第3話人体実験
俺がこの世界に転生されて3か月が経った。
俺は順調にクエストを達成し、Dランクの冒険者になった。
最初はガクブルだった魔物退治も今ではすっかり慣れ、作業的にこなせる様になった。
俺は自分の戦い方を確立させつつある。
先ず最初にオナラを喰らわす。
相手が悶絶している間に槍で一刺し、至ってシンプルだ。
俺のオナラは瞬時に直径20メートルほど拡がるので先制攻撃に持ってこいである。
レベルも10にまで上がり、放屁のスキルはレベル3に上がった。
スキルレベル2の時に毒ガスを覚え、スキルレベル3で大範囲を覚えた。
大範囲は直径100メートルにまでオナラの効果範囲を広げられる。
毒ガスにしたオナラは吸ったら最後、数分足らずで相手を死に至らしめる。
大範囲にした毒ガスオナラで群れであっても動かず殲滅することも出来るだろう。
現在の俺の装備は鉄の鎧にロングソード、鉄の盾である。
攻撃の主体がオナラであり、装備は防御重視にしてある。
鉄ばかりでかなり重いかと思ったが、全く気にならない。
レベルが上がって力が上がっているからかもしれない。
相変わらずソロでクエストをこなしているが、報酬金で揉めることもなく、自由気ままに動けるので寧ろ都合が良かった。
冒険者ギルド内にある食堂で独り飯を食べながら先程買った新聞を読んでいると若い10代の男が話しかけてきた。
「おっさん見た所一人みたいだけど俺達のパーティーに入る気ない。」
男の後ろには若い女が2人いた。
男の面はなかなか良く、後ろの2人は男の恋人だろう。
若くて顔の良い農家の男が一旗揚げる為に村の女をかどわかして一緒に冒険者になるというのはよくあることらしい。
俺はよく冒険者ギルドや街中で飯を食べる時、他人の話に聞き耳を立てているので、そういう下世話な話には詳しくなった。
大概の落ちが若い男は殺され、女はゴブリンやオークに蹂躙されるという話だ。
俺に話し掛けたのは、冒険に出るのに不安でもしもの時に備えて俺を肉の壁にでもするつもりだろう。
俺の風貌は力がなく、何処のチームにも入れて貰えない弱小冒険者という感じだ。
それなりの装備をしていると思うが、覇気がないのかどうしても周りから侮られていると感じる。
「分かった。よろしく。」
俺は二つ返事で男の誘いを受けた。
「ちくしょー。あの野郎直ぐに逃げやがって絶対にゆるさねぇ。」
俺を誘った若い男と女2人はゴブリンの群れに囲まれていた。
ゴブリンの数は10体、ゴブリンは非力だが数の差は如何とも埋めがたい。
熟練の冒険者なら上手く立ち回り難なく仕留めるだろうが彼等はルーキーだった。
俺達は街を出て、若い男の指示で街道から離れた場所に向かった。
若い男の話によると冒険者ギルドにいた冒険者から穴場を聞いたそうだ。
若い男でも簡単に倒せるゴブリンがよく出るそうだ。
確かに冒険者の言うとおりだ。
若い男でも1体なら簡単に倒せるゴブリンが10体も出たのだから。
俺は若い男や女2人よりもかなり前を歩かされていた。
その為、ゴブリンとの遭遇が他より早い形になった。
別に今の俺ならゴブリンの10体だろうが簡単に倒せる。
しかし、俺はゴブリン達を引きつけ、若い男と女2人がいる所まで走り抜けた。
ゴブリン達は俺から若い男と女2人に標的を変え、彼等が呆然としている間に取り囲んだ。
俺はゴブリン達や若い男と女2人に気付かれない様に茂みに隠れ戦いを傍観することにした。
若い男はゴブリンの1体に斬りかかり、ゴブリン1体を倒したが、他のゴブリンに斬りかかった隙を突かれ、あっけなく死んだ。
若い男が死に、茫然自失となっている女2人にゴブリン達が歓喜の声を上げ近付いている。
(あの男簡単に死に過ぎだろ。テンプレートにも程がある。もう少し捻った内容見せろよ。)
俺としては非常に不満の残る内容であった。
昔の俺なら目の前の状況にガクブルだっただろうが、映画のシーンに偉そうに批評している様な感じにしかなっていない。
俺は素早くゴブリン達に近づくと毒ガスのオナラをふった。
ゴブリン達と女2人が苦しそうにのたうち回った。
俺の放屁のスキルは人間にも有効な様だ。
俺は自分のスキルが人間にも有効なのか実験してみたかった。
彼等が街道から離れ人目の付かない所に来てくれてとても助かった。
俺の前にはゴブリン達が残した魔石と若い男と女2人の死体が横たわっていた。
街の外の、ましてや街道からかなり外れた所にある死体など誰も気にしない。
俺は手早く魔石を回収すると直ぐにその場を離れ街に戻った。
俺の放屁のスキルは俺を中心として拡散する。
範囲も広く、戦闘になれば仲間を巻き込む恐れがあるので容易に使えなくなる。
仲間というメリットと放屁のスキル使用不可のデメリットを天秤に掛ければ、ソロが望ましい。
翌日、若い男と女2人の死体を見に行ったら、滅茶苦茶に食い荒らされた後があった。
これがこの世界の日常だ。
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