懺悔:何故私はオカマの顔面に張り手を打ち込んだのか。

暴力で何かが解決する事はあるのでしょうか?戦争はさらなる戦争を産み、小さな暴力は大きな復讐を作り出します。その無限の連鎖、無間地獄、憎しみの冥府魔道には何も無い事はわかっています。


人間の手は愛する人を抱き寄せたり、愛しい存在に触れたりする為に進化してきたのではないでしょうか?「黒ギャル 無修正」「本番 チャイエス 日暮里」等と検索する為に生まれてきたのでは無いのです。必要に駆られ、そして愛する存在を確かめる為に生まれ進化してきたのです。言う成れば人としての証明がこの両手では無いのかと考えています。


しかし私はその手を、右手を、優しさを感じる為の右手をオカマの顔面に打ち込んでしまったのです。


私が高校生の頃、関西の中核都市でそれなりに偏差値が低い高校に通っていました。共学です。ヤンキーも居ます。私の世代の女子はスカートが長くみんな頭にジョイスティックの様な、もしかしたら男根のメタファーなのか?と思ってしまう髪型の子が多かったです。


高校時代の私は非常に地味でした。彼女を作るとかには全く興味が無く、放送部員として図書室でプロレスをする事に命を燃やしておりました。その時中村君の実況で「おおっとー!はだしのゲン!はだしのゲンを使うか!?原爆固めが出るのかー!?」と言う名実況は未だに飲み会で話題になる事があります。


そういう風に部活内でのんびりと青春を浪費する事で「俺たち高校卒業したらどうなるんだろう…」と言う不安を必死で押し殺して居ました。卒業生の40%がフリーターになる学校です。皆、未来は取りあえず置いといてその瞬間をスパークさせる事で何とか精神の平衡を保っていたのです。


部活と言うのはメイクラブやアベック結成の場になる事が多いですよね。もちろんこの放送部にも女子は居ました。今で言うならオタサーの姫と言う所でしょうか?しかし男が数人と女が一人、そしてその女がいなければ放送部の仕事なんて全く回らなくなるので誰も手を出さないで、それでいて大事にはしていました。


今でも思い出します。夕暮れの図書室。私は何故か図書室に置いてあった「BANDやろうぜ!」のコスプレ写真コーナーでエロい女を探しておりました。高校生です。抜こうと思ったら小石や銀杏でも抜けますよ。そんな時に「後藤君…ちょっと良い?」とその女。おや?こんな深刻な顔は見た事が無いなあ。よかろう。話したまえよ?手短にね?私は自宅に帰ってプリティーサミーを見ないといけないのだからね?とはおくびにも出さずに無言で頷きました。


「私、A君の事が好きなんだけど…話すきっかけが無くて…」


ほう、成る程。A君とは陸上部短距離のエースで非常に女の子から人気の高い男でした。私とはたまたま小中学校から同じで、会えば言葉は交わしますがそこまで親しくは無かったです。


