懺悔:何故私は「ちが、違います!」と震え声で言ったのか
人生は大きな勘違いでできている。勘違いが膨らみ形を作り、勘違いが人間を加速させて亜音速で壁に激突する。
壁に流す涙はないが人間は泣く。それはそれは赤子のように。
それは6年前の出来事でした。とある事情により声優事務所を離れてフリーで活躍していた
もちろんそんなにうまくいくはずも無く、毎歩足から血が吹き出す針地獄にマスタードガスが漂うレベルで苦しみを抱えておりました。
さて、人生どうでもイナズマンな状態になっているのにどうしてイベントをやるのか?答えは簡単です。承認欲求が大変な状態になり、人にチヤホヤされたいからなのです。そして願わくば、願わくばうら若き女性に「キャー!ポンチャックマスター!うちをメチャクチャにしておくんなまし~!」と言われたかったのです。
なんと悪しき考えなのでしょうか?周りの人間は必死に自分自身を高めようと努力、友情、天下布武を重ねているのに私という矮小な
しかし俺は声優だ。ある程度仕事もした。そんな俺が女性にチヤホヤされないのはおかしいではないか。前世で僧でも殺したか?そんな思いを抱いてHold On Me。毎回のイベントを必死でこなすマシーンとして存在をしておりました。
イベントも6回程していると常連客が生まれてきます。それはこんな雑魚でも同じなのです。定期的に同じ場所でイベントをやり続けると自然とお客様は増えるのです。
赤字が確定しているレベルの集客でもお客様はいる。そして今までの集客リストを見ていると、とあることに気が付きました。全く知らない常連客がいたのです。1回目から来てくれている。仮にその名を「ゴメス子」としましょう。
なぜゴメス子なのか?それはこの物語を30分で書くとTwitterに書いてしまったのでしょうがなくそうなってしまったのです。勢いですね。あと、兄がマザー2の女の子キャラに「ゴメスJ」と名付けたのがおもしろ過ぎて未だに覚えているからです。ちなみに主人公は「Jリーグ」でした。なんだこのJ繋りは?フラッシュピストンマッハパンチなのでしょうか?
うるさい!いい加減にしろ!メインストーリーを進めないといけないんだ!不愉快だねえ君は?少しだまりなさい。ほら、飴をあげるから舐めているが良いよ?
ゴメス子さんは誰かわかりませんでした。イベント後はライブハウスの中でちょっとした打ち上げを行うのですが、そこで仲良くなった人、元から仲良かった人もいます。遠くから僕を見つめ話しかけるでもなく、イベント終わりのピロウトークに耳を傾けている人もいます。しかし、認識できない。一緒にイベントに出演していたのが地下アイドルだったので男性のお客様が多めです。地下アイドルに「ゴメス子って君の友達?」と聞いても「知らないです」としか返ってこない。
もしかしてこれはファンか?俺のファンなのか?まさか、それはセックスハプニングの幕開けなのか?濃厚エッチタイムスタートなのか?どういうことだ!?私は高まりました。これは女性ファン獲得に向けて走ることができるかもしれない。一体どんな人なのか?その名前でインターネット検索をシてみたのですが何一つヒットしません。しかしイベントに来てくれているという事は私の動向をインターネット上で見てくれているに違いない。ならばインターネットを活用して今度のイベント終わりに話しかけてくれるように仕向ければ良い。セックス寄らねば俺が寄る。僕は夜に反応する君だけの磁石さ!かかって恋!会いに恋!
私は当時更新を続けていたBlogに常連さんにプレゼントする旨を書き込みました。声優なのでとりあえずカッチョエエセリフやナレーションをCDにしてプレゼントするという、考えてみたら何も嬉しくねえ地球環境を汚すだけのノベルティーを作成してしまっていました。しかし、女性で声優の私のファン。ならばこの特別なボイスに食らいつくに違いない。どんな勘違いをしてしまったのか私はそれ作ると宣言し、次のイベント向けての準備を続けていました。
ゴメス子、一体どんな子なのだろうか?まさか仲間由紀恵?どっこい柴咲コウ、まさか三倉佳奈?いやいやもしや三倉茉奈?好みの女性像を描きながら高まる気持ちと膨らむ陰嚢を抱えた八丈狸はイベント会場に向かう。その日は完全に精細を欠いていました。セックスハプニングが起こってくれると信じていたからです。まあ、アイドンケアーでレットイットビー。やることはやって常連さんにCDプレゼントの運びとなりました。今まで来てくれている友達は爆笑しながら受け取ってくれたり、地下アイドルファンは「君のを貰ってもねえ」と笑いながら受け取ってくれました。まあええ感じじゃないですか。一笑いあったならそれで良いのですよ。そして受け取った人を名簿に書き込み、残っているのがゴメス子だけになりました。
ライブハウスにはもうチラホラとしか残っていません。どこだ?どこに俺のカワイコチャンが?帰ってしまったのかと肩を落として楽屋に戻るつもりで歩きだすだと声がしました。
「……………ですよね?」
「はい?」
「私、知ってるんです」
「え、あの、あなた誰ですか?」
「後藤さん、なんで隠してるんですか?知ってますよ?」
「え、えっと、地下アイドル氏、友達ですか?」
「いえ………」
「お名前は……」
「名前、そうです、後藤さん、どうして名前を変えているのですか?」
「はい?いや、僕は本名で活動をしていますが……」
「やっぱり…言えないんですね。私分かります。後藤さん○○出てましたよね?CDドラマ、あの絡みのシーン凄い興奮しました。でも、やっぱりオトコの人ってオトコ同士で…」
めっちゃ喋り始めている。なんだ。この人は目の前の俺を見ないでどこを見て喋っている。俺に向かって話しているのか?延々と話す。ずっとずっと話す。ゴメス子が口に出すタイトルは超有名BL作品だ。そしてその役をやっているのは超売れっ子のあの人だ。声質は似ていると言われたことがある。まさかその人の変名を俺と勘違いしているのか?
「CDください」
「ひゃい!!どうぞ!」
「嬉しいです。これで確認できますね?何回も聞きます。でも私には本当のことを教えてくださいよ?後藤さんって○○さんですよね?」
「ちが、違います!」
「またまた~!大丈夫、私、秘密にしておきますから。大丈夫ですよ。うふふふふ」
何だったのだろうか?彼女は私の欲望が作り出した幻だったのだろうか。悪しき思いで邁進しようとすると悪霊を召喚するのかもしれない。私はその後もイベントを続け、ゴメス子の名前は常にあった。しかし、急に来なくなり、それから見なくなった。
多分ですが、ゴメス子はまだこの世界にいる。そして、自分の中で符号した声優に近付きこう言い続けるのだろう。
「あなたは○○さんですよね?」
以上を「何故私は「ちが、違います!」と震え声で言ったのか」の懺悔とさせていただきます。
ちなみにこの物語はジャスト30分で書きました。
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