第55話:同室 ~会話が全然続かない~
「ありがとう、つじまちゃん」
おおまかな流れは、以前にこの組織に潜入していた公安警察の捜査官である前任から聞いているのだが、そうと言える訳もなく三嶋は鷹揚に頷く。
「じゃあ、博実くんの部屋を案内するまでの間に軽く説明しようかな」
「あ、どうも」
「起床は基本的に朝の七時。食事は食堂で空いた時間にとってね。お風呂は午後四時から九時の間で、消灯は……」
知っている事項が大半なので、三嶋は真面目に聞くふりをしつつも耳は日曜日である。所詮、合宿のような生活を要求され、それに宗教活動が加わったにすぎない。合宿なら警察学校で慣れているし、不自由な生活は実家で生まれた時から過ごしてきた。この手のきつい生活環境には強い自信がある。
まだ通るのが二度目のこの階段は、うろ覚えではあるが確か男子部屋に続く階段であるはずだ。
「何人部屋なの?」
「うーん、女子は個室やけど、男子は二人部屋やね」
それならば大部屋の方がまだマシである。二人部屋では、もし相手と反りが合わない場合に地獄を見ることになるからだ。逆に、仲良くなれれば最も快適なのだが、友人の多いタイプではない三嶋には厳しい条件である。
「どういう人が僕の相方?」
「
「はあ……」
三嶋は軽く眉を寄せた。三嶋自身おとなしいタイプなので、コミュニケーションをとるならば、どちらかというと相手が饒舌な方がやりやすい。たとえうるさい人間でも、情報を引き出すのに苦労する相手よりはよほどいい。
宮崎亮成とは、どんな男なのだろう。緊張する三嶋をよそに、辻はがばりと大きく扉を開けた。部屋の奥にある二段ベッドの下段に男が寝転がっていた。これが宮崎亮成らしい。
「亮ちゃん」
「僕?」
語尾が上がった低い声。関西のイントネーションだ。
「それ誰なん?」
亮成は細い眉の間にしわを寄せ、半分起き上がって三嶋の方を指差した。
「新しい幹部候補生の子や」
毅然と辻が答える。
「僕の部屋?」
いかにも面倒くさそうに亮成は尋ねる。せっかく個人部屋だった自室に同居人が増えるのが嫌なのだろう。野暮ったいを煮詰めたような髪型、弥生人を具現化したような薄い顔。その顔が歪む様子に、三嶋は肩をすくめるしかない。
「そう。面倒見たってな」
辻の言葉にかすかに頷き、亮成はまたベッドに寝転んだ。辻は亮成と少しばかり話して、三嶋を残し部屋を去った。二段ベットの上段に行くには、亮成を避けては通れるまい。気まずい空間だけが残される。
こういうのが一番苦手なんだよな。
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