こいつがオカマです。私はA君の顔面を思い切り叩きました。しかしそれはまだ先のお話し。


「それだったらさ、Aは俺の近所だし、放送部メンツも集めて俺の家で遊ぶ?最初はみんなが居る方が良いでしょ?」


と提案すると女は大喜び。私は普段放送部の仕事を任せていた事に罪悪感があったので力になる事で恩返しでもしようかと思っていました。


後日たまたまA君と廊下ですれ違いました。


「あ!Aよ!今度放送部メンバー集めて俺の家で遊ぶが君も来るか?」


Aからは何故か少し甘い匂いがしました。男の癖に猪口才な。にんにくや豚肉を食え。


「えー!?良いの!?僕も後藤君と久しぶりに遊べたらって思ってたんだー!」と快諾しました。


「てかAよ、昔坊主だったのになんで武田鉄矢みたいな髪型に成っているのだ?あと、香水付けてるの?てめえオカマかよ。ちょっと笑ったじゃないか」


「いや!違う!あの…!あの…陸上部だからさ!走ったら体臭く成るじゃない!それに髪の毛は坊主しかした事無かったから…その反動で…」


「そうなのか。そう言えば俺もスポーツ刈りしかしてこなかったからこんな北欧メタルの様な髪型だけどな。」


「ガハハハ!」

「アハハハ!」


ああ、眩しいかな青春時代。私はこの時ロン毛で髪質的にもメガデスのデイブ・ムスティンみたいでした。そんな私でも友と笑い合い勉強に励み毎日を過ごしていたのです。


でも私は気になっていました「A、何かオカマっぽいな」と。


「でも、本当に誘ってくれてありがとうね!正直後藤君と遊びたいと思ってたんだよね!小中一緒の人って他は居ないからさ!」


「では後日!」


てな感じでした。しかしどうにもオカマっぽい。なんだか目がキラキラしていた。考えすぎかしらん?そんな事を考えながら遊ぶ日が来ました。

女と話した手筈はこうです。


1.私を含め四人の男+女+Aの六人で遊ぶ。

2.四人の男はゲームが大好き

3.私はNEOGEO本体を持っているので四人でギャアギャア騒ぎながら遊ぶ。

4.ゲームが好きじゃない二人は疎外感を感じるだろうからタイミングを見て違う部屋で話せば良い


こんな完璧なプランでした。

さあ、ゲームのはじまりです。愚鈍な友人諸君、私の不知火幻庵を止めてみたまえ!!そんな感じで猿の様にサムライスピリットをやり狂って居ました。

ススっと女とAが消えて行くのが分かりました。

そんな事に目もくれず、目の前のワンフーをブチ殺す事に命をかけたり、飽きてきたのでファイヤースープレックスをしたりと昔のNEOGEOソフトを遊びつくしていました。


唯一の誤算と言えば、ファイヤースープレックスをやっている時、私が連射パッドを使っているのがバレてリアルファイトに発展しかけた事です。「NEOGEO持ってるのは私じゃないか!私には使う権利がある!」「てめえ!他のなら良い!でもそのゲームって連射以外特にテクニックもねえじゃねえか!」「黙りたまえ!持ち主が一番偉いのだ!」「ファック!俺は帰るぜ!」と一人帰った事位でした。誤差の範囲のアクシデントです。


そして夜になり、友人たちが一人二人と帰り、私、女、Aの三人になりました。しかし女とAが戻って来ない。どうしたのかしら?もしかして性行為をしているのか!?私は今日のオナニーは充実するのではないのかとの希望を胸に二人が消えた部屋をそっと覗きました。


二人は化粧品の話しで盛り上がっていました。

おっと、こいつはどうしたことか?いとおかし。いと変じゃないか。くわばらくわばら。私は何も見なかった事にして部屋に戻りエルフを狩る者たちを読みふけっていました。

しばらくするとAだけが部屋にやってきました。


「あれ?女は?」


「帰ったよー。でも後藤君の部屋に来るのは久しぶりだなあ。」


「そうかそうか。さて、喉も渇いただろうにマミーでも注いで来ようか」


「僕あの子に告白されたよ。」


「そうなのか。良いじゃないか。化粧品の話ししてたけど打ち解けていたねえ」


「ああ、それは違うよ。僕オカマだから色々聞いていたの」


「いきなり言うんじゃないよ。やっぱりか。」


「わかってた?」


などと会話をしていたのを記憶しています。断っておきますが、私はいわゆるゲイ、レズ、女装など性的なマイノリティーに対しては何も感情を持っていませんよ。応援も差別もしない。「別に好きな対象とか気持ちが違うだけでしょ?ストレートでも巨乳とか貧乳好きとかあるんだし、それの発展系だ。好きにせよ」と言うのが持論です。その上で続きを読んで頂ければ光栄です。


「雰囲気がオカマじゃないか。小中の時から何かそんな気がしていたぞ」


「でも後藤君は普通に接してくれていたよね。」


「俺はそう言うのに何も無いからねえ。好きにしろって話しだよ」


「良かった。安心した。」


「ではマミーでも入れて来るので待っていなさい。」


とドアに近づいた時です。鼻腔に甘い匂いがしたのです。足音は聞こえなかったが確実にAは私の背後に居ます。おや?と思ったのですが振り返るのもアレなのでそのままドアを開けようとした時です。そっと抱きしめられました。


「何をするのか」


「僕ね…めっちゃ淫乱なんだ。」


「それは分かった。しかし俺にその気は無いのだ。離さないとひどい事になるよ」


「後藤君チンコ大きそう」


「話しを聞きなさいよ」


「僕な…男性器フェチなんだ…」


なんという事でしょう。今でも私は新宿二丁目に行けば結構モテるのですが、この時からその片鱗があったのでしょうか。人に愛されるのは素晴らしく光栄です。だが、こっちにもそれを受け入れるかどうかの決定権はある。恋愛は分かる。同性愛も分かる。だが、それを相手に強制するのはどうなのだ?恋愛は相手を屈服させる事が出来るからやりがいや楽しみがあると言う。ではこれは勝負なのか?私がAに体を委ね童貞男根を弄ばれるのは正しいことなのか?否。正しい間違っているの問題では無い。男しての問題だ。俺は男として断固とした意見を言い、きちんと分かってもらおう。ぶん殴っても良いが昔からの友達だ。話せば分かる。なぜ人間は話せるのか?それは武力によって起こるべき損害を予測し、お互いの妥協点を見つける為に言葉が生まれたのだ。それにこの両手は人を殴るためにあるのでは無い。愛する人を抱きしめ、愛しい物に触れるためにあるのだ。Aは俺の男根に対して愛しいと思っているかもしれないが、それはそれだ。俺は嫌だ。ならば会話しかなかろうが。よし、話そう。話せば分かるのだ。


