不器用なワルツを貴方と共に 12


「瑞樹・・・・・起きてる?」


 翌朝、急いで身支度を整え瑞樹の部屋へ向かうと何も反応が返って来ない。

 鍵がかかっていないことを不審に思いながら扉を開くと、そこにあったはずの彼の鞄も、洋服も、なにもかもが無くなっていた。


 最初から瑞樹がいなかったような空っぽな部屋に立ち竦むことしかできない。


 先に家に帰ったのだろうか。

 でも、それならどうして私に声をかけないのだろう・・・・・?


「・・・・・なぁ」


 まとまらない頭で考えを巡らせていると、後ろから声をかかけられた。


「みずき・・・・・・!」

 振り向くと、執事服姿の宮木くんが驚いた様子で立っている。


「宮木・・・・くん」

「なに、この部屋」


 宮木くんは瑞樹の部屋を覗きこむと、独り言のように小さく呟いた。


「空っぽじゃん。まさか、さっき言ってた事本気だったわけ」

「宮木くん、今日瑞樹と会ったの!?」

「ちょっと!落ち着けって」

 思わず彼の腕を掴む私に、宮木くんはゆっくり説明してくれた。

「さっき偶然会ったんだよ。一人で屋敷の門の所に立ってたから声かけたらさ・・・・・」


―お前、具合は・・・・・

―おかげさまで。良い刺しっぷりでしたね。ミヤギクン

―悪かった、本当に。謝ってもどうにもならないけど・・・・・

―あー・・・・・冗談だよ。このくらいなんでもない、気にするな。


「その時あんたと一緒じゃなかったし、でかい荷物を持ってたから思わず聞いた。あんなことがあった後だ、まさか執事をやめるつもりなのかって」


―・・・・鋭いね

―俺が、お前を刺したから・・・・・

―ゆずを守れなかった俺がここいる理由が無いからだよ。

―冗談、だろ。

―遅かれ早かれ、あの子とは離れる日が来る。それが今だっただけだ。


「嫌な予感がしてここに来てみれば、あんたが突っ立てるし・・・・・これからどうする気?」


 これから・・・・・

 瑞樹がいなくなったこれから・・・・?

 そんなの、想像できるはずがない。

 

「守れなかったって、瑞樹が言ってた・・・・・?」


 宮木くんから背を向け歩き始めると、焦ったように声をかけられる。

「おい、お前も怪我してるんじゃないのかよ」

「瑞樹を探してくる。一緒にここに帰って来るから、宮木君はここで待っていて」


 何も言わずに出て行ってしまった瑞樹にも、瑞樹の気持ちを考えられなかった自分にも嫌になる。


 外へ出ると、思った通り昨日降った雪が積もっていた。

 いつもと違う真っ白な街の風景。

 音も、人も、消してしまうような美しい白い雪。


 このまま瑞樹が戻って来なかったら・・・・・


 そんな思いをかき消すように、私は真っ直ぐ走り出した。

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