アルストルーク編#3・・・素のヒロイン


  シイナは自分の右手をを前に出し、握手を求めた。

  突然でびっくりしたため少し握手に戸惑った。


  「人が握手を求めたらちゃんと握んなさいよ!おたんこなすぅ!」

  「なんだよそれ」


  笑みをこぼしながら差し出された右手に答えるように右手を出しシイナの温かい手を取った。


  「改めてだけど、俺の名前は如月康太(きさらぎこうた)。アルトっていうのはネット上でのペンネームで実名はさっき言った通りなんだ」

  「そうなんだ。じゃあ、なんて呼んだらいいかしら」

  「好きなように呼んでいいよ」


  握っていた手をパッとはなして、あごに手を当て「うーーーーん」とうなっていた。


  「決めたっ。コータは?」

  「へ?」


  唐突すぎてドキッと来るレベルではないぞこれ。女性は勿論(母親は含めず)、友達にすらあまり下の名前で呼ばれたことがない・・・まあ、友達と呼べる奴なんていたかどうかも

  危ういけど。

  なのにこんな美少女に・・・異世界マジLOVE


  「これからよろしくね。コータ!」

  「こここここ、こっちらこそ」


  きょどりながらももう一度差し出されたシイナの手を握り返した。

  すると、なぜかシイナがうつむきながら震え始めた。

  しかも顔がゆでだこのように真っ赤っかだ。


  「お、おい。大丈夫かよ」


  俺は慌ててシイナの背中をさすると、その手をバッと払い三歩ほど後ずさんだ。


  「き・・・き。きれた」

  「え、ごめん。よくきこえ・・・」


  シイナは小さく独り言のようにぶつぶつ何かを発している。

  それと同様にふるえと顔の赤さがだんだん増してきているようにも思える。

  それはまるで初めてあった人とコミュ障すぎてうまく会話が続かず、その会話を繋げようとして変なことを言ってしまって嫌悪感と恥ずかしさに襲われているみたいな・・・ん?


  「わ、わ、わたしね。魔力がきれたら、人とまともに喋れないくらいコミュ力がなくなっちゃうの・・・」


  いやいや、どんな奴だよ。正直言うと俺も超コミュ障だが、さすがにここまでではない。

  同情するにもできやしない。

  そんなことを思っているうちにシイナは目をウルウルさせて、こっちを見てきた。


  「ど、どうしよ・・」

  「ど、どうしよっていわれても・・・魔力を補給するみたいなことはできないの」

  「この魔術の術式は私のものじゃないの」

  「じゃあ、ほかの人からかけてもらったってこと?」

  「うん。」


  しかし、右も左もわからない俺にましてや魔術とかなんてこの星が爆発しても無理な話だ。

  と・いうより。


  「雰囲気変わったね。さっきまでは、なんていうか・・・主人公の対応にまだ少し慣れなくて、すこし強く当たっちゃってるツンデレ系ヒロインみたいだった」

  「ご、ご、ごめんなさい。あれは偽りの自分でホントはこんなフナ虫みたいなやつなんです」

  「いやいや、別に怒ってないから。むしろかわい・・・」

  「ど、どうかした?」

  「こっちの話」


  ふう~。何とか初対面の相手にいきなりセクハラ的発言&性癖をさらさずに済んだ。(泣き顔フェチなんて口が裂けても言えない)

  とゆーか雑談していてもらちが明かない・・・ん?雑談? ここにきてから「ん?」なことだらけが非常に増えた。


  「し、シイナは俺と喋るのは平気なのか」

  「へ?・・・・あ。」

  「いや、さっきシイナが魔法の効果がきれたら人と喋るのが難しくなるとかいっったからさ大丈夫なのかなって」


  それを思い出したかのようにようにシイナはまた顔を赤く・・・しなかった。

  その代わりなのか自分の頬をつまみ出し、笑顔を見せた。


  「うそ。ホントだ・・・私、平気になってる。初対面の人でこんなことじめて・・・。」

  「そ、そうなのか・・・えっと、おめでと~う?」


  なんか反応に困る。

  一応言ってはいるがおめでとうは絶対に違うよな。


  「あ、ありがとう?」

  「てか、なんで俺は大丈夫なんだ?」


  普通に思う疑問をあえてぶつけてみる。

  するとシイナはニコッと笑って


  「い、いや。あのね、私どっか野生の感覚っていうかそーゆーのがあって自分より立場が弱いっていうか、まあ劣っているって思う人には腹を割って話せるっていうか緊張

   しないんだよね。そうじゃない人や初対面の人とかに対しては警戒っていうかびくびく緊張してぜんぜん会話とかできなくって・・・あっ、でもコータがそうってわけじゃ

   ないからね?!ただ単にコミュ障なだけってのもあるから」

  「あ、あはは。そうなんだ。話せる人の一員になれてうれしいよ」

  (いやいやいやいやいやいやいや!ディスってるよね?!完全ディスっちゃってますよね??!!なになになになんなんですか~実は超ヤンデレ系美少女???怖すぎるよ!

   しかもニコニコしてんじゃん!やめてっ!!!てか、最後のフォローになってないからね?!)


  シイナにはどう映っているかわからないが、俺は動揺を隠すように全力で笑顔を作って見せた。

  シイナはよほどうれしかったのかまだ「にへへーーーッ」としていた。

  やはり思う。この子変わってる・・・。


  「いろいろごめんね。なんか変なとこばっかり見せちゃって、でも初めて会ったしかも男の子に素の自分を見せれたことがうれしくて・・・つい」

  「いや、シイナがそう思ってくっるなら何よりだよ」


  「そっか。やっぱり優しいんだね」とシイナは笑ってくれた。

  その笑顔がどこか寂しげに見えたのは、多分気のせいだろう。


  「それじゃあ、いこっか」


  シイナは俺に背を向け、町人ががやがやとにぎわっている町の中を案内するように先頭を切ってくれた。

  数十秒後には俺の背に隠れて歩いていたことはそれこそ言うまでもない。

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