどに気分を軽くしてくれた。
居間からは夕食の匂いが漂っていた。
自動人形のように、私は居間へと歩いた。
自らの意思で身体を動かしている意識はなかった。
テーブルに着くようターニャが促し、私は従う。
用意された食事は簡素だった。塩漬けの肉と、薄味のスープ。そして、ずっしりとしたパン。私は何も言葉を発せず、それらをすべて平らげた。ターニャは穏やかな表情で私の様子を見ながら、自らも食事を摂っていた。
ターニャは余計なことを一切詮索してこなかった。なぜ初対面の私に、それも帝国陸軍の戦士に、このような歓待を施してくれるのか。私はしかし、それらにほとんど疑問も感じず、食事の後、不意に襲ってきたすさまじい疲労感に抗うこともできず、この部屋のベッドに倒れこむようにして意識を失ったのだ。
半身を起こしたまま、窓を向く。
高緯度地域である一帯は、この時期すこぶる夜明けは早い。
腕時計もはずして、装備一式と並べてある。ベッドから下りるのは億劫だった。
私はまた横になった。
横になった瞬間、私は「現実」をふと思い出す。私の現実。戦士としての現実。南波少尉の顔。夢を見ているのではないかと、肌を逆なでするような恐怖感が湧いた。そう、それは恐怖感だった。これがすべて夢ではないと言い切れるだろうか。私はもしかすると、海軍の輸送機から蓮見を追って飛び降り、負傷し衰弱していく蓮見とともに、あの原野で朽ち果てる寸前なのではないか。私は本気でそれを考えた。そして私は、これが夢ならば醒めないでほしいと強く願っていた。原隊への復帰。国境へ向けての移動。蓮見の回復を待ってそれを実行する。そして、生き残っているはずの南波少尉と合流し、あの「日常」を取り戻す。
そう頭ではストーリーを浮かべても、意思の本体は追従してくれなかった。
失いたくないのは、この家の暖かさではないか。
ターニャの笑顔であり優しさであり、ぬくもりなのではないか。
違う、と口に出して否定する。
違う。私は帝国へ帰る。部隊と合流する。そして、戦う。
なぜだ。
戦う必要があるのか。
あのワタスゲの原の光景が瞬間的に脳裏に走る。
パイロットのインタビュー。
冥府の入り口は実在したのだ。
あのワタスゲの原。
敵と味方の緩衝地帯ともいえるあの場所。
道理にかなっていた。あそこは最前線なのだ。最前線で撃墜され、あるいは遭難した兵士が遭遇する場所として、あの場所はごく自然な位置関係だと思う。
冥府など存在しない。
すべては現実の出来事なのだ。
だから?
丹野美春の声が聞こえた。
もう、見たんだから、いいでしょ。
京訛りの美春の声だ。
帰ってくればいいの。都野崎に。
違う。
また一緒に花火を見ましょう。紀元記念公園の桜、今年は見事だったわ。来年、あなたと一緒に見たい。
違う。
トモ、帰って来て。あなたのいるべき場所は、本当にそこなの?
ここ……、この家じゃなく、北方戦域が、私の居場所。
なぜ?
戦うのが私の仕事だ。
本当に?
なぜそう言う。
トモは、探していた場所を見つけた。もう、あなたが探しているものはみんな見つかった。そんなところにいる必要、もうないでしょ。だから、
帰って来て。
誰だ、誰の声だ。
帰って来い。何をしている、入地准尉。
南波の声だった。
どこにいる、入地准尉。姉さん。
南波、私はここにいる。CIDSが故障した。自位置を特定できないし、報告できない。もしビーコンを捕捉できるなら、
トモ、どこにいる。
烈……レツ、
姉さん。話の続きをしよう。夢を見ない人間なんて、本当にいるのか?
いる。
俺は会ったことがないぜ。
論文で読んだ。<PG>の、ごく一部の、生体的エリート……。
お前見たのかよ。
私は見ていない。
俺は自分の目で見たものしか信用しない。
南波らしい。
だから、本当にそんなものがいるのなら、俺が確かめてやる。
烈、
姉さん。
だから。
早く帰って来い。
「レツ、」
自分の声で目を開いた。
眠っていた。
私は疲れている。
薄明るい青に沈んだ部屋。
壁際の装備。立てかけた4726自動小銃。
優しい匂いがする。布団の匂い。枕はやわらかい。マットレスはくたびれていたが、いやな音を立てるわけでもなく、固く私の身体を反発させるわけでもない。
帰って来い。
わかっている。
南波、お前に言われなくても、わかっている。私は帰る。
北方戦域から、必ず帰る。私自身が、冥府を覗きに行って未帰還者となってしまうなんて、話が出来すぎるからな。
姉さん。入地准尉。それでこそ、あんただよ。
聞こえない南波の声が耳の奥で低く呼びかけてくる。
「そうだろう、南波少尉」
私は口に出して呟いてみる。
大きく息を吐く。
眠気が襲う。
夢を、見る予感。
けれど、私は見たくないと願う。
下手に郷愁を誘うような夢ならば、私を弱体化させるのが目的の夢ならば、私は夢を拒絶する。
銃声を遠くに聞いた。
かなり遠く。
私は窓辺から外をうかがう。あの霧は嘘のように晴れた。青い空に、夏の到来を思わせるような雲がいくつか浮いている。黒煙がたなびく様子も、戦闘機や爆撃機が曳く飛行機雲(コントレイル)が幾筋も空をひっかくような様子も見られなかった。
夜明け前に一度目覚めた私は、またしばらくすると眠ってしまった。
夢は、覚えていない。見たような気がする。けれど、ふだんしているように思い出そうと努力することはしなかった。
次に目覚めたとき、日はすっかり上がりきっており、すでに家の中にターニャが活動している気配があった。昨夜の自分を思い出し、短く嘆息する。とめどなくあふれ流れてしまった涙のことを。私は私を見失っていた。ひどい疲れだった。そして、ターニャの微笑みと、この村、この家が醸し出している雰囲気に見事に飲まれたのだ。そう思う。
