第2話「打ちっぱなしと前哨戦」
なぜ職場体験の付き添にゴルフ大会が加わるのか、
俺のこの疑問にハルヒはこう答えやがった。
「ついでよ、ついで。ゴルフ場に行くのにゴルフを
しないわけにいかないでしょ!」
どこまで我が道を進むのやら。
「でも、ゴルフって金かかるんじゃないのか?」
休日の不思議探索で毎度奢らされる俺のサイフにそんな余裕はない。
それに来週には、俺の待ちに待った人気ゲームの続編が出るんだ。
「料金の事聞いたらいらないって言ってたわ。
あんたに必要なのは昼食代と電車賃ぐらいよ」
ならいいかって、よくない。お前の頭に遠慮という言葉はないのか。
「いい、目指すはホールインワンよ。達成すれば新聞社やTV局が取材に来るわ。
そうすれば、SOS団の名は全国、いえ世界中に知れ渡るわよ!」
どうやったらそんな非現実的な妄想ができるのか、俺にはサッパリ分からんが、
それが現実になりそうだから怖い。というか、ゴルフとSOS団関係ないだろ。
そんな俺の気持ちをよそにハルヒは、スイングの素振りを始めやがった。はぁ…。
そんなこんなで、いつもの様に下校。ハルヒと別れた後、朝比奈さんは
「あの、すいません。あたしのせいで、変な事になっちゃて…」
と俺たちに三人に頭を下げてきた。
「いや、朝比奈さんが謝ることないですよ。悪いのは、全部アイツですから」
なんとも健気なお方だ。
というわけで、俺はいつもの集合場所に向かっていた。
ちなみに、今日は土曜日。
日曜のゴルフ大会に備えて、ハルヒが今日を休みにしてくれるんじゃないかと
一瞬でも思った俺を殴りたいね。
集合場所に着くと案の定、俺以外の4人は揃っていた。
「キョン、あんた学習能力無さ過ぎよ。
どうして、これまでの経験を生かさないの?」
と、ニンマリ顔で迫ってくるハルヒ。
そんな事言ったって、今は集合時間の十分前だぞ。
「まぁ、いいわ。これがそのうち続くようなら、
さらなる罰則を考えなくちゃいけないわね」
カンベンしてくれよ…。
喫茶店に入るとハルヒは、今日の予定を発表した。
「午前中は、いつも通り二手に分かれて市内を探索よ。
午後は、近所の打ちっぱなしにいくわ。明日のゴルフ大会に備えてよ」
やる気まんまんのようだが、お前以外、
誰1人モチベーションが上がってないことに気付いてくれ。
クジ分けの結果、俺は長門とペアになった。
ふう、どうやら午前中はゆっくりできそうだ。
「今日は、いつもより時間が少ないんだから、
より一層集中力を高めてかかりなさい」
そう言い終えると、古泉と朝比奈さんを引き連れて、行ってしまった。
その去り姿は、心なしか粗々しかった気がする。
俺は、隣を向くと
「長門、いつものところでいいか?」
俺は、長門がわずかにうなずくのを確認すると、図書館へと歩き出した。
もうあと、数分で着くというところで、珍しく長門から話かけてきた。
「あなたに質問がある」
「なんだ?」
俺が長門に教えることなどあるのかと思っていると
「ゴルフとは、どんな競技?」
長門はゴルフ知らないのか?まぁ、そりゃそうか。
「簡単にいうと、クラブっていう棒みたいな道具でボールを打って、
そのボールを地面に開いた穴に入れる競技だ。これが、結構難しいみたいなんだ。
風とかを計算しないと…」
と、ゴルフについて語っている俺だが、
ゴルフなんてゲームでしかやったことないし、
休みの日に昼間やってるゴルフ中継をたまに見るぐらいである。
ゴルフは金持ちの道楽とは古い言葉だが、やはりとっつきにくい感じはあるし、
ましてや高校生の自分には縁も縁もないと思ってたんだが。
「理解した」
俺の適当な説明を聞くと、長門は再び沈黙モードに戻った。
まぁ、でも長門が読書以外の事に興味を持ってくれるのは嬉しいね。
夏休みは長門は長門で大変だっただろうし、こういった反応をするってことは、
確実に人間に近づいてる証拠だしな。そんなことを考えている内に図書館に着いた。
「なぁ、長門。悪いが、俺、多分また寝ちまうと思うから、
適当な時間になったら起こしてくれないか?」
ハルヒに起こされるのは、もうこりごりだ。
「分かった」
そう言うと、長門は俺が一生にお世話になることはないであろう
分厚い本が並べてある本棚へと消えていった。
俺は、適当に冒険物の本を選ぶと、いつもの席へ座った。
