不器用なワルツを貴方と共に 5


 部屋をノックする音が聞こえ、俺は寝ころんでいたベッドから起き上がる。

 ゆずが帰って来たのだろうか?


「はーい」


 扉を開くと、意外な人物が立っていた。


「珍しいですね。女性の部屋に一人で訪ねるなんて、あまり褒められた行為じゃありませんが・・・・・」


 いつもならすぐに返って来る返事を待っていると、目の前の人物は震える肩を隠すように抑え、顔を上げた。


「・・・・・っ」


 一瞬の事だった。


 腹部に刺すような猛烈な痛みが走る。

 とっさに手で出血を抑えたのが悪かったのだろう。


「くっそ・・・・・が」


 次の瞬間俺は頭を殴られ、そこで意識が途切れた。



*************************************


「あれ、瑞樹?」


 部屋に戻ると、そこにいるはずの瑞樹の姿が見当たらない。

 まさかまたどこかでふらふらと勝手に行動でもしてるんじゃないだろうか。

 それとも和恵さんに呼び出されてお説教でもされてる?


 そんなことを考えながらベッドに寝ころぶと、煙草の香りが鼻孔をくすぐる。

 きっと瑞樹がここに寝そべっていたに違いない。


「まったく・・・・・」


 油断も隙も無い。そう呆れながら、私は首元のネックレスを握りしめた。

 お母さんが、お父さんに初めてプレゼントされたというネックレス。

 あれから少しだけ、私はお父さんにお母さんの話を聞かせてもらった。


 二人の出会い、そして私が生まれるまでのこと。

 お父さんは私と話している間も表情を崩すことはなかった。けれど私が今まで一方的に感じていた恐怖や不安はもうない。


 瑞樹が背中を押してくれなかったら、私はずっとお父さんから逃げ続けていたかもしれない。


「だから一番に瑞樹へ報告したかったんだけど・・・・・どこ行ってるんだか」

 ぼすっと枕に顔を埋めたその時、扉を軽く叩く音がした。

 

「瑞樹・・・・・?」


「残念でした」

「・・・・・・っ」

 部屋の前に立っている人物を見た瞬間、反射的に扉を閉めるが身体を押し込まれてしまう。


「酷いなぁ、人がせっかく挨拶に来たってのに追い出すなんて」


「なお、ひと兄さん」

「今お前のとこの執事いないわけ?」

「・・・・・そうですけど」

 彼の質問に答えた瞬間、口に布が当てられた。

「なに・・・・・っ」

 なにするんですか、そう最後まで言えなかった。


「よかった。ツグミのやつうまくいったみたいだな」

 

 身体の力が抜けていく。

 抵抗しても、だんだん瞼が重くなってきてしまう。


「なん、で・・・・・」


 意識を失う直前、直人兄さんの口角が上がる。

 彼の歪んだ笑い顔がいつまでも離れてくれなかった。

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