やさしい刑事 第5話 「人形の涙」(5)
「どうだった平野刑事…何かホシに繋がるような手掛かりは掴めたか?」
一足先に警察署に戻っていたヤマさんは、聞き込みを終えて帰ってきた平野刑事に尋ねた。
「それがね~…勤務先だった職場で聞いた限りでは、ガイシャにはこれと言った交友関係がないんですよ」
「ガイシャは孤立していたと言う事かな?…なら、孤立した原因がコロシの動機に繋がるんじゃないか」
「いや、それが全員が孤立してるみたいなんです。他人の事には関らないと言うか…それが普通みたいな感じで」
「はぁっ?他人との付き合いを避けて孤立するのが普通って…どう言う意味だ?」
「つまりですね。周りがみんなそうならそれが普通なんですよ…だから、ガイシャも少し変ってたけど普通だったと」
「ふ~ん…おかしな職場だな~」
「でも、働きやすいって言ってましたよ。人間関係にわずらわされずに自由に働けるって」
「そう言やぁ、俺が聞き込みに行ったY社の若いサービス主任も言ってたなぁ…結婚するよりも、自由に人生を楽しみたいって」
「そんなもんじゃないんですか…今時の子って」
「お前さんだって、今時の子じゃぁねぇか」
「まぁ、そう言われりゃ~そうですけど」
「時代が変わりゃぁ、おかしな事でも普通になっていくんだな。今回のガイシャの趣味だって、昔ほど変な目で見られる訳じゃないし…何が普通で、何が普通でないのか?俺にはさっぱり分からん」
「今時が普通なら普通じゃないんですか?そんな事言ってると、ヤマさんも時代遅れのオッサンになりますよ~」
いつもやられている平野刑事は、この時とばかりにヤマさんをからかった。
「バカ言えっ!まだまだお前にゃ負けんぞ…とは言っても、お前らの方が多数派になりゃぁ俺の方が普通じゃなくなるんだよな」
ヤマさんと平野刑事がそんな話をしているところへ、鑑識捜査官がやってきた。
「おぉ、どうだった…ホシのモンは出たか?」
「それがねぇ…エンコの跡はあるのにガイシャのモン以外は出てこないんですよ~」
「う~ん…となると、手袋をしてヤッパを握ったって事か~」
「ほらね…やっぱり僕の推理通り計画的な犯行臭いでしょ」
得意気に言う平野刑事をよそに、ヤマさんは憂かない顔をしていた。
ヤマさんは、再び事件のあったワンルームマンションを訪れた。
(何か肝心な事を見落としているのではないか?)あの時、直感的に感じた違和感が頭の中を横切った。
(ガイシャはここに座ってパソコンを開き、Y社のホームページを見ていた)デスクの前に立ったヤマさんは想像を巡らせた。
(Y社のサービス主任の言う通りなら、ガイシャは次のボーナスシーズンに買い換えるドールを物色してしていたんだろうな。
そこを後ろから近付いて来たホシに刺された…となると、やはり、ガイシャとホシは親しい間柄だったと言う事になるだろう。
平野刑事の推理だと、最初っから殺意を抱いていたホシは、あらかじめ手袋を用意して指紋を消しておいてヤッパを振るった。
だが、実際にガイシャをメッタ突きにした後、動揺してヤッパをその場に放り出してしまったのかも知れない)
~続く~
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