私はベッドから下りた。
床は板張りだったが、要所々々にフロアマットが敷いてあった。おそらく手織りの、凝った図柄のマット。同盟国の民家を写した写真などでよく見かけるタイプのものだ。国境線を越えているから、この村は帝国の領土に存在しているのではなく、同盟国の一地方に属していることになる。それでもこの村の人々が帝国の言葉を話すのは、経済的や文化的な結びつきが、人口の希薄な国境線の北方よりも、南側、帝国の椛武戸地方がより強いからだろう。
もともとイルワクの人々は、かなり広い地域に居住しているが、結局先史時代からこちら、爆発的な人口増加もなく、産業的な革命があったわけでもなく、そもそも彼らには国家という概念が希薄だと考えられていた。同盟国の沿岸域州政府も、帝国の北洋州庁も、彼らイルワクに対しては、国境線をまたいでの交易や狩猟にとやかく注文をつけることもしなかった。それは彼らが国家を構築することなく、地域ごと、部族単位で生活をしていたからだ。そして、彼らが国家を持たなかったことは、権力そのものを嫌ったということにも通じる。つまり、政府がない。軍事力もない。すなわち、帝国にとっても同盟国にとっても、彼らは脅威足りえなかったのだ。
床に立ち、私はゆっくりと足を屈伸してみる。
筋肉に強ばりを感じたが、昨夜ほどではなかった。そして腕が痛む。4726自動小銃を据銃し続けていた腕は、無残なほどに疲労が蓄積されている。私は立ったまま、自分の腕を交互にもみほぐした。痛かった。かなりの激痛だった。うめきながらも、筋繊維一本一本に溜まっているはずの乳酸を分散させるべく、強張った部分を集中的に揉む。それが済むと、ゆっくりと前屈の姿勢を取る。これもまず背中と足の筋肉が盛大に悲鳴を上げた。遠慮なく、痛みを主張する。私は床に座り込み、時間をかけて両足、股関節、腰、背中とストレッチをした。それぞれがそれぞれに激痛だった。しかし、この痛みを大切にしたいと思った。身体は回復しようと懸命に働いてくれているのだ。
時計で確認し、私は少なくとも八時間ほど眠ったことを知る。それほどの時間を眠ったのは、高泊の駐屯地を出てから初めてだろう。いや、もともと私は睡眠時間が短い。せいぜい五時間程度でじゅうぶんなのだ。それが八時間だ。身体はよほど堪えている。
作戦そのもののきつさで言うなら、風連の発電所奪還戦が数段勝っている。味方はバタバタとやられた。銃弾が私の頭や身体を寸でのところでかすめ飛んでいったのも一度や二度ではなかった。
私たちは訓練で徹底的に自らの身体を痛めつける。この際の「身体」は、「精神」とひとくくりにしてもかまわない。身体と心は不可分だからだ。むしろ、定義づけとして、「心」だけを特別扱いするほうが不自然だ。「心」は身体の一器官である脳がつかさどる。脳は体の一部であり、したがって心は身体の一部である。その「身体」を、訓練では考えうる最悪のシチュエーションをずらりと並べ、苦難のフルコースで鍛え上げるのだ。当然、自分の身体の限界点を知ることになる。人によっては、自らの限界点が思いのほかに高いことに驚くだろう。あるいはその逆。私は前者だった。
第五五派遣隊の教育課程を締めくくるのは、一か月間に及ぶ「卒業試験」だ。教育課程の最終段階にあるとはいえ、訓練の目的は、訓練生を脱落させることにある。合格させるための訓練ではない。振るい落とすための訓練だ。だからこそ、第五五派遣隊の選抜候補者たちから、陸軍全体を見渡しても、この「卒業試験」を上回る訓練は存在しないとまで言われ恐れられている。もちろん、対外的にも部内的にも、第五五派遣隊の内部は広く知られているとはいえない。知らせていないからだ。指折りのきつさを誇る「卒業試験」の過酷さを他と比較できるのは、たとえば一般部隊出身で、一般部隊でも苛烈を極めるという遊撃戦闘訓練を受けた南波たちだ。彼らは口をそろえて、「卒業試験」の異常さを語った。
訓練を進めるごとに、自分や同僚たちの隠された内面が次々に現れる。現れるというより、無理やり引きはがされていく。そこには甘ったるい友情がつけ入る隙などなく、たとえば、一抱えにしても腕が届かないほどの太さの丸太を肩の高さに担ぎ上げ、助教が「よし」の声をかけるまで、いつこの訓練が終わるのかの明示もなく、ただそこで丸太を担いでいるだけの時間が残酷に過ぎるような場合、チームの誰かが力を抜いたことがすぐにわかる。最初のうち、それをカバーしようと努力しても、やがて全員が自分の体力をいかに温存するか、そのことしか考えられなくなる。チームメイトを思いやる気持ちなど消え失せる。そうして、残酷なまでに、人間が裡に抱えている本性を、まざまざと、真正面から見せつけられるのだ。
苛烈。
過酷。
地獄。
私たちが通過したそれらの訓練を語る言葉は、十指に余る。だが、いずれも禍々しく、口に出すのもはばかられるような、そして、聞く人間がけっして真に受け信じようともしない、あまりに日常とかけ離れた言葉の羅列がそこにはある。
私はそうした訓練を通じて、自分自身がときに無神経ともいえるほどに、苛烈な環境に無関心になれることに気づいた。思えばそれが適性だったのだ。過酷な状況が続けば続くほど、私は私自身を自意識から切り離し、客観的に見られるようになった。それは「痛みをコントロールする」あの感覚に近い。
苦痛を受けているのは自分自身だが、それを客観視することで、自分とは別の場所に、自分に意識を投射するのだ。
だから、今回の作戦は、まったくもって苛烈さとは無縁の、比較的簡単な部類に入るはずだった。
