curtain call それからの彼と彼女

curtain call それからの彼と彼女


「・・・・・ゆず、ゆーず、起きてくださーい」

「・・・・んん・・・・・」

「起きないと襲いますけど」

「うわあああああ」  


 物騒な言葉に私は思わずベッドから飛び起きる。


「失礼ですね、そんなに嫌そうな顔されると傷つきますよ」

「失礼なのは瑞樹でしょう!」

「いつまで経っても寝てるゆずが悪いんですよ。ほら、着替えてください。今日はお屋敷にお正月の挨拶に行くんでしょう」

「そ、そうだった・・・・・」


 大みそかの昨日、ついつい夜更かしをしてしまったのがいけなかった。

 急いで跳ねた髪をブラシで整えながら、瑞樹の顔を横目で見る。


 そういえば・・・・・と今更ながら気になってしまった。


「瑞樹、病院で初めて出会った頃は銀髪だったよね」

「え・・・・・」

「それに今よりもっと砕けた話し方だったし。一人称も<俺>だったし」

「・・・・・なんですか、いきなり」


 むっとしたような顔をしているが、耳元が少し赤い。

 珍しく照れているのだろうか。

 そう思うと、いつもの仕返しにからかってみたくなる。


「銀髪も似合ってたのになぁ」

「・・・・・若気の至りです、あれは。忘れてください」

「敬語も、使い分けるのが大変ならしなくていいのに」


 その方が楽なんじゃないかと提案してみると、瑞樹がにっこりと笑った。


「あ・・・・・」


 これはまずいかもしれない。

 

「ふぅん、寝坊した癖に僕をからかってます?ゆず」

「べ、べべつにそんな事ないわよ」


 ゆっくりと近づかれ後ずさると、ベッドにつまずきそのまま身体が沈んでしまう。

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 この男が逃がしてくれるはずもなく、ベッドに押し倒されるよな体勢になってしまった。


「あ、ああの瑞樹!!ちょっと、は、話せばわかるから!とりあえずどいて!!」

「飛んで火にいる夏の虫って、まさにこういう状況ですよねぇ」

「ちょっと・・・・・!」


 段々と近づいていく端正なその顔から、せめてもの抵抗とばかりに目を閉じる。


「それ、逆効果だと思いません?」

 瑞樹が呆れたようにため息を吐いた。

 首筋にかかる息がこそばゆい。

 恐る恐る目を開けると、彼が困ったような表情で続けた。


「どうして僕が敬語なのか、わかります?」

「仕事だから、とか?」

 それとも和恵さんにそう教育されたからだろうか。

 考えを巡らせていると、どれも不正解だと言われてしまう。

「わかりませんか?」

「わからな・・・・・って瑞樹!?」


 サラリと手触りのいい髪が、頬に当たる。

 流れるような仕草で軽く唇に触れられたと思ったら、そのまま彼の顔が耳元で止まった。


「素で話すと、これ以上の事をしたくなるからだよ」

「・・・・・っ!!!!」


 バクバクと心臓が跳ねる。

「み、みみずき・・・・・!?」

 顔が沸騰したんじゃないかと思う程に熱い。


「ゆずが成人するまでは、我慢するけどね」

「・・・・・ちょっ」

 惜しむように私の耳たぶに唇を落とし、押さえつけられていた体が開放された。


「瑞樹・・・・・!」


 その顔は、憎らしいほどに清々しい笑顔だった。

 新しい年を迎えても、一枚も二枚も上手なこの執事に翻弄されるのは変わらないのかもしれない。


 それでも・・・・・


「さぁ、仕度をしてください。愛しい僕のお嬢様」


 この日々が、いつまでも続く事を私は願っている。

 私達の関係を示す名前が変わっても、いつまでもずっと。  


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