懺悔:何故私は表現活動を続けてしまうのか~巻ノ9~

 表現は変わり続ける。自分がベストだと考えた表現も一作完成させると10日前の昼食のように頭から消えていく。新鮮さを求め、新しいものを求め、珍しいものを求め、普通を避け、禁忌へと突き進む。エスカレートはまるでインターネットで調子に乗った若造だ。

 自分の中で成長を続ける表現に多少の笑顔を向けられるようになっていた。憎み恐れた物ではあるが、現在の生活に彩りを添えてくれているのは確かだ。たまに膝の上に乗ってくる表現がどんな成長を続けるのか。社会人としての活動は続けながらその行く末を見たいと感じてしまっていた。それと同時にこの表現が大きくなってしまった時、私はまたしても逃げるのか?それとも表現と旅に出ることを選ぶのかを考えてしまう。

 表現は今もブロックで遊んでいる。ブロックを積み上げている。その積み上げたブロックの上に私が書いた文章が束になって乗っている。その積み上げたブロックの山を見て、多少いびつでも元気に育ってくれていることを温かい目で見つめていた。


 私が書き上げたのは青春小説だった。それも声優専門学校時代の思い出をパトスだけで書きなぐった、小説と呼ぶには余りにも稚拙な出来だった。ありがたいことに周りの人やプロまでも評価してくれたことにより、インターネットでは「小説を書く人」と認知していただいた。

 次は何を書くか?カクヨム、周りの人間は強い。私が尊敬する人も作品の準備をしている。違う所で有名な方もかなりの数が参戦している。違う場所で有名になり損なった方も怨念を身に纏いながら戦いに向けて刀を研いでいる。


 過去の焼き増し一本で何とかなるはずがない。それに今なら何を書いても良い。インタビューを主題にした作品を書きたいと感じていた。noteで「【男性器名チン○】一周忌」という大コケした作品があった。それは私が【男性器名ペ○ス】の思い出を偽インタビューで語るだけの物だった。それを膨らませて何か一本書こうとしていた。


 インタビューは不思議だ。インタビューというだけで「本当の出来事」を話しているように思える。聞く人がいて答える人がいる。たったそれだけの舞台装置で「本当のことを伝えたい」と誤認してしまう。もし答える側が嘘ばかり吐いていたら?もしインタビュアーが嘘ばかり吐いていたら?お互いの嘘が絡まり合うことで誰にも突き止められない嘘が誕生する。しかし矛盾と矛盾が掛け合わされたその嘘は時に真実を光らせる。もしくは片方だけが嘘で隠そうとしていたらどうなるだろうか?1人は知りたい、1人は言いたくないが聞きたい。


 インタビューだから一度に登場できる登場人物は2名だ。場面も移動することができない。閉鎖された環境で話しは膨らむのだろうか?しかし考えてみて欲しい。友達や家族と話している時、その話題は一箇所で固まり胎動を止めるだろうか?飛躍し、巻き戻り、力を溜めて大きくなる。お互いに言いたいことを言い、聞きたいことだけを聞く。完全に断絶したコミュニケーションの中で形になる言葉だけが舞い踊る。何気ない会話だからこそ聞き返さない。その話を録音して聞き直すとなるととんでもない事を話しているかもしれない。その場にいる人間の言葉を後から思い出すと「なんであんなことを……」の連続だ。もう形になった世界は元に戻らない。たとえそれが重大な事件について話しているとしても。


 「英雄的な振る舞いをして死んでしまった人を巡るインタビュー」が頭の中に浮かんだ。インタビュアーはその人物のファンで、その人についての本を出すために多くの人に話を聞く。そこで浮き彫りになるのはどこまでもとんでもない事ばかり。偶像が壊れていく中で、偶像を何とかして信じる主人公。実はその英雄的振る舞いをした人は死んでいなくて、最初にインタビューをしたホームレスがその人だった……そして主人公は社会や人間を知り、大きく成長する……


 何か違う。これは違う。単純に面白くない。全員が違うこと、主人公の予想外のことを言うのは面白いかもしれない。だが、架空の人間の陰口を聞いて面白いだろうか?「猫を助けていた男が犬を蹴っていた」それが面白いはずがない。何かが違う。一度青春物を書いてしまったのでそのロジック「未熟な人が困難を乗り越え成功をつかむ」を違う手法でもう一度やろうとしている。文章を書きはじめてまだ一年も経っていない。それなのに守りに入ろうとしている。


 真逆のことをしてみてはどうか?青春小説は青春小説としてそのままで良い。

「信じてきた物に裏切られるが成長する」

 の逆は何か?