だが、私は不覚にもターニャのほほえみで落涙した。無様にも床にへたり込み、まるで幼い子供がするように、泣いた。
いくらか体力が回復しつつある今、私は新たな自分を発見したことになる。昨夜の私も、まぎれもなく私の本当の姿であり、訓練では露呈しなかった私自身の一つの姿だった。
痛みに各所が悲鳴を上げ続けていた筋肉も、なんとかほぐれを感じてきた。血流が活発になり、意識が焦点を結んでいくような気分になる。それは心地よい感覚だった。
遠くに聞こえた銃声はなんだろう。
答えはすぐに導き出すことができる。ここは猟師村だ。高泊や柚辺尾の街と比べるまでもなく、銃は日常的な道具で、常に男たちの傍らにある。
銃声はひどく遠くから私の耳まで届いた。誰かが森か草原で撃ったのだろう。単発、一声。戦闘の音とはまったく違う。切羽詰まるような殺気が音に乗ってこなかった。私はそういう銃声が好きだったし、懐かしいと思った。十代の日々を思い出す。
私は両足を開脚したまま、壁際の4726自動小銃に腕を伸ばし、引き寄せる。
汚れがこびりついていた。
弾倉はセムピたちと遭遇したあのときに抜き、そのままだ。私は予備弾倉入れから弾倉を一本取り出し、そこから一発弾を抜いた。弾頭で、小銃側面の分解用ピンを押す。すると、レシーバーを固定していたピンはすっと抜け、銃は弾倉受けとハンドガードの境目ほどを軸にして、上下に分離した。
汚れが目立った。私は銃床底部のカバーを開き、クリーニングキットを取り出す。そしてフロアマットの上で、上下レシーバーを連結していたもう一本のピンも抜き、銃の分解にかかった。道具は手入れが必要だ。それは戦場の真っただ中でも同じだ。もちろん、このヘッツァー4726は、軍用銃であるから、ある程度メンテナンスができない期間が長くても、また、汚れや水分といった銃の動作を阻害する要因が多い場所においても、きっちり作動するように作られてはいる。メーカーは泥の中に埋没したこの銃を、水洗いもせずにそのまま撃つようなパフォーマンスまでしている。だが、いざというとき、引き金を引き、弾が出るという基本的性能を維持するためには、時間と場所さえあれば分解整備が必須になるのだ。
祖父の銃もよく手入れされていた。実家の祖父といえば、寡黙な印象が非常に強かったが、かたわらにクリーニングキットを置き、薄い毛布のような布の上で、念入りに銃を分解し、整備している印象もあった。
道具を手入れするのは当たり前のことだからだ。
私は特別な環境と道具を必要としないレベルでの整備を行う。
ボルトを抜く。
薬室の汚れを取る。
レシーバー内部にこびりついた泥やススもふき取る。
銃の分解結合は、軍に入隊した新兵時代にいやというほど教え込まれる。大げさでもなく、目をつぶったままで銃を分解し、元に戻せるようになるほどに。
私は無心で銃を整備する。
銃身。ライフリングは溝もしっかり切られており、ひどい摩耗は見られない。ここを弾丸が通り、加速され、回転し、目標へとまっすぐに飛んでいく。
私はこの銃で人間以外の生き物を撃ったことがなかった。
私は柚辺尾で、あの単純なボルトアクションのライフルで、人間を撃ったことはなかった。
一人目の敵兵を撃てるかどうか。
私に言わせれば、戦場で生き残るいくつかの要素のうちの一つはそれだと思う。
結論から先に言えば、私は難なく一人目を撃つことができたのだ。
それは、七.六二口径のこの4726自動小銃ではなく、五.五六ミリ口径の4716自動小銃ではあったが。
正直に言うと、その一人目の記憶はほとんどない。ただ、私が引き金を引くときにいささかの躊躇も感じなかったこと、私が撃った弾丸が敵兵士に命中し、敵が倒れたというその事実だけは覚えている。たいしたことではなかった。その夜、倒れた兵士を思い眠れなくなるといったこともまったくなかった。
シカを初めて撃ったとき。
あのときも私は躊躇しなかったように思う。
だが、私の手で命を絶ったのだという事実だけ、それは胸に刻まれた。
敵を撃てるかどうかではなく、その事実を受け入れられるかどうか。
一人目を撃てるか、という問題は、私はそこに尽きるのだと感じた。
分解した銃を組み立てる。
部品同士は非常にタイトな寸法になっている。一つ一つの部品をはめ、動作を確認する。そのとき、部品同士がかみ合う小気味よい音がする。レシーバーを連結させ、ピンを戻す。
最後、ボルトハンドルを引き、動作にひっかかりや渋さがないか、確かめる。
まったく問題はなかった。
いつでも撃てる。
汚れがついた弾倉や弾もすべて抜き取り拭いたかったが、そこまでは及ばなかった。
ターニャが私を呼んだからだ。ドアのすぐ向こうで。
「食事にしないかね」
暖かい声音だ。昨夜を思い出す。
「はい」
私は答える。
そっけないかと自分でも思うほどに、抑揚をつけず、短く。
そうしないと、私はこの村に絡め取られて出られなくなる。
私は本気でそれを危惧していた。
あの「街道」を中心に、そこから枝分かれしたような道が葉脈のようにめぐる。村は葉脈のそこここに点在する家々から成り立っている。小さな村だ。いや、村と呼ぶにも大げさな気がする。私は道を歩きながら、この集落の様子をうかがった。私は装備を付けず、ターニャが用意したこの村の一般的な衣服をまとい、家を出た。
不用意にうろつくのは、集落の人々にとっても、私にとっても、決していい結果にはならないと思った。だから、私はまず、蓮見がどうしているのか、見に行こうと思った。それには、あの長(おさ)、シカイにもう一度会わねばならない。
