不器用なワルツを貴方と共に 11
「まだ、意識が戻らないのか」
顔を上げると、お父さんが眠っている瑞樹を見下ろしていた。
ベッドの横に座っている私をじっと見ながら、眉を顰める。
「君も怪我をしているんだろう。休んだ方がいい」
「大丈夫です」
その言葉に、私は首を横に振る。
瑞樹に比べれば平気だ。このくらいの怪我なんて。
倒れている瑞樹を見つけ、私が助けを求めたのはお父さんだった。
事情を説明すると、すぐにお医者様を呼び、瑞樹の怪我の処置をしてくれたのだ。
『あと少し、処置が遅ければ危なかったんですよ』
そうお医者様に言われたことを思い出す。
「あの・・・・瑞樹を助けてくれて、ありがとうございます」
頭を下げると、淡々と言葉を返される。
「直人とツグミが屋敷に戻ってきたと報告があった」
直人兄さんと、ツグミ姉さん。
宮木くんは妹と弟を人質され、義姉さんに瑞樹を刺すようにと脅されたのだと、そう聞いた。
「私はこれから二人と話し、警察へ連れていくつもりだ」
「警察・・・・・」
瑞樹の手当てが終わった後すぐお父さんに事情を伝えた。
私が直人兄さんに連れ去られたこと、瑞樹が彼らの計画で刺されたこと。
それはすべて、彼らの借金をお母さんの遺産で補いたいからだということを。
「彼らを追い込んだ私にも責任はあるな。すまなかった」
「お父さんは瑞樹を助けてくれたじゃないですか。本当に、感謝しています」
頭を下げなければいけないのは私の方だ。
そう言うとお父さんが困ったように笑う。
その不器用な笑い方に、私は肩の力を抜き微笑み返した。
時計の針が、十二時を示す。
日付が変わったのだ。
「クリスマスか」
雪がパラパラと窓に当たる。
この様子だと明日の朝には積もっているかもしれない。
「瑞樹・・・・・」
規則正しく呼吸をしながら眠る瑞樹。
彼の手に触れその暖かさに安心していると、瞼が微かに動いた。
「ゆ、ず・・・・・?」
「瑞樹・・・・・・!」
「え?」
「よっかったぁ・・・・・・っ」
瑞樹の肩に顔を埋める。
このまま目を覚まさないんじゃないか思った。
そう呟くと、彼はゆっくりと身体を起こした。
「ゆず、ここ」
腕に巻かれた包帯と、頬に貼ってある湿布を指される。
「何があったんです」
真剣な表情でそう問われ、つい言い淀んでしまう。
「え・・・・・っと」
「ゆず」
正直に話してくださいという言葉に、降参するしかなくなる。
「話すと長くなるんだけど・・・・・」
私はこれまでの経緯を瑞樹に説明した。
「家の問題に瑞樹を巻き込んでごめんなさい」
本当なら負わなくていい怪我をさせてしまった。
俯く私に、瑞樹が焦れたように言う。
「僕の怪我なんてどうだっていいんです。ゆずのその怪我は、どうしたんですか?」
「どうだっていいって・・・・・!」
そういえば瑞樹を見つけた時も同じように言われた。
どうしてそんな風に自分の事に無頓着なんだろう。
「ゆずの怪我の具合の方が大事です。傷が残ったらどうするんですか」
「これは義兄さんに殴られたのと、窓ガラスを割った時に切っちゃった怪我でどれも大したことないの。瑞樹の方が傷が深いんだから自分の心配を・・・・・」
「・・・・・すみません」
「どうして瑞樹が謝るの・・・・・?」
辛そうに顔を歪め、目を合わせてくれない瑞樹に不安になる。
「僕があんなところで捕まらなければ、ゆずが怪我をすることもなかったのに」
「そんなの瑞樹のせいじゃ・・・・・」
「限定執事、とか言っておきながらだめですね。ゆず一人守る事もできないなんて」
「ちょっと待って、一体どうしたのよ」
後悔することなんて何一つないはずなのに。どうしてそんなに彼が自分を責めるのかわからない。
いつもと違う様子に戸惑っていると、瑞樹は困ったように微笑んだ。
「すみません、一人に・・・・・してもらえませんか」
「え・・・・・」
「少し考えたい事があるので。ゆずも、今日はゆっくり休んだ方がいいですよ」
これ以上私が傍にいることを拒むような言葉。
「でも・・・・・」
「僕なら大丈夫ですから」
「・・・・・うん」
私はそれ以上、瑞樹の真意を追求できなかった。
無理やり聞くようなことをして、嫌われるのが怖かった。
それでも私は瑞樹をこの夜、一人にするべきではなかったのだ。
翌朝私は、それを思い知ることになるのだから。
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