アルストルーク編#2・・・残った記憶

 「いやいやいや、ちょっと待ってくださいって。僕はただあなたと・・・ん?あれ。」


  あれ、どうして俺はこんなとこにいるんだ。異世界の女神さまを見に来たことはわかっている。

  でも、どうやってここに来たのかわからない。いや、多分思い出せないだけだ。

  でもどうしてだ・・・ここにきてそんな時間も立ってないはずなのに。

  チャットでなんか言ってたっけ――――――――――そうだ!チャットだ。スマホ。

  俺は自分のポケットに手を入れ、無造作に中を確認したが・・・


  「ない」

  「なにがよ」

  「スマホですよ。」

  「しょっているそのリュックの中は確認したの」


  そうだ、リュック。

  俺は正直焦っていた。記憶がない。ホントにないのだ。


  「あった!」


  即座にパスコードを入力し、ティナさ、いや、シイナさんとのチャット履歴を見直した。


  「オフ・・・かい?」


  チャット履歴にはオフ会に来てくれと、ざっとこんな感じに会話履歴が残されていた。

  だがおかしい。チャット以外何も開けない・・・。

  アプリもカメラも何も起動しない。 ネット環境は確かにあるのに。なぜだ。


  「ごめん。多分、私のせいだ。」

  「どういうことですか」


  シイナさんがそっと口を開いた。今度は真剣だ。雰囲気でわかる。


  「アルトはそっちの世界でなにかやり残したことはあったの」

  「ないですけど」


  これは不思議と断言できた。記憶がないといえばそれまでだが、これには確信が持てた。


  「じゃあ、大切な思い出とか。大切な人とか。そーゆーものはあった」

  「・・・。ミーちゃん。」

  「へ?」

  「そうだ。ミーちゃんだ!!!!」


  やっと思い出した。女神・・・すなわち俺はミーちゃんを探しにここまで来たのだ!多分。


  「だ、だれよミーちゃんって」


  シイナさんは眉をひそめて怪訝そうにこちらをうかがう。


  「俺の嫁です!」

  「は?」


  面と向かってそう告げた。自分も恥ずかしげなくよく言えたもんだなと思う。

  シイナさんはため息をつき。一泊置いてから口を開いた。


  「あーあー。なんか調子くるっちゃった~。まあ、いいけど」

  「あ、はい」

  「よく聞いてね。あんたと私とでは住んでる世界が違うの。わかる?」

  「そ、そうなんですよね。だって、こんなところ初めてきましたもん」

  「この世界にあんたを連れ込むのに、私は魔力を色々と使ったの。その使われた当人である、あんたには少なからず魔力の負担というものがかかるわ。でもさっき言った通り

   あんたと私は住んでいる世界が違う。即ち、魔術が存在しないあんたの世界で魔力の免疫がついていないのは当然ね。その副作用としてこちらの世界と関係ない情報・・・まあ

   言ってみれば記憶ね、それをシャットアウトしたためにあんたには記憶があまりないのよ。わかった?」


  「じゃあ、俺はその魔力の副作用でもといた三次元の世界記憶はあまりのこってないと。」

  「要約すればそういうことね。あなたには悪いことしちゃったわね・・・もう少し魔術をうまく使えたら、よかったんだけどさ」


  シイナさんはうつむき気味になり、自分を戒めるように軽く自分の下唇を噛んでいた。


  「シイナさんが謝ることじゃないですよ。確かに記憶はあまりないんですけど、ミーちゃんのことは覚えていられたのでそれで満足ですし、こんなに素敵な場所に連れてきてもらった

   僕のほうこそ感謝しなきゃいけない立場なんだし。」


  シイナさんは頭を上げ少し赤らんだ顔を見せ、はにかんだような声で


  「やさしいんだね」と一言告げた。

  その無垢で優しい笑顔にまるで女神を見ているかのような連想を思い浮かばせた。


  「というか、そのシイナさんってのやめてよ?なんかちょっとむずがゆいっていうかさ、よそよそしい感じがするから」

  「あ。じゃあ、なんて呼べばいいかな?」


  すると、またまた赤ら顔にして


  「し、シイナでいいよ。あ、あと!敬語禁止な!タメでこい!!タメで」

  「わ、わかった」


  正直とてつもなく嬉しかった。こんなかわいい子にここまで言ってもらえるなんて・・・。異世界さいこー!


  「あ、でさ。シイナさ、シイナ。これからどうすればいいの」


  当たり前だがここにきて俺はまだ何も知らない。ここがどんな場所でどんなところなのか。

  だって、すごすぎる。

  道のど真ん中には馬車が行きかったり、お店らしき建物が横一列にずらりと並んでいる。

  立ち止まって喋る人。物を売ろうと必死に爽やかに声を出している売人の人。品定めしている人。楽しそうに食事をしている人。

  ごく普通といったらそうだ。だが、すごいのは見たこともない人種の人がたくさんいること。


  「ここ、沢山の人や人種の人がいるんだね」


  シイナはこちらを向き当然かという様に


  「あたりまえじゃない。なんていったってここが王都アルストルーク。この世界で一番大きな町、尚且つ全てにおいて最先端を行く都よ」


  「よしっ」といいながら俺に背を向け、


  「こんなところで喋るのもなんだし、どこかお店へ入りましょ。せっかくのオフ会なんだしさ」


  と嬉しそうに喋るシイナ。というか、ここに来た目的を危うく忘れるところだった。


  「紹介したい人たちもいるの。それと今後の方針とあなたの意志を聞いておきたいの」

  「意志・・・。」

  「今はまだ分かんないことだらけだと思うけど、付き合ってくれると私もうれしい」


  確かに今はまだ全然わからない。この世界も自分の置かれている立場においても。

  でもシイナの目を見てると、何かすごいことを考えていそうな好奇心の塊みたいな目をしている。


  「これからオフ会を開くにあたって一つアルトに聞いておきたいことがあるの」

  「聞きたいことって」

  「女神を見たいのよね」

  「見たい」


  自分でも即答だった。シイナはそんな俺を見てクスクス笑っていた。


  「そっか。絶対に会わせてあげる」

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