第58話:勧誘 ~プレッシャーには潰れない~
「でも、お話の会が終わるまでに勧誘できなかったら?」
「そのときは、次の会に。それでもダメやったら、また次の会で」
面倒なことになった。お話の会は毎週末に行われることになっている。いつまでたっても勧誘が終わらなければ、ダメな幹部候補生の烙印を押されかねない。結果、情報が集まらなければ潜入の意味がなくなる。それは避けたい。
「今までの幹部候補生は全員この研修をクリアしたの?」
「そうやで」
幹部候補生は全員、と辻は言う。ということは、亮成もこの無謀な勧誘をクリアしてみせたというのか。
正直、信じられなかった。彼が自分から一般人に声をかけているところすら想像がつかないというのに。
「亮成もできたんか、って言いたいみたいやね」
辻がにやりと笑う。否定できずに三嶋も苦笑で返した。亮成はきょとんとした顔で運転を続ける。察しが悪い男で助かった。
「僕は半年かかったかな」
驚いた。逆に言えば、半年で済んでいるということだ。自分なら一年かかっても勧誘できる自信がない。勧誘に求められるのは、企業で言えば営業の能力だ。三嶋からは最も遠い能力である。
「見た目よりもかなり根性あるんよ、ああ見えて」
辻が笑顔で言う。彼女が言うならそうなのだろうし、実際にクリアするということは事実なのだろう。三嶋に亮成への対抗心が芽生えると同時に、プレッシャーが重くのしかかってきた。
「しかもこの子ね、勧誘ですごく優秀な子を捕まえてきたんよ。ジュンって知ってる?」
「いや……」
「
「ああ……」
三嶋は言葉少なに返したが、顔はしっかりと脳内に浮かんでいる。あのジャニーズ系イケメン男も、亮成や辻と同じ幹部候補生だったのか。幹部候補生は数少ないはずで、それなりの能力がないとなれない立ち位置である。
そんな男を外部から教団に引っ張ってくるとは。亮成、意外に侮れない男だな。オーラのかけらもない平凡な背中を見ながら、三嶋は手のひらに汗をかいているのを感じた。
幹部候補生をほぼ採っていない今は、さすがに三嶋に幹部候補生のような優秀な人材を勧誘してこいまでは言うまい。しかしそのレベルの信者を入れなければならないのは確かだ。
そうでなければ亮成にも劣ることになる。いや、彼を見下しているわけではないが、社交性が三嶋並かそれ以下であることは確かである。しかも彼は見るからに教団内で重要な立ち位置を占めているわけではない。事前情報でもノーマークだった男だ。
つまり、教団で出世しようと思ったら、優秀な人材を引っ張ってくるのは最低限なのである。それをクリアしても、亮成のように、言うなれば出世コースから外れた人間になってしまう可能性だって低くない。
そう考えると、プレッシャーがさらに重くなって自分にのしかかってくる。
三嶋は内心で頭を抱えていた。
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