陽射しのもとで見る集落の様子は、青く水底に沈んでいたようだった昨夜の様子とはまるで違っていた。住まいにはそれぞれ小さな畑があり、作物はいままさに陽を全身で浴び、生長の過程にあった。簡素さゆえ、貧しさすら感じられる住居が並んでいても、作物の緑、よく手入れされた畑の姿には、卑屈さや後ろ向きな感情などみじんも見られない。
「帝国の戦士」が迷い込んできたことは、すでに村民皆が知るところなのだろう。畑を手入れする老婆や、彼女の孫ほどの年齢の子供たちは、しばし手を止め、私に視線を向けてくる。表情はなく、しかし脅えもない。一人の老婆は、私を見つけると、持っていた道具を置き、かすかに会釈した。笑顔こそなかったが、拒絶もなかった。それが私には不思議だった。私が軍の装備一切をつけず、イルワクの人々と同じ衣服を着ているからなのか。そうではあるまい。
そうするうち、私はシカイの家にたどり着いた。探すまでもなく、ターニャの家を出、こんもりとした茂みに隠れたカーブを曲がれば、すぐに見えてくるのだ。葉脈たる径(こみち)は入り組んでいる。道を外れると畑か背の高い茂みに遮られ、進めない。あるいは、戦術的にそうした道を作っているのかもしれないと私は装備を一切持たない身軽な身体でひとり思った。そう。セラミック板入りの防弾ベストやCIDSはおろか、予備弾倉を詰め込んだチェストハーネスや制式拳銃も持っていない。まず武器を持たず、見知らぬ土地を歩くのは、自分でも思い出すのに苦労するほどに久しぶりだった。陸軍入隊以降は初めてかもしれない。
直近でなら高泊の墓地だ。
駆逐艦や巡洋艦が停泊する高泊軍港を見下ろすあの墓地を訪れたあの日以来だろう。それでもあの日ですら、私は携帯電子端末(ターミナルパッド)を持っていた。帝国の街で市民として暮らすとき、携帯電子端末(ターミナルパッド)は必須アイテムで、身分証明から決済に至るまで、あの電子デバイスがなければ行動に支障がある。
けれどいま私は、ターニャが用意してくれたイルワクの衣類だけを身につけている。気恥ずかしさを隠せないのは、この服が十代の娘が着るようなかわいらしさを隠さないからだ。こんな服は、柚辺尾にいたころですら着た記憶がほとんどない。
イルワクの衣類は、ほぼすべてが天然素材でできているようだ。交易によって、下着や一時的な防寒衣類は、帝国や同盟国から入ってきているようだと以前どこかで聞いたことがあったが、おおむね椛武戸のイルワクたちは、衣食住を自己完結している。小さな村落でも、そうした傾向は顕著で、生活にかかわる道具などは、ほぼすべて自前で揃えているということだった。もちろん、近傍の部族とのやり取りもあるのだろう。しかしそうした文化がめずらしいと私は思わない。たかだか二百年程度さかのぼるだけで、私たちの帝国も似たようなものだったはずだ。自動車もなく、航空機もなく、もちろん電子ネットワークなど存在しなかった世界。いまのイルワクたちよりもさらに「不便」な世界だ。
帝国本土の地形は、都野崎のような広大な平野部を除けば、たいがいが山がちであり、その山地は例外なく急峻だ。身一つで分水嶺を超えるには、ある程度の経験と技術が必要とされる。だから、国土の広さの割に、さまざまな文化風習が密集して形成されることになるのだ。
峠を越えるには、つづら折りの山道を行くしかなかった。
大河を渡るには、渡船しかなかった。
一山隔てた隣国へ赴くには、数日を要し、それは複数の人頭を必要とした。
荷役は自力か、家畜を使わざるを得なかった時代。
そうした時代を思えば、イルワクの生活様式に特異性を私は感じない。だが、彼らの暮らしにおそらく私は憧憬を感じることもないだろう。私はすでに「この時代」の帝国軍軍人であり、人工衛星や早期警戒管制機に導かれて行軍し、航法に振り分ける必要のなくなった体力と思考力で、敵を探し、殲滅するのだ。それが私にとっての当たり前の文化であり、技術であり、日常だ。
ゆえに私はいまふいに放り込まれた非日常の中にいる。
シカイの家の扉の前に立ち、武器をまったくもたずに、異民族の族長宅の扉をたたこうとしている自分の不用意さに思い至る。彼らは昨夜は敵愾心をひそめていたが、今朝はわからないではないか。もし彼らが身体の一部のように扱うだろうライフルや山刀で向かってきたら、私は抵抗する暇もなく、葬り去られる。たとえ体調が完調で、CIDSをはじめとする利器の数々が生きていたとしても、この至近距離と多勢にはいかんともしがたい。
もし彼らと本気で事を構えようと考えるなら、私は自分の武器は使わない。できる限り彼らから離れ、身を隠し、そして、八九式支援戦闘機に近接航空支援を要請するのだ。村ごと消し去ってもらうために。私が彼らに本気で対峙するならば、それしか方法はなかった。
ドアをたたく。
すぐにドアの向こうに気配が歩み寄る。窓から私が見えていたのだろう。おそらくそうだ。扉は静かに開かれ、しかしそこにいたのは、私が予想していた髭面でたくましい族長シカイの姿ではなく、私が見てもはっとするほどに色が白く、濡れたような黒さの髪を肩まで伸ばした女性だった。歳のころはおそらくは蓮見と同じくらいか、さらに若い。十代かもれしない。
「あなたが、帝国の、戦士?」
イントネーションがたどたどしかった。彼女は帝国の言葉に染まりきっていないのだろう。
「トモ、だ。長(おさ)に会わせてほしい」
「シカイに、」
「そうだ」
私はかぶっていたニット織の帽子を脱ぎ、そして頭を下げた。
「帝国の戦士さん」
鈴が転がるような声だと思った。無理して小さなアンプから大きな音を出そうとしているような蓮見の声音とは違う。
「あなた、目が、黒いのね」
まっすぐ少女の視線に射られた。
「わたしの、目?」
