変えられた竹取物語(グリムノーツコンテスト用)

Shokuji

第1話

今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。


野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。


名をば、さぬきの造となむ言ひける。


その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。


あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。


それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり―

―――――――――――――――


ある夜、一台の牛車が月を発とうとしていた。そして、中には妖美な女性が1人佇んでいた。

傍らにはこれまた妖美で、かつこの月の都の王である天女が見送りに来ていた。


「よいか、お主のその美貌をもって準備を進めるのだ。こちらの事はよい、必ず成功させるのだ」


「かしこまりました」


そして牛車は、人智を超えた速度で地上の都へと走り出した。


直後、天女が1人駆けつけてきた。


「申し訳ございませぬ!例の薬を何者かに奪われて遅れてしまいました」


「はて?もう牛車は発ったぞ」


王は、ここで初めて気がついた。


そう、牛車の中の天女が入れ替わっている事に。


牛車の中、女性は、不敵な笑みを浮かべながら小さな箱に入っていた粉末の薬を、一気に飲み込んだ。


するとその体はみるみるうちに小さくなり、約3寸になるまで小さくなってしまった。

そして、地上のとある竹薮に牛車は入って行った―


――――――――――――――


「これで、終いだぁぁ!」


豪快奔放な青年が1人、大声を出しながら敵、ではなく竹を切っている。


「これで50本っと、ノルマ達成だな」


その青年の後を大量の竹をかかえ、さらには背中の籠にまで溢れんばかりの竹をかかえた青髪の少年が歩いていた。


「タオさん、ちょっと10本分だけでいいんで手伝ってくれませんか?」


ここ数時間で徐々に増えていく荷物をもって竹薮を青年と走り回った少年の足は、そろそろ限界を迎えようとしていた。


「全く、情けない新入りだな」


「重労働を全部後輩に押し付ける上司も情けないと思いますけどね...」


青年は小さく溜息をついた後、少年の持っていた竹の半分より少し少ないぐらいの量を自分の籠に入れた。


「後はじいさんを探して帰るだけだn」

「ワシならおるぞ」


突然老人が青年の背後に現れた。青年と少年は驚いて、背中に背負っていた竹をこぼしてしまった。


「造さん、いたんですね」


「全く、近頃の若いもんは情けないのう」


老人は、2人の持っている竹よりさらに多くの竹を持っていた。


「ハハッ、みやさん流石だな」


「まだまだ若い衆には負けんわい」


青年と少年は竹を籠に均等に入れて、老人の家に帰った。


「ただいま〜」


エクスは家に入ると、玄関先で倒れてしまった。


「タオ兄、新入りさんに何かしましたか?」


青年、タオの妹分であるシェインが部屋の奥から尋ねた。


「いや?特に何もさせてちゃいねえけど?」


そうタオが答えるや否や、部屋の奥から竹槍が3本飛んできて、壁に寄りかかっていたタオの両脇と股下の壁に突き刺さった。


「いやーちょいと荷物持たせすぎたかなーなんてね」


「だろうと思いました」


シェインはエクスを布団は入れると作業に戻った。部屋の中でレイナは竹ひごを編んで籠を作り、シェインはおぞましい数の竹槍を作っていた。


「シェインという嬢ちゃんや、えらく物騒な物を作っておるのう」


並べられた竹槍は多種多様であった。長いものから短いもの、先端の強度の違いや熱の入れ方など様々な基準で分別されていた。


「みやさん、シェインはこの想区にいる間に竹槍を極めたいのです」


竹槍に油を塗るシェインの顔は、好奇心で溢れていた。


「ところで、お前さんらが来てから3日が経つが、かおすてらあとやらは見つかったのかい?」


タオは首を左右に振った。


「カオステラーの気配は夜には感じるけど、昼になると一切感じないわ」


「ところで一つ気にかかる事があるんだが」


タオが話を切り出した。


「ここの想区に居る人が何故かみんな瓜二つなんだ。みやさんと奥さんは大分外見が違うけど、今日竹を取りに行った時、気付いちまったんだよ」


「一体何が?」


「ここの想区の住民が男女の違い以外一切外見が変わらない事だ」


タオ曰くここら一帯の人々は外見が全く一緒で、村人Aと村人Bしかいない村のようだったという。もちろん造とその奥さんも例外ではないらしい。


「一体どういう事じゃ」


「みやさん、運命の書を見せてもらってもいいですか?」


シェインは造の運命の書を開くと、そこにはこう書いてあった。


<さぬきの造 竹取の翁で、《モブ》である。立ち絵、村人A>


また、造の奥さんの書には、


<造の妻 名前はまだ無い。《モブ》である。 立ち絵、村人B>


「おそらくだが、この想区はシェインはわかると思うが、<竹取物語>の想区だ。ガキの頃よく聞かされた」


シェインが続ける。


「そして、この想区においてみやさんは重要な役割を担ってるはずですが。モブ扱いはおかしいですね」


つまり?


「カオステラーが関わっている可能性があるわね」


すると造は形相を変えて


「つまり、お隣の与作さんと太郎さんの区別がつかんくなったのは年のせいではないのじゃな」


そして翁は慣れた手つきで竹を斜めに切った。


「シェインお嬢ちゃん、その竹槍作り、全力で応援するぞい!共にかおすてらあを討つのじゃ」


「みやさん、グッジョブです」


スイッチの入った2人は、タオとエクスが取ってきた竹を瞬く間に使い切ってしまった。



夜が更けた頃。エクスが目を覚ますと、目の前には造がいた。


「エクス殿、悪いんじゃがもう一度竹取に付き合ってくれんかな」


月の出ていない暗い夜だったが、タオファミリーと造は再び竹を取りに出掛けた。理由はもちろん竹槍の材料調達だが。


エクスが竹を切っていると、ふと茂みの向こうに光が見えた。不思議に思って近づくと、一本の竹がまばゆいばかりの光を放っていた。


「皆さん、来てください!」


1行が近づくとさらに光は強くなった。


「タオ兄、これって」


「間違いねえ、ここはやっぱりかぐや姫の想区だ。そしてこれは<アレ>だ」


造が竹を切ろうとすると、周囲から妙な呻き声が聞こえた。


「この呻き声はもしかして!」


エクスが急いで振り向く。図星だった。


「皆さん、臨戦態勢になってください!そしてみやさんは避難してください!」


茂みから一斉に無数のヴィランが飛び出してきた。


「クソッこのタイミングでかよ!」


「やるしかないわね!」


「竹槍の恐ろしさ、思い知らせてやります!」


――――――――――――


戦闘が終わり、場には無数のヴィランに代わり竹槍が刺さっていた。


「シェイン、やっぱりお前槍の使い方下手だったな」


「タオ兄、やっぱり途中で投擲に転換して正解でした」


造は光を放つ竹を切断した。タオとシェインはもしや竹の中には小さい村人Bがいるんじゃないかと思ったが、中にいたのはまさに物語通りの赤ん坊だったので安心した。


「これはどうしたことじゃ、中に赤ん坊がおったぞ」


「小さくて可愛らしいわね」


「どうするんですか、この赤ちゃんは?」


一同はしばらく話し合った結果、赤ん坊を造の家で育てることにした。そしてかぐやという名を授けた。


レイナは、この夜だけはカオステラーの大きな気配を感じなかった。しかし、かぐやからは少しだけ嫌な雰囲気を感じた。

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