第102話:贋物 ~スポーツは別に稼げない~

「でもそういうカジノってさ、裏に暴力団とかいるんじゃないの?」

 章まで口を挟み始めた。

「暴力団が関与してたら流石に面倒だ。孤独な組織の僕らが太刀打ちできる相手じゃない」

「暴力団が関与していないというのがウリのカジノだそうです」

「そんな事可能なのか?」

「知りません。そこらへんも不明なので」

「関与してないのはウリなのかな」

「知りませんよ。客に聞いてください」

 あっけらかんと言う三嶋に面々は呆れるしかない。


「オーナーを逮捕するってことっすよね? オーナーに逮捕状出せばいいのでは」

「オーナーが誰だかわからないんです」

「なんでわかんないの?」

 皆の頭に浮かんだ疑問を代表で章が尋ねる。


「警察の捜査が入る直前にいつも逃げられるんです。オーナーらしき人間を逮捕しても、それはダミー。すぐに新しい賭場が設けられるんです。我々は、真のオーナーが誰かを探すところからスタートするというわけです」


「じゃあ、何にもわかってないじゃないっすか!」

 諏訪が吠える。だが彼は怒っているのではない。困り果てた感情が爆発しただけだ。

「だからうちに回ってくるんですよ」

「うちは何でも屋っすか?」

「上はそう思ってます」

 三嶋はあくまで上の代理で、三嶋を責めても何も出ない。感情のやり場のない諏訪は、拳を固く握って心を落ち着かせる。


「通常の場合だと、ここまで何も情報がなく、調べても成果が出ない案件は、情報課に回さずに凍結させます。つまり、捜査打ち切りです。ですがそれをやらずに、ほぼ情報がないままこちらに回してきた。それがどういう意味か分かりますか?」

「三嶋の事件と同じだな」


 裕がニヤリと笑う。ほとんど情報のない中でも捜査に入る、という面で三嶋が担当した事件と同じだということだ。

「正解です。さすが裕くんですね」

 だが、多賀たがや諏訪は何が何だかわからない。


「急速な解決を要求する事件だということです」

「そんな危険ですか? 闇カジノなんて……」

「あ、客ちゃう?」

 春日かすがもピンと来たようだ。


「もったいぶらずに直球で教えて欲しいっす……」

「カジノの客が重要人物だということです。警察としては、闇カジノの客が破産しようと知ったこっちゃありませんが、借金まみれになっては困る人間が大勢客にいるということです」

 あまり分かっていない諏訪だが、半分だけ首を傾げながら頷く。


「私が諏訪くんに任せるということはどういう意味か分かりますか?」

「客がアスリートなんですね」

 諏訪はため息を一つつく。

「大抵はもとがつきますが、現役解説者などもいるとの情報です」

 三嶋は頷いた。諏訪に逃げ場はない。


「そんなカジノ、どうやって存在に気づいたんですかねぇ」

 場を混乱させるのは多賀だ。だが、諏訪にとっては話題をそらす助け舟である。

「警察官が通ってたんですよ。そこからバレたんです」

「そのアスリートばっかりのカジノに?」

「一般の警察官にも、インターハイ入賞くらいならゴロゴロいますからね。そのカジノに通えるというわけです」

 警察官が闇カジノに通うとは、世も末である。


「……県警が情報課にこの件を始末させようとしている理由がわかった」

 おそらく、警察官が通っていたという事実を揉み消したいのだろう。

「まあまあ、そういうことを言うのはやめましょう」

 三嶋がやんわり話を逸らそうとしたので、予想が事実であるとはっきりわかった。


「アスリートを狙う理由って何なんでしょうねぇ」

「そりゃ、金持ちだからだろ」

「いやぁ、金持ちのアスリートってそんなにいないっすよ」

 アスリート一家の諏訪が口を挟んだ。


「日本で稼げるのなんて、野球かサッカーかゴルフくらいのもんです。それ以外のスポーツは、ほんと薄給っすよ」

 諏訪の妹は実業団選手だが、実際いつも給料に文句タラタラだ。練習が忙しいので金を使う暇もないようだが。

「じゃあ、何で……?」

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