懺悔:何故私は泡泡プールパーティーに行ったのか~前編~

「泡泡プールパーティーに行きませんか?」


 グループLINEが止まってしまった。もしかしたらこの世界の全てが止まったのかもしれない。体を流れる血、世界を包む大気、地球の自転。その全てが「え?」と言葉を発し平等に活動を止めた。

「なんですかそれは?」

「サバトみたいな物でしょうか?」

 そんなこと私に言われても分かる訳がない。私はただ『泡泡プールパーティー』という単語はTwitterドブ川で見かけたのだ。しかしその言葉は世界で毎秒生まれる美麗美句の中でも中身があり、生まれたばかりの赤子のように今後の可能性を感じさせる魔法の単語だった。

「泡泡プールパーティーは泡泡プールパーティーです。泡とプールのパーティーです」

「そんなインターネット都市伝説が存在するのですか?」

「新木場agehaで開催されます」

「インターネットで見た」


 私は35才の契約社員である。契約がいつ打ち切られるのかわからない恐怖の中で毎日を生きている。そんな私にも夢があった。私は声優に成りたかった。そして声優に成ることができた。しかし声優では食って行けずに辞めてしまった。いや、逃げてしまったのだ。いつも心の中で逃げた私が泣いている。膝を抱え小さく震えて泣いている。そんな矮小な私が少し顔を上げた。煤けたネオンが輝く百鬼夜行の完全世界。極彩色の一式陸攻が飛行機雲を描いた。私は涙を止めた。その飛行機雲に、その望んだ未来に、その単語が刻まれていたのである。


「泡泡プールパーティーに行きましょう」

「行きましょう」

「A君、怖くないのですか?不良がいるかもしれないですよ」

「B君、そんな事を考えるべきではない。後藤さんの言葉を信じるよ」

「ありがとうありがとう。しかし無理強いはしないからね?もしかしたら全身をアバクロ、アルバローザ、クロムハーツで着飾ったメンズが金属バットで私たちを殴りにくるかもしれない」

「そんなことがあるのですか?」

「あるでしょう。私たちはパーリーピープルではない。インターネット粘菌生命体である。異物はどの世界でも殺されて当然なのである」

「一理ありますね」

「そうだろう?しかしだ。私たちも一つの生命ではないか。生きて飯を食い排泄をする。そんな私たちは彼らと同種ではないか!」

「しかし…しかしですよ」

「B君。発言したまえ」

「私たちにはセックスが存在しません」

「馬鹿野郎!セックスがなんだ!甘えるんじゃない!泡泡プールパーティーは泡泡プールパーティーでしかありえない!そこにセックスを考え参加せぬなど貴様は敗北主義者だ!そこに直れ!敗北主義者はアキレス腱を切断するしかない」

「後藤さん。私は敗北主義者ではありません!可能性があると申しただけです!」

「なるほど。ではもう一つの可能性もその頭にある訳だろう?」

「もう一つとは…」

「我々がセックスになると……?」

「手を取って立ちたまえ。同志よ」


 泡泡プールパーティー、そこでは何が行われているのだろうか。私はインターネット世界に存在するパーツを集め一つのパズルを解こうとしている。敗北主義になどなるものか。私はもう逃げない。私の中の小さな私は生まれたての牛みたいに震えている。その目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっている。この震えは恐怖なのだろうか。まだ見えぬ存在への畏怖なのだろうか。違うさボウズ。こいつは武者震いさ。


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 世界は悲しみに包まれている。飯を食えずに痩せ細り死ぬ子供が沢山いる。しかし、しかし、しかしだ。だがしかしだ。世界はまだまだ捨てたものじゃない。なぜなら太陽はまだ登ったばかりだからです。


「これが泡泡プールパーティーの様子です」

(Aは退室しました)

「この敗北主義者め!!!!!敗北主義者は殺せ!!!!!殺して肉骨粉にして問題にしてやれ!!!!!」

「後藤さん。僕も、僕も逃げたいです。なんですかこれは。不動明がデビルマンになったあの場所その物じゃないですか」

「我々も人間性を捨てる瞬間が来たかもしれない」

「後藤さんはクラブに行ったことはありますか」

「ある」

「巨悪が我々を踏み潰そうとしたら助けてくれますか?」

「B君。人間は考える超兵器だ。私が君の盾となり、君が私の剣となるのだ」

「全くわかりません」

「奇遇だな。私もだ」

「では日曜に」

「はからいたまえ」

 私はアマゾン国家の敵を開きそれっぽく見えるタイパンツを探しはじめた。数少ない知識。そう、私はタイのクラブで10日連続で遊んだ。酩酊しすぎて現金もスられた経験がある。その時、ナウなヤングはタイパンツを履き、ポイを回し、便所の裏で肉欲遊戯を楽しんでいた。人間は模倣する獣である。

 タイパンツ1900円送料無料を申し込み、インターネットブラウザを閉じました。それと同時に三千世界は開き、黄金のカラスが私を新しき世界に導いてくれたのを感じたのである。

「やってやる。俺はやる。俺は逃げない。泡泡プールパーティーで泡泡プール野郎になるのだ。逃げてたまるか」

 そんな時、携帯が鳴る。こんな時はたいてい悪い知らせだ。案の定BからのLINEだった。

「後藤さん。恐怖で震えています」

「Bよ。何が怖い」

「殺されるかもしれません」

「Bよ。殺されはせぬよ。現に今までの開催で死者は出ておらぬ」

「運河に死体を投げ入れフカに食わせたからでは?」

「では私がその鱶をかまぼこにして喰ろうてやろう」

「安心しました。しかし勇気が出ません」

「では勇気を、我々の英気を養う第一陣を開催しようではないか」

「どこでやるのでしょうか?」

「赤羽だ」

「ああ、後藤さん。私は落ち着いてきました。赤羽、北区。庶民的、人情、下町。全てが我々の心に染み込んできます。私の住む相模原にも焼とんの香りが広がってまいります」

「そうだろうそうだろう。赤き羽に包まれし勇者となり、不死鳥が如く炎を纏い、新木場に討ち入ろうぞ」

「やりましょう。やれる気がしてきました」

「では。後日」


 赤羽は素晴らしい街でした。孤独のグルメで見た「まるます」は行列で入ることができませんでしたが、焼とんの旨い店を見つけキンミヤを一本開けてしまいました。私の酒量の限界はほろ酔い2本、カロリ1本なのですが、鬼神と化した私はウワバミ、2度ゲロを吐き怪気炎を上げるのです。

「頃合いだ。覚悟はできたか」

「足は震え、口は回らず、体は重うございます。これ即ち万事良好でございます」

「この店の払いは私に任せたまえ。香典代わりさ」

「では私は代わりにあなたの骨を拾いましょう」

「わっぱがよう吐かしおる」

 赤羽駅で出会った時は震えていた少年31才。彼はもう少年ではありませんでした。革命戦士でもありませんでした。


 侍


 楊枝を咥え、眩しそうに太陽を睨む彼は侍その物でした。


 万事都合よし。では向かおうか、泡泡プールパーティーに。


「後藤さん、りんかい線は高いので池袋まで出て有楽町線で行きましょう」

「良きにはからえ」


 そして私たちは、新木場に着いたのである。心の刀、鯉口を切って。


~疾風怒濤の次回へ続く!!!!~

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