「目を背けてきた物を直視して転落する」

 ではないのか?


 良いかも知れない。その流れで少し考えてみる。何から目を背けるか。私なら何から目を背けるか?多分、人を殺したとしたらそこから目を背けるだろう。いや、違う。人を殺してしまったら裁判などで嫌でも直視しないといけない。舞台装置として破綻している。だったら死刑囚へのインタビューならどうか?死刑囚へのインタビューってどうすれば良いのか?文通にするか?多分違う。

「事件を起こした人の近くにいて結果的に追求されずに逃げた人」

 はどうだろう?悪くないかもしれない。その立場にはどうやったら成れるのか?凶悪事件を舞台として考えていたので色々な凶悪事件を調べる。すると子供が子供を残酷な方法で殺した痛ましい事件が目に入った。その事件は世代の人間として忘れることができないが、そこにある一つの謎


「共犯者はいたのか?」


 その部分が妙に目に留まる。実際に共犯者がいたらどうする?共犯者が板として主犯がそれを黙っている状況はどんな状況だ?口を開くと共犯者に殺される状況だろうか?自分が刑務所に入っている間に共犯者が自分の家族を殺しに行く。それを止めるために主犯は共犯者の存在を語らなかった。そして共犯者はそれが本当なのかを確かめるために、関係者にインタビューをはじめる。


 「これは青春小説というかミステリーじゃないのか?」


 ミステリー小説。私が触れたことがあるミステリーはSFCの「かまいたちの夜」……他の作品は恐ろしいことにゼロだった。なぜミステリーを読んでこなかったか?それは私の頭の悪さに全ての原因があった。トリックを解説されたとしても理解できないのだ。登場人物の名前が覚えられない、状況が理解できない、人間関係が把握できない。よくわからないままにページを進めるといつのまにか犯人が判明している。

 私は根っからミステリーに向いていなかった。憧れではあるが私の脳みそがその舞台装置を作れるほど上質にできていない。


 だからこそ、アリなのかもしれない。カテゴリなんて言ったもの勝ちだ。それに今まで書いていないジャンルを書くと周りの人がびっくりしてくれるかもしれない。


 そう思った時、私の中の表現が立ち上がり、しっかりとした足取りであるきはじめたことに気が付いたのだ。


 状況を整理する。

・基本的に1対1のインタビュー

・補足は主人公のメモという形で行う

・主人公は重大な事件の関係者

・犯人が本当に口を割っていないかを調べに行く

・インタビューする人間は想像力や自分で調べたことで真実に近付いている

・主人公はインタビューをする側なのに、隠していた自分の心を見つけ出されてしまう

・「まさかそんなことは無いだろう」の思いを深めるためにより深みにはまっていく…


 気がつくと舞台装置が出来ていた。これは割と良いんじゃないか?あとはこの形で書く事ができるのかが問題だ。書けるはずだ。私は無理やりにでも10万字を書いた。あれと同じことをすれば良い。


 悪くない選択だ。まずはタイトルを考えよう。タイトルとオチができれば全てはうまくいく。オチは主人公が殺すか殺されるかしかない。いや、殺すか。主犯に殺されて主犯がまた同じくインタビューを行う。因果的ストーリーだ。


 オチは決まった。タイトル。主人公は自分を完璧と思っている。完璧にインタビューを行い、完璧に安心しようとしている。その完璧の裏には完璧な混沌がある。彼は完璧にあと一歩及ばなかった。インタテグラルなインタビューにあと一歩たどり着けなかった。未完成のインタビュー、最後に誰かが1文字付け足す。


「インタビューインテグラ」


 舞台は整った。後は人だ。どうやってこの舞台の上で人を動かすか?そこに何が生まれるのか?


 私はただ、掘り起こしたいと思ったのだ。


~続く~

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