第86話:尋問 ~死への恐怖で眠れない~

 警察からのスパイであることが発覚してからというもの、三嶋の生活場所は自白剤を打たれた尋問室である。嫌な思い出のある部屋だ。おまけに、普段は外から鍵がかけられているときた。窓もない部屋に薄い布団で寝かせられるのには辟易したが、二週間もすると幾分か慣れた。


 そこまでして他の信者と接触させたくないものなのだろうか、と三嶋は思う。だが、ここまでやる以上はそうなのだろう。自分はそんなに有害なスパイではないと自負しているが、勿論そう言ったところで向こうが聞き入れるわけもない。


 前は、亮成がクリーニングしたスーツを直接届けてくれたが、それも今はない。見張りの信者が突如扉を開け、ドアノブにスーツのハンガーを引っ掛けて扉を閉じ、また鍵をかける。一週間で会話らしい会話をできるのは、兄の元へ連れ出される時だけだ。


 曜日の感覚も失われつつあるが、ヒゲの伸び具合で予想はできていた。摘めるかという長さになったころに風呂に連れ出され、翌日に兄に会いに行く準備がなされる。


 この部屋には水しか出ないがシャワーもついているしトイレもある。人を閉じ込めるのに特化した部屋と言っていい。今まで何人がこの部屋で尋問されてきたのだろう。


 部屋の中には数枚の下着とシャツが投げ込まれ、三嶋は日々水のシャワーで服を洗濯し、椅子にかけて干すという生活を送っている。洗うのが難しい黒パンツは扉前に置いておくと回収して新しいものが与えられる。これで人権を与えているつもりなのだろうか。

 この惨めで厳しい生活に対するスパイスが兄との会食となると、いよいよストレスのたまり具合が厳しい。


 そろそろ、兄との話をでっちあげるのも限界が近い。もし、兄との仲が悪く、兄とは何の話も進めていないことが教団側に発覚したらどうなるのだろう。それこそ「死を覚悟する」、いや待っているのは死そのものだ。三嶋の心は折れかけていた。

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