トントン、トントン。目を覚ますと、長門が俺の肩を優しく叩いていた。
「んっ、もうそんな時間か」
結局、俺の借りた本の主人公達は冒険に出ることはなかった。
まぁ、いつものことだが。
ふと、時計を見ると集合時間の十五分前を示していた。こりゃ、ギリギリか。
そんな俺の様子を察したのか。長門は
「あなたがなかなか起きてくれなかった、いろいろと手は尽くした」
「そりゃ、すまん。ありがとな、長門」
「いい」
と、いつもの無表情で言ってきた。
だが、よく見るとその表情は若干楽しそうにも見えた。
いや、気のせいかもしれん。
しかし、声をかけてくれりゃ、一発で起きたと思うんだがな。
肩を叩く以外に長門が何をしたのか気になりつつ、
俺達は図書館を出ると、例の集合場所へと向かった。
集合場所にはやはりというか、すでに他の3人が集まっていた。
「1分遅刻よ!」
団長殿はお怒りのようだ。
「1分ぐらい、いいだろ?」
若干、小走りでやってきたため、俺の息は切れ気味だった。
「どうせ、図書館へでも行って、あんたがまた寝てたんでしょ!」
相変わらず、鋭い。
「普段のあんたを見てたら、大体予想できるわ。それより、昼飯食べに行きましょ。もちろん、キョンの奢りよ。遅れたのは、キョンのせいなんだから」
はぁ、こりゃゲームを買うのは来月になりそうだ。
喫茶店で軽めの昼食を取った後、ハルヒ曰く、
そう遠くないもないらしいので、歩いて打ちっぱなしへと向かうことにした。
ハルヒは上機嫌に朝比奈さんにゴルフのアドバイスをしながら先頭を歩いており、
その後ろを長門が黙々とついて行く。最後尾を歩くのは俺と古泉だ。
「朝比奈さんには悪いですが、涼宮さんが楽しそうでなによりです。
機関としましても、何か退屈しのぎを提供しようか
迷っていたところだったんですよ」
どのみち俺はやっかいな事に巻き込まれていた訳か。
「いくつか、プランはあったんですがね。
まぁ、それは次の機会にしておきましょう」
夏の孤島の一件を考えると、古泉の用意するものにはいまいち期待できんな。
「そういや、お前はゴルフやったことあるのか?」
「パターゴルフならありますが、こういった本格的なのはないですね」
だろうな。しかし、打ちっ放しならともかく、
初心者が本格的なコースを回ろうだなんて無謀以外の何ものでもないだろう。
歩くこと40分。
結構かかった気もするが、目的地の打ちっ放しへと着いた。
見ると、打つところは、一階、二階とあり、簡単なショートコースもある。
つまり、一般的なゴルフ練習場ってことだな。
入場料はいらないらしく、一球10円。
当たり前だが、暇な高校生5人が来るようなとこではなく、
周囲の目を引いたことは言うまでもない。
そんな事はお構いなしに、ハルヒはロビーの中央に団員を集めると、
「いい。ノルマは100球よ!じゃんじゃん、打ちなさい!」
何っ。100球だと。千円もかかるじゃねえか。
それに、そんなに打ったら身体が持たん…。
「何言ってるの。大会は、明日なのよ?
それぐらいやらなくっちゃ、大会が盛り上がらないわ!」
お前が勝手に決めただけ、というのは言うだけ無駄か…。
「それに、ど素人が何球打とうが、対して変わらんと思うぞ」
「そんな事、やってみなくちゃ分かんないわ!」
一歩も引く気配がない。
おい、お前等はそれでいいのか?他の3人はというと…。
三者三様の態度をとっていたものの、
ハルヒに意見しようとするヤツは1人もいない。
「まぁ、時間も、もったいないですし。
意外に、すぐ終わってしまうかもしれませんよ」
古泉、パターしかやったことないお前に説得力はないぞ。
しかし、ハルヒには十分だったようだ。
「さすが、古泉君。あなたを副団長にしてよかったわ!」
「どうも」
組織のトップツーがこれじゃ、平団員の俺にはどうすることもできんな。
まぁ、初めから無駄だとはわかっていたさ。
「さぁ、打ちまくるわよ!」
というわけで、練習開始…。
喜んで良いのか分からないが、休日にしては人がそれほど多くなく、
俺たちは5人並んで練習することができた。
さて、ここで記念すべき我々の初球についてお伝えしよう。
ハルヒのヤツは、誰が見ても納得のナイスショット。
飛距離もさることながら、そのフォームも実にきれいだった。
アイツ、本当に初めてなのか?