「あなたの、国の人は、みんな、茶色の目をしていると、聞いていた」
「……私も、茶色の目だ」
「夜の、森のような、色をしている」
「夜の、森?」
私が訊き返すでもなく言うと、少女はくすりと笑い、身をひるがえして私に道をあけた。
「どうぞ、祖父が待っているから。奥のお部屋」
「ありがとう」
少女は赤や青の織模様が入った、ワンピースのような服を着ていた。場違いな言葉かもしれないが、姫君のような。しかし私はその直感はそのまま当たっているだろうなと思った。この家は族長の家であり、その長を彼女は「祖父」と呼んだのだから。
私は脱帽したまま、戸口でもう一度、帝国風にお辞儀をした。そして、わずかに段差になっている上り框で、ターニャが用意してくれた、くるぶしまで隠れるがずいぶんはきやすい革の靴を脱いだ。この部族は、ふだん家では靴を脱ぐようだ。ターニャの家もそうだった。最初私はターニャの家に土足のままで上がりこんでしまったが、人心地ついた私をなだめるように、ターニャは私のコンバットブーツを脱ぐように勧めてくれたのだ。
「戦士、来たか」
広い居間を抜けようかというところで、奥から野太い声が私の耳を打った。
家の中は、薪ストーブが燃える匂いがしていた。
「そこへ座れ」
シカイは分厚い髭を指で絡めるようにさすっていた。齢はいくつくらいだろう。五十は超しているだろうが、まだまだ隠居とはほど遠い、鋭い眼を持っている。部族長のそれというよりは、そう、歴戦の猛者だ。
「帝国の、戦士か」
「ただの兵士だ」
「昨夜は『戦士』だと名乗ったように記憶しているがな。ただの兵士、か。最近の兵隊は奢った装備をまとうものだ」
昨日の私の出で立ちのことを言っているのだろう。いまの私は、おそらく一般的なイルワクの村娘の装いだ。
「何人殺した」
シカイは表情を変えずに私に言う。傍らのテーブルの上から、紙巻き煙草を一本取り、ライターで火をつけた。真鍮製のオイルライターは帝国でも同盟国でも広く流通しているものだ。強風の中でも火がつけやすく、構造はシンプルで、壊れにくい。蓋を開くときに派手な音がする。銃でもライターでも、果ては戦闘機まで、道具はシンプルな構造がいい。そして、猛者ほどシンプルなものを好むものだ。私の祖父のように。
「何人殺した」
シカイは重ねて訊く。傍らのテーブルは焦げ色。さりげない細工が施されていて、それがかえって族長の持つ威厳を際立たせているように見える。
「数えていない」
「撃つときに何を考える」
鷹揚な口調。だが、声は太く、大きな管楽器を思わせる。
「なにも」
「構えてみろ」
シカイはテーブルの後ろから、黒光りするような木製ストックのライフルを取り上げた。
私は歩みより、何も言わずに銃を受け取った。重い。四キロは超えるだろう。
ボルトハンドルを操作し、銃口の方向に気を付けながら、薬室を開放する。当たり前だが、弾薬は装填されていなかった。驚いたのは、薬室もボルトも、手入れが行き届いていたことだ。これが飾りなどではなく、生きた道具であることを物語る。
私は渡されたライフルの銃口を床に向け、ゆっくりと支障のない空間へ誘導する。そして、持ち上げ、肩に銃床を当てた。懐かしい感触だった。合成樹脂や削り出し、あるいはプレス加工の工業製品然とした自動小銃ばかり扱ってきた両腕に、工芸品の趣すら漂うボルトアクションライフルの感触は、祖父と巡った野山を思い出させる。用心金の外に右手人差し指を添えて、私はライフルを構えて見せた。照星と照門を合わせ、脇を締める。立射はあまりやらない。茂みの中では必然的に膝撃ちか、伏せ撃ちが多くなる。立射をする場合でも、立木を利用して身体と銃を固定するからだ。
「お前、猟の経験があるのか」
シカイは煙草の煙を濃く吐き出しながら、言う。
「なぜ」
「さもなければ、狙撃兵か」
「私は狙撃兵ではない」
「ならば猟師だな」
「なぜそう思うのです」
「猟銃の扱いに慣れている敵機だ。それと、目だ」
私は構えを解く。
「お前の目は、兵士の目ではない」
「私は兵士だ」
「戦士ではなかったのか」
「そう……です」
「帝国は、」
シカイは立ち上がる。上背もあるが、身体そのものが大きい。肥満しているのではない。フェルトや毛皮といった素材の衣類の下に、鋼のような身体が収まっている。私は部隊でそうした身体をいやというほど見てきた。だからわかる。
「帝国は、我々の猟場を荒らす。同盟軍もだ。何がやりたい。ハイドレートの基地を作りたいのなら、海から上がってくるな。発電所を作りたければ、お前たちの土地に作るがいい。ここはお前たちの土地ではない」
「ここは、同盟国の領土だと思いますが」
「奴らが勝手に国境線を引いただけだ。我々はもう何十代も前からここにいる」
「あなた方の国籍は同盟国にあるはずだ」
「ならばどうする。帝国の戦士。我々を蹂躪するか?」
「そうは言っていません」
「同じことだ。ここ数日、空気が震えている。獲物はみな森の奥に引っ込んで怯えている。挙句、お前たちは夜を昼にした」
私は答えなかった。シカイは私に近寄り、私の腕からライフルを取り上げた。
「私はこの銃で人間を撃ったことはない」
ごつい指。まるで老木の枝だ。
シカイの目。
深く、飲み込まれそうになるような色。紺色。この地の夜の色。
「だが、」
シカイはライフルをもとの位置に戻しながら言う。
「お前たちがイルワク、私たちに銃を向けるというなら、私はこの銃でお前たちを撃つ」
静かな声だった。
「だが、今はそれはしない」
元腰かけていた椅子に戻り、吸いさしの煙草を吹かす。
「撃つとき、お前は呼吸を止めるか」
シカイが問う。
撃つとき。
いつ? なにをだ?