私は意を決して振り向いた。傷つけるつもりは無い。オカマとして色々と人に言われて来たAを傷つけたくは無い。ソフトに話して分かって貰おう。私は振り向いた。その刹那


Aはキス顔をして居た。


瞬間俺の心に火が付いた。


相手の両手をすっと抑えていたのだが私の右手が腕をなぞってそのまま一直線に目的地に向かったのだ。俺の手は加速する。手首発アゴ行きの超特急は腕、肘、二の腕と全ての停車駅を飛ばして一直線に終点に向かったのだ。


「アグゥン!!!」


Aはまさか自分の顎に快速黒潮が激突するとは思っていなかったのだろう。聞いた事が無い音を出しそのまますっ転んだ。私は怒りに打ち震えていた。何事にも順序がある。私は友達だ。友達にいきなり男根を触ったり振り向いたらキス顔で待っていたりするか?しないだろうが!私をインスタントな性の対象として見ていた事に腹が立ったのだ。こう言う風に見境が無いから性的マイノリティーが差別される原因になるのだ!全身から怒気を放出し、私はAを見下ろしてこう言った。


「や、やめて…!俺、そっちちゃうし!」


私は完全にびびっていたのである。その後の事はあまり覚えていないが、Aは取りあえず私に謝罪して家を出た。もしかしたら夢を見ていたのかもしれない。そう思いながら家族と夕食を食べ、自室に戻った。そこには甘いAの香りがまだ微かに残っていた。その香りを小さく感じながら現実だったのだと大きく知ることになったのだ。

こう言う事になってしまったが友達は友達だ。普通に付き合おう。大丈夫。普通が一番だ。


その夜は心が消耗していたのか布団に入ってすぐに寝てしまった。特に夢を見る事も無く朝を迎え、普通に学校に行き放課後図書室に行った。そこにいつも通り皆が居て女も居てまた名実況が冴え渡る中、私は脇固めでギブアップを奪い笑顔で日常を楽しんだのだ。


帰り際、校庭で走るAを見た。向こうも私を見た。別段笑顔でも無く、怒気を孕んだ顔でも無く無表情で私を見つめた。その表情からは何も読み取る事が出来なかったが、それが答えだったのかも知れない。それ以降Aと話す事も無く高校を卒業した。

その後私は声優専門学校と言う新たな地獄に足を踏み入れるのだが今はそれを語るべき時では無い。出来事は電車に乗っていた時、快速に乗り換える為に降りた駅での事だった。


Aだ。Aが居る。あれはAだ。髪は鎖骨くらいまで伸びてスカートを履いている。でもあの特徴的な目つきはAに違いない。Aも同じ電車に乗るのだろう。快速の到着を待っていた。


話しかけるべきか…


そう思って思案しているとAとは違う声が聞こえた。Aはその声に反応して駆け寄る。ちょっとガタイが良くて短髪のいかにもホモこと「イカホモ」の男性と手を繋ぎ二人は到着した電車に乗った。私も同じ電車に乗り、同じ車両に居る事にした。

Aとその男はデートでもするのだろうか?どこかに行こうとか何を食べようか?とかの話しをしていた。その話しをしているAは完全に乙女の顔であり、その目には確実に愛情があった。


私の心の中で引っかかっていた何かが霧散していくのを感じた。私はAの顎に特急黒潮こと張り手を叩き込んだ事を少しは気にしていた。それで人を信用しなくなったらどうしよう?等と考えていた。しかし彼は人を愛し、そして幸せそうにしているのだ。この状況に於いて私は何も言うべきで無いし、全ては無かった事で良いのだ。学生と言う狂乱が生んだ狂奔だったのだ。人は誰しも止められない気持ちがある。人間だからだ。生きると言うのは欲求のぶつけ合いであり、欲求の高めあいでもある。純粋に欲求を出すことが出来たAは私よりも純粋で人間らしかったのでは無いか。


だが私はオカマに張り手をくらわせた事に後悔はしていない。この手を暴力装置として作動させた事に後悔はしていない。人を殴る。手も心も痛い。人に殴られる殴られた場所や心も痛い。人間は痛みを知り、その痛みの深度により深みを作り熟成されるのではないか?全ては自分自身を正当化する言い訳に過ぎないだろう。だが、それで良いのだ。自分自身を正当化出来ないのに他人と正当に付き合う事は出来ないのだ。

痛みで知る事もある。痛みで分かる事がある。痛みを与える事で知る事もある。


終点に着いた時、Aと男はどちらかと言う訳でも無く、ごく自然に手を繋ぎ電車を降りていった。私は少し不自然に歩く事しか出来なかった。


以上をもって「何故私はオカマの顔面に張り手を打ち込んだのか」の懺悔とさせていただきます。ありがとうございました。

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