そのハルヒにひけをとらなかったのは、当然、長門有希である。
これまた、美しいフォーム。飛距離はハルヒよりも出ていたかもしれん。
「さすが有希ね」
お次は、朝比奈さん。
ドライバーを持つその姿は、愛くるしいことこの上ないのだが、
いかんせんその重さを支え切れてない。
「ふぇい」
全力で放ったドライバーは、気持ちのいいぐらいスカっと空を切った。
「ちょっと、みくるちゃん。ボールも見ずに振ってどうすんのよ!」
次は、古泉。フォームは様になってたが、飛距離はハルヒの半分くらいか。
「いやぁ、難しいですね」
感想はいい。こっちに微笑みかけるな。
さて、並び順で言えば、朝比奈さんの次が俺だったのだが。
なぜ、飛ばしたかって?
俺は初スイングを終えた後、自分のボールを目で追ったのだが、
残念ながら見あたらず、下を向くとボールは見事にセット状態にあった。
人が少なかったのがせめてもの幸いだったな。
「キョン、ボールはそこよ!」
いちいち言わんでいい!
ハルヒの笑いをこらえた指摘が俺のショックをさらに引き立てた。
おい、長門。お前までそんな目で俺を見るんじゃない。
「まぁ、そんなこともありますよ」
古泉、お前は黙るんだ。朝比奈さん、どうやら俺たち仲間みたいです。
「はぁ、疲れましたぁ…」
「もう、みくるちゃん。途中から座り込んじゃうから、
後半はほとんどあたしと有希が打っちゃったじゃない」
ハルヒ、それが一般的な反応だと思うぞ。
「さて、じゃあ道具片づけてさっさと帰ろうぜ」
「ちょっと、何言ってんのよ。まだ帰らないわよ!」
とてつもなく嫌な予感がする…。
「まだって、他に何か用があるのか?」
「あるわよ」
「どこに?」
ハルヒは満面の笑みを浮かべながら、少し離れた所にある旗を指差した。
「あそこよ!」
俺達は今、この打ちっ放しのまわりを囲むようにして作られた
ショートコースへと向かっている。
「ドライバーだけやっても意味ないじゃない。最終的にカップにいれなきゃいけないんだから、当然パターやアプローチの練習もしなくちゃいけないでしょ」
というのがハルヒの主張らしい。
確かにお前の言うことは正しいが、何度も言うように大会は明日なんだろ?
お前や長門はともかく、この常人3人には焼け石に水だぜ。
そんな俺の思いがハルヒに届くわけはなく、どうしたもんかね。
ちなみにショートコースの利用料金は1人1000円。
さっきの100球と合わせると2000円。
どんどん俺のゲームを買える日が遠ざかっていくな。
「さぁ、着いたわよ!」
どうやら、ここが1番ホールらしい。距離は70ヤードか。
ちなみにここのショートコースは全9ホールで全てPAR3のようだ。
「1ヤードが約90センチですから、大体、63メートルぐらいでしょうか?」
さすが物知りの古泉だな。
「正確には、1ヤードは0・9144メートル。
よって、七十ヤードは64・00800メートル」
すかさず長門の訂正が入った。
「長門さんには適いませんがね」
「あんな遠いところを目がけて打つんですか~」
さきほどの打ち込みで体力のほとんどを使い果たしたであろう
朝比奈さんは既に逃げ腰だ。
「みくるちゃん。言っておくけど、これはショートコースで練習用なのよ。
本番は、もっと距離があるんだから!」
「ふぇ~。そうなんですかぁ…」
おいハルヒ。これ以上、朝比奈さんを追いつめるんじゃない。
「さぁ、練習も兼ねた前哨戦よ。最初はあたしから!」
カン!
