やさしい刑事 第2話 「少年と宇宙人」(2)

 大鳥刑事の報告を聞いて、ヤマさんと一緒にタクシーを追跡していた平野刑事が言った。

「やはりか~…ホシは一筋縄ではいかないようですね」

「分かった。ホシの指示に従え。後は何とかする」ヤマさんは大鳥刑事にそう伝えた。

「ヤマさん。私らも電車に乗りましょうか?」と、平野刑事が尋ねてきた。

「いや、その必要はない。ホシの意図はだいたい分かった」と、ヤマさんは答えた。

「でも、電車の中で身代金の受け渡しをされたら…」

「いや、ホシは電車には乗っていない。逃げ場のない車内で金の受け渡しはせんだろう」

「じゃぁ?」

「東行きのT腺は、C駅で他社と相互乗り入れになる。そのために、C駅の手前で若干の信号待ちをするはずだ」

「あ!ホシはその隙を狙って、身代金を受け取ろうって寸法ですか?」

「所轄署に手配して、C駅の手前に張り込みを依頼しろ。すぐにだ!」

「了解しました。ヤマさん」

 平野刑事は、即座に警察無線を使って、C駅を管轄する警察署に連絡を入れた。


 ヤマさんの読み通り、大鳥刑事の乗った電車は、C駅の手前で信号待ちのために一時停車した。

「ホシからの電話です。電車のデッキから身代金を入れた鞄を投げろと」大鳥刑事がそう報告して来た。

「言う通りにしろ。もう所轄署の刑事を張り込ませてある」ヤマさんは、大鳥刑事に指示した。

「はい」大鳥刑事は電車のデッキに出て、鞄を線路脇の田んぼに投げた。

「来ましたね~…ヤマさん。ぴったりの勘です!どうしてそんなに勘が働くんですか?」

「まぁな…それは内緒だ」ヤマさんはそう言ってとぼけた


 ヤマさんは平野刑事と共に、大鳥刑事が身代金の入った鞄を投げた現場へと車を走らせた。

 ところが郊外の外れの田舎道で、前の方からやって来たタクシーとすれ違った。

 タクシーはかなりスピードを上げて飛ばしていたので、車を路肩に避けなければならなかった。

「随分、乱暴な運転をするやつだなぁ~」平野刑事が怒ったように言った

「ん…今のタクシーなぁ~」少し小首を傾げながら、ヤマさんは言った。

「はぁ…タクシーがどうかしましたか?」

「いや、何でもない。俺の勘違いのようだ」

 ヤマさんにはピンとくるものがあったが、平野刑事にはそう言ってはぐらかした。


 ヤマさんと平野刑事が現場に着くと、どうやら所轄署の刑事がすでに容疑者を逮捕したらしく、報告にやって来た。

「あぁ、本庁の刑事さん。ご苦労様です。たった今犯人を検挙しました」

 見ると、一人の農夫らしい男が手錠を掛けられたまま、懸命に刑事たちに無実を訴えている。

「俺は誘拐犯じゃないってば~!田んぼを見に来たら鞄が置いてあったから、それで…」

 どうやら張り込んでいた刑事たちは、完全に人違いの人物を捕まえたらしかった。

 さすがに勘の鋭いヤマさんも、土壇場の番狂わせまでは読む事ができなかった。

 多分、犯人は張り込んでいた所轄所の刑事に農夫が逮捕されたのを見て、あわてて逃げ出したのだろう。

 身の危険を感じたのか?それっきり犯人からの音信は途絶えた。


 誘拐事件の場合、時間が経てば経つほど、人質の命は危険になる。『信二君誘拐事件捜査班』の焦りは募った。

 ところが、信二君誘拐事件は意外な急展開を見せた。

 港町付近を巡回パトロールしていた巡査から、目撃情報が入ったのだ。

「目撃情報が入りました。港町付近で、ぬいぐるみを抱いた子供連れの男を見掛けたと…」

「何っ!それは本当か?」

 八方ふさがりになっていた捜査班は、その報告を受けて色めき立った。

「それが、職務質問しようとしたらしいんですが、旧倉庫街付近で見失ったと…」

「よしっ!みんな行くぞ~」ヤマさんの指示が、捜査室に詰めていた捜査官たちに飛んだ。

 応援の警官も含め、捜査班は全員でパトカーに分乗して、港町に向かった。


 港町は新旧二つに分かれ、小さな方の旧港には、古い倉庫が立ち並んでいる。

 新しい大きな港ができてから、この小さな港の倉庫は、あまり使われなくなっているらしかった。

「目撃情報があったのはこの辺りですね~」目撃報告を受けた刑事が言った。

「手分けして探せ。特にタクシーを見掛けたら、すぐに俺に連絡しろ!」

 ヤマさんが全員にそう指示すると、平野刑事が怪訝そうに尋ねて来た。

「タクシーですかぁ~?」

「地理に詳しくって、電車の運行状況にも通じ、タクシー無線をジャックする知識がある、そんな職業は何だ?」

「あっ!タクシー業界の関係者…なるほどぉ」

 ヤマさんにそう言われて、平野刑事はようやく納得した。


~続く~

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