第2話
あれから一週間が過ぎた。かぐやはみるみるうちに成長し、一人前の身体になっていた。
「みやさん...これ成長早すぎませんか?」
「本当じゃのう」
「確かに、思ってたより早かったな」
皆、急成長するかぐやを見て驚いていた。
「いえ、少々成長が早かっただけでございます」
かぐやが答える。
「えっと...普通の人間はその背格好になるまで18から20年ぐらいかかるよ?」
「まあ普通の人間じゃないからな」
「どういう事ですか?」
「あっ」
タオは自分が自然とネタバレしている事に気がついた。幸い気にしていたのはエクスとレイナだけだった。
「ちょっといいか」
タオはレイナとエクスを部屋の外に誘い込んで、小声で話し始めた。
「前から少し勘付いていたんだが、ここの想区は俺とシェインが知っている物語と酷似している」
「その物語ってなんですか?」
「竹取物語って物語だ。竹取の翁が竹林で竹に入った赤ん坊を見つけて、その後なんやかんやする物語だ」
「なんやかんや、って何よ?」
「いや、これ以上教えたら今後が面白くないだろ?まあ本当は3ヵ月ぐらいでかぐやは大人になるはずだったんだが、思ったより早かった。だからこのあとどうなるか俺もわからねえ」
「しばらく様子を見ましょうか」
そして、今更気がついたが隣の部屋から物音がしていた。
「何の音かしら?」
隣の部屋を覗くと、そこにはシェインと村人B、いや、おばあさんがいた。物凄い形相で竹槍を作るおばあさんをシェインが手伝っていた。
「シェインさん、何してるんですか...」
「見ればわかるでしょう、おばあさんの手伝いをしています」
問題はそこではない、どうしておばあさんが竹槍を作っているかが問題なのだが。そんな顔を3人がしていると、シェインは察したように答えた。
「おばあさんが、モブ顔じゃないかぐやさんを見ているとこの世界に嫌気が差してくる、との事だったので手伝ってるんですよ」
「それで最近倉庫の竹槍が増えていたのかよ」
倉庫にはもう既に5千を超える竹槍が備蓄されていた。造とおばあさんが加勢したことにより歯止めがきかなくなったのだ。
「見てください、これはシェインも使えるように弓で撃てるように改良したものです」
差し出された竹槍は、もはや矢と言える代物だった。かろうじて竹槍を保っているのは竹の枝製の細い軸のみであった。
「これは、竹槍と言えるんでしょうか...」
「本人が竹槍って言ってるからいいんじゃねえの?」
竹槍を触ろうとしたタオの手をシェインがとめた。
「タオ兄、先端に漆を塗ってあるので触らないで下さい」
それは刺さると致命傷には至らないが、しばらくかゆみが取れなくなるという嫌がらせ要素の強い代物だった。
「他にも毒とか塗ってある物もあります、見ますか?」
シェインは箱から竹矢を幾つか取り出した。
「「「失礼しました!!!」」」
3人は勢いよく作業部屋を出ていった。
元の部屋に戻ると、造とかぐやが会話をしていた。
「じいや、もうこのような遊びには飽きたのじゃ」
かぐやは竹とんぼを飛ばした。垂直に飛んだ竹とんぼは床板に着地し、そのアンバランスな本体をコマのように10秒以上回し続けた。
「そうじゃのう、そろそろ大人の遊びをさせてもいい頃じゃのう」
造の一言で、一瞬で場がさめた。
「みやさん、まさかその歳でかぐやさんとあんなことやこんなことをするんですか?そんな歳に見えないけど」
「見損なったわ。そんな歳に見えないけど」
「いい歳して変なシュミしてんなー。そんな歳に見えないけど」
「誤解じゃ!断じてそのような事は考えておらぬ!遊びと言ってもただの宴じゃ!」
造はあたふたしながら説明した。
「ワシの運命の書には、かぐやが成長したら宴を催せと書いてあるのじゃ」
確かに造の書にはそのような事が書かれていた。
「みやさん、結構メタい事言いますね...」
「しかし、書いてあるものは仕方ない、やるからには盛大にやろうぜみやさん!」
―――――――――――――――――
そうして、かぐやの成長を記念した宴が開かれることになった。近隣の住民達は喜んで酒や食べ物等を持ち寄り、あっという間に造の家は盛大な宴の会場と化した。
「えー皆様方、今夜はかぐやのために集まっていただきありがとうごぜえやす。今宵は盛大に祝ってやってくだされ」
客人は互いに酒を酌み交わし余興を始めたりして大いに盛り上がっていた。
しかし、タオファミリーは別であった。
「あの、タオさん、みやさんどれでしたっけ?」
「わからねえ!それよりばあさんしらねえか!?」
宴の手伝いをする事になった1行だったが、思わぬ壁にぶち当たっていた。そう、この宴はかぐやの祝の席である以前に村人Aと村人Bの集合体なのである。造とおばあさんを見つけるのは困難を極めた。