ハルヒの第1打はピン側1メートルにつけるナイスショットだった。
「まぁまぁね。もう少し、風を計算にいれとくべきだったわ!」
初心者であれなら、まぐれでも十分だよ。
「次は有希ね。時間もったいないから、じゃんじゃん入れていくわよ!」
長門の打った球は、ハルヒよりはピンから少し遠い位置に落ちた。
まぁでも、長門なら十分、次で入るだろうし、
長門がその気になればホールインワンも可能なんだろう。
この1番ホールでハルヒは見事にバーディを奪った。
パットの精度も申し分ないと…。
なんでもありだな、アイツは。
そしてそんなハルヒのスーパープレイは、
俺や古泉、朝比奈さんの無惨なプレイを一層引き立ててくれた。
朝比奈さんは、いきなり空振りを2連発。
やっと当たった第3打は、ピンから大きく右に逸れて、となりのホールへ。
そこから5打目をピンそば3メートルの所に寄せるものの、
結局カップに入ったのはそれから3打目だった。
朝比奈さんには悪いが、ここまでくるともはやコントである。
古泉は、1打目こそ少しピンから少し外れたものの、
第2、第3打を上手くよせて、ダブルボギーだった。
どうやら、自己申告通りパットは多少上手いようだ。
俺は、第1打こそまずまずの所にいったものの、
パットに手こずり、トリプルボギーだった。
まぁでも、初体験でこれなら御の字だろう。
休日というのは、一週間でたまった疲れを癒し、
また来週からの学校生活に向けてエネルギーを充電しなければならないというのに、何が楽しくて俺は砂場から球を出すのに必死になっているのだろうか。
その原因であるハルヒのヤツは、この悪条件にも関わらず、
あっさりとこのホールでもバーディーをとり、
一足早くピンの近くで長門といっしょに悪戦苦闘する俺等を眺めながら、
時折怒号をとばしている。
「キョ~ン。いつまでバンカーにいるつもりなのよ。あっ、ちょっとみくるちゃん!風があるんだから、そんな方向に打ったら池に落ちちゃうわよ!」
本来なら、ピンから距離の遠い人から打つのが普通なのだろうが、
今回はかなり時間がかかりそうなので、二人には先にパットを沈めてもらった。
唯一フェアに乗せた古泉は、どうやら上手くピンの側に寄せたようだ。
「では、お先に…」
アイツもさすがに疲れたようだ。笑顔が若干強ばっている。まぁそんなことはいい。今の俺にはこの砂場から脱出するという、最重要優先任務があるのだ。
「も~、キョン。見てらんないわ」
しびれを切らしたハルヒがこっちに向かってくる。
そんな事言ったって、できないもんはできないんだよ。
「いい。バンカーではこう打つのよ」
そう言ってハルヒは何度か素振りをやって見せてくれた。
見よう見まねで俺もやってみる。
すると、バンカーを飛び出たゴルフボールは綺麗な弧を描いて
グリーンに落ちるとそのままカップに吸い込まれた。
いわゆるチップインってやつらしい。
「キョンもやればできるじゃない。まぁ+4だけど」
ハルヒ、最後のひと言はいらん。
まぁ、俺にとってはパターを使う手間が省けたぐらいにしか思わんがな。
「いいショットでしたよ」
「そりゃ、どうも」
俺は古泉の横に座り込んだ。
5分後、ようやく朝比奈さんがカップインし、俺達は打ちっ放しを後にした。
ちなみにスコアは、9ホールでハルヒが5アンダー、長門がイーブンパー。
朝比奈さんが+72。
古泉が+29で、俺が+31だ。
ハルヒのスコアも驚愕だが、朝比奈さんのスコアも凄い。
古泉は大体トリプルボギーペースだったな。俺も同じぐらいか。
初体験にしては、なかなかよかったと思うのだが、
ハルヒや長門のスコアを見るとそんな考えは吹き飛ぶ。
帰りはバスを使うことにした。ハルヒのヤツは歩いて帰る気まんまんだったが、
この時ばかりは、古泉や朝比奈さんも俺の味方をしてくれた。
幸いにも1番後ろの1列が空いていたので、俺達はそこに座った。
バスの中で、俺はずっと疑問に思ってた事をハルヒに聞いてみた。
「なぁ、ハルヒ。お前、ゴルフについてずいぶんと詳しいようだったが、
ホントに初心者なのか?」
あの女子高校生離れしたショットは置いといても、
さすがに俺や朝比奈さんにアドバイスしたりまではできないだろ。
他の3人、特に2人も多少気になっていたようだ。
「あ~、実を言うとうちの親父がゴルフやってんのよ」
「親父さんが?」
「そう。だから親父のパターセットとかでよく遊んでたし、
親父が家でゴルフのレッスンビデオを見てたりするから、
勝手に内容とか頭に入っちゃうわけ。それでまぁ何となく」
なるほどね…ってなるほどじゃねえよ。
「道理でお上手な訳ですね」
古泉、お前はそれで納得するのか。
「まぁ、本格的にやったのは今回が初めてね。
もちろん、ゴルフ場になんて連れて行ってもらった事なかったから、
キッカケを作ってくれたみくるちゃんには大いに感謝してるわ!」
「ふぇっ、あっ、あの、それはどうも…」
朝比奈さんはハルヒにぬいぐるみの様に抱きつかれている。
何とも羨ましい。まぁそんなことは今はどうでもいい。
しかしよくうる覚えの知識を人に受け売ろうとしたな。
まぁ結果的に上手くいったわけだが、攻略されたコースも
これじゃ浮かばれないだろう。
改めて、ハルヒの凄さというか何というかそんなものを感じて、
俺は胸のつっかえがとれた様な取れないような
何とも複雑な気分でいつもの集合場所まで戻ってきた。
「明日も同じ時間にここに集合よ。明日に備えて、今日は早く寝なさい!
