やさしい刑事 第5話 「人形の涙」(2)

「あっ!それもそうですね~」

「第一、計画的にコロシ(殺人)をやるなら、ぺティナイフより、出刃包丁か刺身包丁の方が効率的だろ」

「確かに、ヤマさんにそう言われてみればそうですよね」

「だろ…コロシのプロでもない限り、人を殺って悠々と着替える余裕のあるヤツはいないよ。何か他に理由があるはずだ」

「う~ん…じゃぁ、何でベッドに大量の血痕が着いているんでしょうね~」

「俺にも分からん…だが、そんな事を詮索するのは後だ。ホシを挙げたら分かる事だからな」

「そうですよね。まず先にホシを挙げなきゃぁ」

「よしっ!まずはガイシャの交友関係を当たるぞ。そん中に必ずホシがいるはずだからな」

「了解しました。ヤマさん…早速手配します」

「あぁ、頼んだぞ。平野刑事」

 事件現場から出てゆく平野刑事を見送りながら、ヤマさんは奇妙な違和感に襲われた。

 おかしい?どうもこのヤマ(事件)は変な匂いがする…何かが不自然だ。単なる密室殺人じゃなさそうな何かが。


「大人しい男でねぇ、特に面倒を起すような事もなかったし…まさか殺されるなんて」

「社内で別の誰かのトラブルに巻き込まれた…と言うような事はなかったんでしょうか?」

 殺された玉下祥太の勤務先に聞き込みに行った平野刑事は、ガイシャの上司に尋ねた。

「さぁ…うちは割と自由度の高い社風で、他人の事には余り口出ししないのが原則ですから、これと言ったトラブルは聞かないんですがね」

「そう言われてみると、確かに若い社員が多いですよね」

「そうでしょ…結構人気がある職場なんですよ。若い人に…あぁ、ここが玉下が使っていたデスクです」

 そう言われて平野刑事が上司に案内されたのは、いかにも若者が好みそうなスタイリッシュなパソコンデスクだった。

 周りを見ると、他の社員のデスクも若者らしい飾り付けがしてあったり、趣味の品が置かれていたりしていた。

(なるほどな~…こんな職場なら若者に人気あって当然だろうな)平野刑事はそう思った。

「一応、捜査の参考になる物品は署に持ち帰らせていただきますが…よろしいですか?」

「えぇ、どうぞ」

「後、職場で玉下さんと付き合いのあった方から話を聞きたいんですが」

「はい…おい、誰か玉下の事を刑事さんに話してあげてくれんか」

 上司にそう言われた職場の社員たちは、急に全員が押し黙ってしまった。

「あ、別にみなさんを疑ってる訳じゃないですから…最近、玉下さんに変った様子はなかったか聞きたいだけで」

 空気を察した平野刑事は、あわてて言葉を付け足した。

「最近変った様子とかよりも、ず~っと普通に変ってましたよ…キモ玉は」社員の一人ががおずおずと口を開いた。


~続く~

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