ウツロウ嘘と想う夜 9


「う、まだ三十分しか経ってない」

 自分の部屋では落ち着かず、リビングでソファーに座りながら時計を見る。

 今頃瑞穂は宮木くんに無事お金を渡せているだろうか。

 無音の部屋では落ち着かず、テレビを点けた。

 クッションを抱きしめながらなんとなく画面を見ていると、キャスターが険しい顔で憤っている。


<いじめが原因の集団暴行事件で死亡した○○○くんの通夜が今日・・・・・>

<酷い事件ですねまったく。なんでも暴行を止めようとした近所の方も意識不明だとか>

<ええ、とにかくこのような未成年の事件では特に集団心理というものが・・・・・・>


―暴力、事件。


 その単語に、嫌な予感が頭を掠めた。

 もしも今日、瑞樹が宮木くんをいじめている人達に目を付けられたら。それで、殴られでもしたら・・・・・


「まさかね」

 いくら不安だからって飛躍しすぎだ。そう思い、冷蔵庫にしまってある瑞樹特製の紅茶をグラスに注ぐ。

 まさか、とは思う。でもそのまさかは日常の中に確かに存在する。そのことをよく知っている。


<それでは次のニュースに参りましょう>


 ドクンと、心臓の音が大きく響く。

 どうしよう、瑞樹が帰って来なかったら。

 そしたら私はまた・・・・・


『くれぐれも、僕に付いて来ないこと』


 ごめん、瑞樹。

 様子を見たら、すぐ帰るから。


 ゆずは覚悟を決め、急いで身支度をした。

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