「止めない」
「なぜだ」
「余計な力が入る」
「ではどうする」
「息を吐く」
「それでどうする」
「撃つ」
「なにを撃つ」
「獲物を」
「獲物は、何だ」
「私に向かってくるもの」
「人間か」
「身を守るためだ」
「違うな。お前たちは身を守るために銃を撃っているわけではない。お前たちは、銃を撃つために撃っている。弾薬を消費するために撃っている。必要最小限の弾薬ではない。ありったけの弾を撃つ。ばら撒いている。必要以上の獲物をとることは、帝国の戦士、……神への冒涜だよ。それはわかるか」
諭すような口調だった。私を非難している口調ではなかった。
「お前、猟師だな」
繰り返し問いかける。
「いまは違う」
「いまは戦士か」
「そう」
「かつては猟師か」
「……祖父と、山を歩いていました」
「どこの出だ」
「北洋州……柚辺尾」
「海峡の向こうか。椛武戸には来たことがあるのか」
「軍隊に入ってからです」
「なにを獲っていた」
「シカ、オオカミ、キツネ、クマ」
「クマを撃ったことがあるのか」
「一度だけ」
言うと、シカイは野太い声で笑った。
「帝国の戦士。名前はなんだ」
「入地」
「それがお前の名か」
「トモ」
「それがお前の名前なんだな」
「そうです」
「トモ。お前はクマを撃ったか」
「ええ」
「一発で仕留めたか」
「手負いのクマは、どんな敵よりも手ごわい」
「手負いの動物はみんなそうだ」
「ええ」
「何日かけた」
「クマですか」
「そうだ」
「三日、山の中を歩きました」
「一人でか」
「いえ、祖父と、ユーリ……祖父の友人と」
「ユーリ?」
「祖父の友人です」
「帝国の人間ではない?」
「同盟国の出身です」
「北洋州では、帝国臣民と同盟国同志が共存しているのか」
「あなた方が思っているほどに、私たちは排他主義ではない」
「お前たちの帝(みかど)が言う、『八紘(はっこう)一宇(いちう)』というやつかね」
「言葉なんてどうでもいい」
私が言うと、またシカイは野太い声を出して笑った。
「同志ユーリとお前はトモダチか」
トモダチ、という単語を、シカイは帝国の言葉で言った。
「祖父の友人だ。私の友達ではなかった」
「ではなんだ」
「……兄のような」
兄?