団長命令よ。じゃあね!」
ハルヒは高らかに解散宣言をすると、駅の方へと去っていった。
完全に、ゴルフ大会がメインになってるな。まぁ、今更指摘することでもないが…。
他の3人とも分かれを告げて、俺は今にも悲鳴を上げそうな足腰を励ましつつ、
なんとか自分の家に辿り着くことに成功した。
簡単にシャワーを浴びて、自分の部屋のベッドに寝転がると、
図書館の時よりも数倍は多いであろう睡魔達の誘惑に俺は一切抵抗することなく、
深い眠りへと入っていった。
しかし俺はその心地よい眠りから、
ものの数十分で現実の世界に引き戻されてしまった。
「キョン君、起きてよ!早くー」
毎朝恒例のプロレス式起こし方をやってきた妹だが、
いくらなんでも早過ぎるんじゃないか。
「電話だよ。えーっとね、古泉君から!」
古泉、俺は今ほど破壊衝動にかられた瞬間はないぞ。
俺は寝起き+疲れ+不機嫌という
人と接するのに最も適していない状態で電話に出る事となった。
「何だ?」
「いやぁ、夜遅くにすいません。もしかして、もうお休みでしたか?」
「あぁ、お察しの通りだよ」
「やはりそうでしたか。僕としましてはできるだけ早く
ご連絡したかったのですが、いろいろとありましてね」
前置きはいい。さっさと話してくれ。
「で、用件はなんだ?お前が電話で話す内容にあまりいいイメージはないんだがな」
「あなたのイメージ通り、残念ながらいい話ではありません。涼宮さんの事です」
はぁ…。
「単刀直入に言いますと、さきほどまで閉鎖空間が発生していたんですよ」
「閉鎖空間?」
「えぇ。ただ規模はそれほど大きいものではありませんでした。
消滅も非常に早くて…」
「何でだよ?ハルヒが不満を持つ要素なんて今日は見あたらなかったぞ。」
いつもの様に不審議探索、それにゴルフと、あいつの予定通りだったはずだ。
ゴルフのスコアだって良かったわけだし。
まぁ強いていうならホールインワンがでなかった事ぐらいだが…。
「僕も連絡が入った時は驚きましたよ。
あなたのいう通り、今日の涼宮さんはおおむね満足そうに見えましたから」
他に何を望んでるというんだ、アイツは…。
「涼宮さんの不満は閉鎖空間の規模などから考えると
それほど大きいものではないと思います。
今すぐに世界がどうにかなるというわけではないでしょうが、
蓄積されると後々やっかいな事になるのでね」
確かに。
「で、お前はハルヒの不満の原因が何か分かってるのか?」
正直、俺にはイマイチ分からん。
「スコアや記録等もあると思うんですが、
一番可能性があるのは今日の様な勝ち方なんじゃないでしょうか?」
今日のあいつは最初からバーディーラッシュで
他を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っていたぞ。
「ずばり、それですよ。圧倒的優勢な展開ゆえに
僅差のスコアによるギリギリの攻防が感じられなかったということです」
呆れて声も出ないなんて事は人生にそう何度もないと思ったんだがな。
さしずめアイツはライバルのいなくなった世界チャンピオンの境地なんだろう。
「まぁ可能性の話ですよ。それと我々が楽しんでいないのも原因かもしれません」
まぁ今日のゴルフが心から楽しめたかと言われれば
俺はノーと答えざるをえないだろう。
とはいえあいつに他人をいたわる心があるとは思えんがな。
「大体ハルヒのやつが上手すぎるんだよ。初心者であれは異常だぞ」
「確かに僕も驚きましたよ。
あれは運動神経がいいとかセンスなどでは説明がつきませんからね」
あいつはゴルフに対する認識を改めるべきだ。
「ともかく、念には念のためです。
我々が涼宮さんのレベルに合わせるしかありません。
つまりレベルアップが必要なわけです」
そんなRPGゲームの様に言ってくれるな。
あっちは時間をかければ確実に上がっていくだろうが、
こっちはどうあがいてもそうはならんぞ。
「で、どうするんだ?」
まぁ、選択肢は1つしかないんだがな。
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