やさしい刑事 第5話 「人形の涙」(4)

「えぇっ!?…ニュースでやっていた事件の被害者ってうちの顧客だったんですか~」

「そうです…それで捜査にご協力いただきたいと思いましてね」

 ヤマさんに警察手帳を見せられたドールメーカーY社の営業部長は驚いた顔で言った。

「少々お待ち下さい。刑事さん…今カスタマーサービスの責任者を呼びますから」

 そう言って営業部長が呼んできたのは、プログラマー風の若い男だった。


 男に案内されてヤマさんが入った部屋には、多数のパソコンが設置されていてサービス係の女子社員が仕事をしていた。

 男は自分の席に着くと、手際よくパソコンを操作して顧客データを検索し始めた。

「玉下祥太さんですね。あぁ…出ました。どうです。住所とか年齢は一致してますか?」

 男は画面をのぞき込んだヤマさんにそう尋ねた。

「えぇ、本人で間違いないですね」

「データを見ると、随分頻繁に購入してますよね」

「ほぅ~…若いのによく金が続いたもんだな~」

「それも衣装やパーツだけでなく、本体もほぼ半年おきに買い換えてます。こりゃぁ珍しいお客さんだな~」

 男はパソコンの画面をスクロールしながら、ヤマさんに購入記録を示してみせた。

「この手のドールって、結構お高いんでしょ?」

「まぁ、付属品を付けると20万くらいになります。なので頻繁に買い換えるお客さんは滅多にいませんから、うちにとっては良い

お客さんだったと思います」

「代金の支払いに問題はなかったですか?高価な物を頻繁に買い換えると、どうしても金に無理が出てくると思うんですが」

「いぇ、うちは通販限定ですから、代金が振り込まれなければ品物は発送しません…それに」

「それに…どうしました?」

「データを見る限り、ドール本体の購入はボーナスシーズンになってますね」

「ボーナスを全部はたいてドールを買い換えた…と言う事でしょうか?」

「多分そうでしょう…でも、みんなそうじゃないですか?スマホを新型に買い換えたり、新作ゲームを買ったり…僕もボーナスをだいぶんパソコンにはたいてますけどね」

「欲しい物を我慢して、将来の結婚に備えて貯金したりはしないんですか?」

「あはは…できるかどうか分かんないですしね。それに楽しめる時に自由に楽しんどかなきゃ損でしょ」

「まぁ、そう言われてみりゃぁそうだが」


(結婚よりも自分の人生を楽しむ方が大事か~…今時の気風と言えばそうかも知れない。どうりで子供が少なくなる訳だな。

まぁ、俺の考え方の方が時代遅れなんだろうな~)

 若いカスタマーサービス主任と話したヤマさんは、柄にもなく世代のギャップを感じてしまった。


~続く~

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