「そうか。兄か。友達はえらべるが、兄弟は選べないが」
「選ぶものでもないでしょう」
「問答はもういいな」
私は自分の装いがひどく滑稽に思えてきた。鏡があれば私はその前から逃げただろう。おそらく私が着ているこの衣装は、私にまったく似合っていないに違いない。その時点ですでにシカイの前で勝ち目はなかった。もとより勝負するつもりでここに来たのではなかったが。礼を言いたかったのだ。
「帝国の戦士」
「トモ、と言ったはず」
「お前にはその服が似合っている。ギラギラした機械のような銃も似合わない。お前は故郷に戻って祖父の後を継げ」
「……」
「ターニャの家で、お前は小娘のように泣いていたそうだ」
「……」
「私は族長だ。よそ者を、もろ手を挙げて村の中に入れるとでも思うか。ターニャはよそ者を迎えるのにうってつけの係だ。こういうことに慣れている。奴は人の心を啓かせる。私も疲れているときはターニャの家には行かないよ」
まっすぐ射られるようにシカイの視線を受けるのが、苦痛になってきた。まるで私は彼に狙われた獲物だ。彼こそ、心の中まで覗き込もうとする。目には力があった。
「お前の連れていたもう一人の娘も戦士か」
「同じチームだ」
「あんな小娘を戦場に連れて行くとは、お前の国の帝は何を考えているのか」
「陛下を侮辱するのか」
私が語気を強めると、シカイの髭面が大きく表情を変える。続いてはじけるような笑い声。
「トモ、帝国の兵士よ。そういきり立つな。私はまっとうなことを言っている。戦場に女子供を投入するのは愚の骨頂だ。負け戦の第一歩だ。私の村に、女の戦士はいない」
「時代錯誤もいいところだ」
「領分というものがある。いいか。領分だ。それは差別とは言わない。仕事に貴賤はないと教わらなかったか。誰でも土足でお互いの領分を泥で汚していいと思うのか」
「それと女が戦場に行くこととどう関係があるんだ」
「子連れのクマと、独り者のオスグマと、どちらが手ごわい」
「子連れのクマだ」
「それはなぜだ」
「母親は子供を守ろうと命がけになる」
「そういうことだ。女は命がけで何かを守る」
「男は違うのか」
「男は子供を守れない」
「守れない?」
「村を守れても、子供は守れない。それがイルワクの教えだ」
「だから、なんです」
「村を守るのは、男の職業だ。だが、母親は職業ではないということだ。本能で他者の命を守れるのは母親だ。それは尊いと思わないか。女とはそういうものだ。そんな女が戦場に行って何を守るのだ」
「故郷を……帝国をだ」
「ここは帝国ではない。お前の故郷は海峡の向こうだと、そう言ったではないか」
「……」
「お前の生き方には無理がある。故郷に帰れ。祖父を継いで、糧を得るためだけに銃を使え。お前の銃の構え方は猟師の構えだ。戦士のではない」
私は何も言えなかった。
「私はお前が気に入ったよ。トモ。このような形で出会うべきではなかった。イルワクの出なら、お前を連れて森に行くのだが、今のお前は連れて行けない。いまのお前が森に入ると、子連れのクマも逃げていくよ。全身から殺気があふれ出ている。犬に吠えられなかったか。いくらターニャの家で水を浴びても、お前の身体からは血の匂いがするよ。獣の血ではない、人の血だ」
シカイはテーブルの上のポットからカップに何やら注ぎ、老木のような両手で包み込むようにカップを持ち、ゆっくりと口に運んだ。かすかに若草のような香りがした。
「茶の一杯もふるまってやりたいところだが、残念だよ。お前は帝国の戦士であって、我々イルワクの客人ではない」
「出て行けということですか」
「お前は村から出ていけるだろうが、お前の相棒の娘っ子はしばらくは歩くこともできないだろう。仕方がない。ここで養生していくがいい。それくらいの気遣いは、神様も許してくださるだろう。……私たちの神様とお前たちの神様は違うのだろうが」
私は、神など信じていません。そう言う代わりに、私は訊いた。
「蓮見は、どこです」
「ターニャのような係は、もう何人かいる。そのうちの一人の家にいる。眠っているそうだ。子供のように……いや、違うな。あの娘は子供そのものだ。トモ、もう一度言うが、あんな子供を戦場に連れてくるのはよすことだ。あの娘が不幸になる。お前が責任を持って、あの娘を故郷に帰せ。お前は猟師に戻るがいいが、あの娘は猟師もできない。あの娘に銃を持たせるな。二度とだ」
そう言うと、シカイは会話のチャンネルを閉ざした。眼前にいる私を、瞬間的に会話の対象から外した。若草の香りを漂わすカップを口に何度か運び、私に退室を促すわけでもなく、鷹揚な態度はそのまま、黙った。
奇異の目で見られているわけではなかった。けれど、村の中にいる自分を意識すると居心地はよくなかった。居心地というより、違和感だ。私は自分が場違いなところにいると強く意識せざるを得なかった。
数日が過ぎていた。
私はシカイの言葉に甘えるかたちで、ターニャの家で寝起きしながら疲労を癒していた。ターニャがこのイルワクの村の「歓待係」だとシカイに聞かされても、彼女の表情に触れると、私は任務を忘れそうになる。いや、彼女が作る温かい食事や、ターニャの家の浴室で一人湯を浴びるとき、私は確かに任務を忘れていた。私の作戦(・・・・)が継続中であるのだと、あてがわれた部屋に置かれた第五五派遣隊の装具類を見、触れなければ、思い出せないほどに。
私は部屋で、4726自動小銃を手に取る。傷だらけだ。
南波たちとはぐれて以来、実弾は撃っていない。それでも私は毎日、銃の分解結合を行った。そうしていないと、本当に私は任務を忘れてしまうのではないかと恐怖した。日に日に、この村にいてはいけないのだと感じた。だが、戦闘糧食(レーション)とは違う暖かさにあふれた食事や、ターニャとの会話や、ときどき村ですれ違うセムピと交わす短い言葉、そして、初夏を迎えた森の匂い、空の色、そうしたものに触れるうち、私は自分自身を支えている何かが、とてつもなく頼りないものであることに気づいてしまう。
私はここで何をしているのだ。
村に滞在して五日目。
