やさしい刑事 第5話 「人形の涙」(3)
「キモ玉?…普通に変っていたとは?」
「あ、すいません。ついいつもの調子で…少しキモいヤツだったんで、みんなそう呼んでたもんですから」
「玉下さんは、みんなに嫌われていたんですか?」
「いや、嫌われてた訳じゃないですけど…空気読めないっつぅ~か、何っつ~ぅか」
「そぅ、そぅ、何考えてるかさっぱり分からないようなところがあって」
平野刑事に安心感を覚えたのか、他の社員もおいおいに話をし始めた。
「カラオケとかコンパとかに誘っても来ないんですよね…それで、いつの間にか誰も誘わなくなったんです」
「へぇ~…人付き合いが苦手だったんですかね?」
「いぇ、彼女とデートがあるからって」
「ほ~ぅ…ガールフレンドがいたんですか~」
「いゃいゃ、女にモテるようなヤツじゃなかったですよ~」
「でも、ガールフレンドがいたんでしょ?」
平野刑事と男子社員の話を聞いていた女子社員から、あざけるような含み笑いがもれた。
「それがねぇ…おぃ、中川。あいつの家に行った事あるのお前だけだろ」
「余計な事言うなよな~」指名された男子社員が迷惑そうな顔をした。
「いぇ、余計じゃありませんよ。捜査には大事な事です…ぜひ聞かせて下さい」
「僕はフィギュアを集めるのが趣味なんですけどね。あいつがしげしげと僕のデスクを覗きに来るんで『お前も好きなのか?』って聞いたら、そうだって…で『見せてやるから家に来い』って言うんで、行ってみたんですけどね」
「ほぅ~…それで?」
「部屋に入ったらでっかい人形が置いてあって『僕の彼女だ』って自慢するんだけど、フィギュアって小っちゃいから可愛いんですよね」
「確かに、秋葉原辺りで見掛けるアニメやゲームのキャラクター人形って小さいですね」
「そうでしょ…だから、あぁ、こいつは住む世界が違うな~…ってそれっきり行きませんでした。なので、僕は事件には関りありませんから」
「いや、誰も君が事件に関ってるとは言ってないよ。ただ、玉下さんの交友関係を知りたいだけで」
「友達できるようなヤツじゃなかったですけどね~…コミュニケーション下手だったし…浮いてたし」
「なるほど。玉下さんは人付き合いが上手ではなかったと言う事ですね」
「俺らも人付き合い上手じゃないですけどね…だから、ここは楽なんですよ。あんまし人間関係がややこしくないから」
「そぅそぅ、自分の仕事やってりゃぁ給料出るしね」
「あぁ、それで自由な社風なんですね。よく分かりました…ご協力、どうもありがとうございました」
(自分が傷付くのが恐いから他人に深入りしない。そこそこに人付き合いをして人間関係をやり過ごす…職場の同僚が死んでも、それを他人事のように語る。それが彼らの言う自由なんだろうな~)
若い社員たちの聞き込みを終えた平野刑事は、何だか少し寂しい思いがした。
~続く~
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