「タオ兄、何してるんですか」
シェインがタオの肩を叩いて呼び止めた。
「こうすればいいんですよ」
シェインは1人の村人Aから名前を尋ねると、布に名前を書き米で作った糊で貼り付けた。よく見るとほとんどの参加者にこの名札が貼られていた。
「タオ兄、こうなる事は目に見えていたはずです。ちゃんと対策をしとかないとだめですよ」
かぐやはというと、大勢の村人Aに囲まれていた。
「みやさんや、かぐやはえらいめんこいのう」
「いや、私は吾郎です」
「そうか、それは悪かった。ところでみやさん」
「ワシは与作じゃ」
どうやら大勢の村人Aは誰が誰だかわかっていないようだ。
「何が何だかわからぬが、宴というものは愉快なものじゃのう」
かぐやはこの混沌とした状況を楽しんでいるようだ。
しかしまだ誰も気が付いていなかった。空にある月がだんだん大きくなっていることに。
――――――――――――――――
宴は続いた。皆昼も夜も忘れて3日が経っていた。
酔い潰れた村人A及びB達は互いに肩を支え合いながら帰っていった。
「やっと終わったわ...」
「まさかあんなに長くなるとは思いませんでした...」
「わらわは楽しかったぞ」
三日三晩、宴の手伝いをしていたエクスとレイナは完全にグロッキーだった。それに反して、かぐやは三日三晩ずっと楽しそうに宴に参加していた。
いつの間にか庭先に出来ていた工房からはおそらくまたシェインが竹槍を作っているであろう音がしていた。
「よう、何だ?疲れてんのか?」
タオが割と元気な声で話しかけてきた。
「タオさんは元気ですね...」
「こっそり厠で寝てきたからな」
エクスとレイナは呆れた顔をしていた。
「ところで、この宴は終わっても招かれざる客を呼ぶようだ。」
タオが庭の木を蹴ると、上から村人Aが3人落下した。
「もしもーし、どんなご要件ですかい。玄関ならあっちだぜ」
タオは男3人を門の前まで放り投げた。
「何事じゃ、一体あやつらは何をしに来たのじゃ?」
「多分だが、お前の美貌に寄せられてきたってわけだ」
「要するにストーカーってやつね」
「すとーかーとはなんじゃ?」
「一方的に好意を寄せた結果の末路ですよ」
よく見ると、家の周りの塀から多数の顔が見える。
「ったく、ちょっくらケツひっぱたいてくる」
タオは門に向かい
「シェインから武器を借りてくるのじゃ」
かぐやは工房へと向かった。
タオが門から顔を出すと案の定、多数の人影が見えた。
「おーらかえった!かえった!」
タオがストーカーのケツを順に蹴り飛ばしてゆく。
縁側ではかぐやが臨戦態勢になっていた。その美貌に見合わぬ100%竹製の完全武装であった。
「別にそこまでする必要は無いと思うのだけれど...」
「何を言う、万に一つ相手が歴戦の武将だったらどうするつもりじゃ!」
かぐやは殺る気満々である。
「おら!帰った帰った!」
タオがとある男の尻を蹴ると
「グルルルルル」
何故か聞き覚えのある唸り声が聞こえた。
「あっ、やっべ」
タオが門塀を飛び越えて入ってきた。
「お嬢、武器を取れ!何か知らんがヴィランが外にいる!」
次の瞬間、門から大量のヴィランがなだれ込んできた。
「かぐやさん、前言撤回で」
「目標、前方のストーカーの大群!シェインも弓で応戦します」
「あれがすとぉかあか!わらわが討ち滅ぼしてくれるわぁ!!!」
「どうしてこうなっちゃったんだろ...」
―――――――――――――――
「わらわ達の勝利じゃ!すとおかあどもめ!」
ヴィランの大群は30分足らずで壊滅した。
「すごいわ」
「すごいです、かぐやさん」
塀の外側にいたストーカーも、殆どヴィランに恐れをなして帰っていた。
「しかし、おもしれえこともあるもんだな」
タオが生垣を回り込むと、そこには五人の男がいた。
「まだ熱心に嗅ぎ回る奴がいるとは」
五人の男は明らかにほかの村人Aとは出で立ちが違っていた。しかしタオファミリーとかぐやは思った
((((また全員同じ立ち絵だー!!!!))))
五人の男はいかにも貴族といった格好をしていたが、やはり全員同じ格好だった。
「我は石作皇子」
「車持皇子」
「右大臣阿倍御主人」
「大納言大伴御行」
「そして中納言石上麻呂である」
「「「「「我と結婚してくだされ!!!!!」」」」」
五人の男は同時にかぐやに求婚した。
しかしタオファミリーとかぐやは思った。
(((((どれがだれだー?!?!?!?!?!)))))
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