第4話バンシル王国脱出

 俺は街の本屋で数冊の本と新聞を買い喫茶店でカフェラテを飲みながら読書に耽った。

 現代日本で情報の大切さを知っている俺はこの世界の情報を集めることにした。

 冒険者ギルドで最初に買った魔物と植物の図鑑には街周辺の情報しかなく内容も概要的で断片的だった。


 この世界の近況については大体把握はした。

 10年前に3人の召喚された勇者が魔王を倒し、現在は人間族の世となっている。

 勇者の一人は王となり、世界統一の為に日夜近隣国に攻め入り、その領土を拡大している。

 勇者の一人は自身を神の使いとし、この世界の最大宗教であった水神教を吸収する形で教皇となり、異教徒を攻め滅ぼしている。

 最期の一人は魔王を倒した仲間と旅を続けているがその目的は不明とのことだ。

 人間の国は大国は10か国、小国は80か国ほどあるが、魔王がいなくなると、人間国同士での戦争を頻繁におこなっている。

 俺が召喚された目的も戦力の増強であり、他国も勇者召喚に躍起になっている。


 俺は今後について思案した。

 女神は俺に世界を救えと言ったが、魔王は既におらず、人間同士の争いに異世界人の俺が加担するのも無粋な気がする。

 まだまだ情報が足りないが、一般人の立場からいくら情報を集めても重要な情報は隠匿され分からず仕舞いに終わるだろう。

 重要な情報を得るのなら、国の要職に就く等のある程度の地位を得る必要がある。

 勇者に会いに行って直接聞いてみるという手がない訳ではないが、どんな難癖を付けられるか分からないのでこの手は使わないだろう。


 「ユウタ、ここにいたか。」

 「フランツさん、こんにちは。」

 フランツさんは身長が175センチ位、髪はブラウン、目は碧眼で肉体は見た目細身ながら鍛えられていると分かる40代のおっさんだ。

 俺と一緒に召喚されてきた人で、以前は中東やアフリカで傭兵をしていたそうだ。

 彼は今も王城にいるみたいだが、時より王城を抜け出し街中を散策している時に俺を見つけ話しかけてきた。

 最初、俺はよく知らない相手なので警戒したが、今では互いに情報交換したり夜の色町に一緒に行く仲だ。

 ちなみに色町での代金は俺のおごりだったりする。

 フランツさんの話によると食事や部屋は用意されてあるが毎日無賃で魔物と戦わされているそうだ。

 彼は戦い自体は好きだが、無賃なのが気にくわないと俺に会う度に愚痴っていた。

 「ユウタ、今日はあまり時間がない。借りていた本を返す。」

 「分かりました。お気をつけて。」

 フランツさんとの情報交換は本の中に手紙を入れて行っている。

 俺は喫茶店を後にし、宿の自分の部屋に戻ってフランツさんの手紙を読んだ。


 (ついに戦争か。)

 手紙の内容はバンシル王国と隣国の間で戦争が近々起こり、その前に国外に一緒に逃亡しようという内容だった。

 バンシル王国側から戦争を仕掛けたのかと思ったが、戦争を仕掛けたのは隣国からとのことだった。

 おそらく、バンシル王国で勇者が育つ前に叩いてしまおうとの魂胆だろう。


 俺はフランツさんの手紙に書いてあった待ち合わせ場所で馬車を用意して待機した。

 馬車や旅の間の食料、道具を買ったお陰で貯金は底を尽いてしまったが、必要経費として仕方ないだろう。

 「ユウタ、待たせた。」

 フランツさんは城の兵士の姿をしていた。

 大方、城の兵士に化けて抜け出していたのだろう。

 フランツさんの隣には布の服を来た少年がいた。

 ぱっと見、兵士の従者にしか見えない。

 彼の顔を見て俺は思い出した。

 彼は俺と同じく召喚されてきたアメリカ在住だったアジア系の少年だ。

 「フランツさん、その少年は。」

 「こいつも一緒に連れていく。」

 「ペーターです。よろしくお願いします。」

 ペーターは挨拶すると握手を求めて来た。

 「よろしく、ペーター。」

 俺は握手をし返した。



 「ユウタがいて助かった。」

 フランツさんが焚火で焼いた干し魚を食べながら言った。

 俺達は国境を越えた所で今は野宿している。

 俺とフランツさんが馬車の運転を交代しながらバンシル王国を出た。

 追手を警戒したが、特に追手は現れなかった。

 戦争前で他の事に構っている暇がなかったのだろうか。

 「旅の準備や情報は王城にいては出来なかった。」

 「いつか埋め合わせをして下さいね。」

 「分かっている。目的地に着いてからは俺とペーターの出番だ。」

 「大丈夫です。任せてください。」

 ペーターは笑顔でハンバーガーを口にしている。


 このハンバーガーは俺が再現魔法で生み出したものだ。

 俺の再現魔法は魔力の消費は激しいが俺の記憶にあるものなら生み出すことが出来る。

 俺が再現した某世界的チェーン店のハンバーガー1個で魔力を200消費する。

 俺がレベル1の時の魔力と同等とかなり燃費が悪い。

 ちなみに初級魔法であるファイヤーボールが魔力を40消費する。

 魔法に関しても魔導士ギルドにお金を払って通いいくつかの初級魔法なら使える様になった。

 料理自体を召喚するのはコストパフォーマンスが悪いので調味料や酒などをいつも召喚しているが、ペーターがどうしてもハンバーガーを食べたいと言ってきたので仕方なく召喚した。

 フランツさんは俺が召喚したウイスキーを割らずに飲んでいる。

 俺は彼等2人にかなり投資したので、ちゃんと2人が働いて返してくれることを期待し

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る