私はようやく、サーシャという名の、ターニャとよく似た雰囲気を持つ中年女の家で蓮見と再会した。青い目、枯れ草色の髪、ターニャと同じくらいの背格好。きっと、正しくはアレクサンドラというのだろうなと思いながら、私は簡素なサーシャの家に入った。建具も家具も何もかもがターニャの家とよく似ていた。
「蓮見」
「姉さん、」
通された部屋は、まるでサーシャの娘の部屋だ。かわいらしい調度品と質素なベッド、椅子、テーブル。そうしたものに囲まれて、蓮見がいた。会わなければよかった。第一印象はそうした消極的なもので、そこにいたのはイルワクの少女そのものだった。帝国陸軍随一の作戦遂行能力と特殊性を誇る、第五五派遣隊の「戦士」の面影を、イルワクの衣装をまとった蓮見からは感じ取れなかった。
陽を浴びて淡く栗色に透ける髪、白い頬。澄んだ目。身体の一つ一つのパーツは私の知る蓮見のそれだ。だが、今の彼女は、おそらくサーシャが与えたであろうイルワクの娘が着る素朴だが野花のような可憐さを醸し出す服を着ている。初対面なら、私は彼女がこの村で生まれ育った娘だと紹介されて信じただろう。銃など触ったこともなく、軽やかな脚力は敵の弾をかいくぐるためではなく、野山を駆けめぐるためであり、華奢な両腕は、敵の喉笛を切り裂くためではなく、野花を手折るためにある。そんな雰囲気だった。私は蓮見の姿を見て、慄然としたというのが正直なところだ。彼女の姿に、私自身の姿を見たからだ。
「姉さん、かわいい服」
蓮見は私を見て、小さく笑った。か細い声。蓮見優羽はどこへ行ったのだ。お前の装備はどうした。お前の手は、楽器を奏でるためにあるのではないし、まして野花を手折るためにあるのでもない。お前の指は、引き金を引くために訓練されているのだ。お前の腕は、ハイポートにした自動小銃を抱えたまま、六十キロ行軍しても音を上げないほどに鍛えられているのだ。蓮見、お前の脚は……、
「姉さん、私は、もう大丈夫」
声に弱々しさはなかった。けれど、負傷する前の蓮見が持っていた険のある声音とも違った。
戦意を抜かれた。
その言葉がいちばんしっくりくるだろう。
この村は危険だ。
私の直感は確信をもって私自身に警報を鳴らす。
シカイが言ったではないか。「疲れたときは、私でもターニャの家には近づかない」と。それが彼女たち歓待係の技術をあらわす正確な一言ではないか。おそらく、歓待係の彼女たちは、私たちの内なる弱さを増幅させ、それを温かい毛布で包みこむように外界から遮断するのだ。
イルワクがなぜ、何十世代にもわたって同盟国や帝国の領土に暮らしながら、一種治外法権的な自治を維持し続けているのかが何となくわかる気がした。立ち入れないのだ、よそ者は。立ち入ったが最後、自らの意思でここを出ようと決意するまで、全身を絡め取られるように同化してしまうに違いない。彼らはそうした性質を持っているのだ。
「蓮見、気分はいいのか」
私はあえて、作戦が続行中であるよう、抑揚のない上官風の言い方をした。
「姉さん、怖い声して、どうしたの。私は平気だよ」
「蓮見、私たちは原隊へ復帰する。明日にもここを出よう」
「待って、姉さん。サーシャが、」
私は気配に振り向く。もし銃を持っていたなら、ホルスターから抜き、とにかく銃口だけは相手を向けるように据銃し、引き金に指をかけるような勢いで。
「トモ、」
サーシャだ。背格好は本当にターニャとよく似ている。もちろん声も、しゃべり方も。
母。
あるいは祖母。それも、個々人が裡うちに持っている理想像としてのそれ。
同盟軍のモデルハウスよりも危険じゃないか。
かろうじて私はまた正気を保っている。そう信じる。
ここは同盟軍の拠点ではない。そうであったなら、もっと対応は簡単だった。味方でなければ、敵だ。そうした簡単な論理は、このイルワクの村では通用しない。
「トモ、ようこそ。疲れは癒えたかい」
「サーシャ、蓮見は、優羽(ゆは)はわたしが連れて行く。私たちは、国へ帰る」
「トモ、待ちなさい。この子の足は、まだ完全に治っていないのよ」
サーシャの優しい微笑み。私は目を閉じず、真正面から受けて立った。
「姉さん、」
「蓮見、立てるだろう。私と行くんだ。原隊へ復帰する。作戦は続行中だ。南波少尉と合流、」
蓮見がゆらりと立ち上がり、私の両手を握った。見上げるように、私を向く。うるんだような瞳。蓮見はもはや戦士ではなかった。シカイに言われずとも、いまの彼女を見て、自動小銃を持たせようとは誰も思わない。おそらく南波少尉ですら。
南波。
サーシャの心地よい匂いを感じながら、私は南波を強く思い出そうとした。
薄汚れた顔。
くだらない冗談。
戦闘中の迷いのなさ。
そして、私は彼の名を呼ぶ。
「レツ」
「姉さん?」
「蓮見、私と行こう。ここにいてはダメだ。烈が、お前を待っている」
「レツって……」
蓮見が記憶を手繰るようなしぐさを見せた。私の背中を悪寒がかけめぐる。サーシャは蓮見に、何らかの投薬を行ったのではないかと場違いな想像をしてしまう。記憶の混濁。外的に行うなら、幻覚作用を持つ野草でも煎じて飲ませるか、粘膜に摺りこめばいい。そうした野草は、北洋州全域にいくらでも自生している。帝国では所持するだけで刑罰が与えられる麻薬の類だ。
「南波烈(れつ)、南波少尉だ、蓮見准尉!」
私は語気を強めた。瞬間、蓮見の表情に衝撃に似たものが走る。
「姉さん、……入地、准尉」
「トモ、聞きなさい」
サーシャ。
「この子は、まだ遠くまでは行けない。足が癒えるには、もう少しの時間が必要なの。あなたも、この子が心配なら、もう少し待ちなさい」
レツ、どうか、私を……。
私の手を握る蓮見の手のひらを、私は逆に握り返す。強く。
「蓮見、……また、来る。装備の手入れはサボるなよ」
「姉さん……」
鼻にかかったような蓮見の甘えた声がうっとうしい。頬を平手で張ってやりたい衝動を抑える。
「トモ。帝国の戦士。……あなたにも休息が必要ね」
休息。
必要だ。
だがそれは、原隊に復帰し、南波少尉と合流し、高泊の宿舎に戻ってからだ。
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