第44話:結末 ~僕はどちらも選ばない~

「ねぇ章、失望されてたらどうする? 訳ありのコネなんか嫌だ、って」

 裕が多賀を見て苦笑した。ばっちり目があった多賀は、うろたえながら、いえ、と首を振った。

「僕は、訳ありのコネすら全くないわけですし……」

 ちゃんと実績を出していれば、ワケありかどうかは関係無い。正論でしか無いが。


「いや、あるだろ。多賀だってコネいっぱいあるじゃないか」

 諏訪が意外そうに眼鏡の下で目を丸くした。

「え? 僕はほんと一般人でしかないですよ」

「嘘つくなよ。まず、お前のコネはそのスリ技術だ!」

 多賀は一瞬意味が理解できなくてうつむくように目をそらした。


「そういう遠回しな言い回し、多賀には通じひんのちゃう?」

 春日が、辛辣な言葉とは裏腹に、女に受けそうな表情で諏訪を一瞥する。

「多賀だけやなくても通じひんでそれ。過剰な比喩は誤解の元やわ」

「じゃあストレートに言うわ」

 ごめん、とでも言いたげに左手を立てる諏訪の姿が、多賀にはつらい。


「うちは、別に特殊な家庭事情持ちじゃなくていいんだ。特殊なものを持っていたら、唯一無二の武器になる。それでいいんだよ。

 なぁ、多賀にとっての特殊なものってスリだろ?」

「……そうだと思います」

「じゃあ、自分のコネはスリですって堂々と言えばいいんだ」

「外では堂々と言わないでくださいね。中で言ってください」

 すかさず三嶋が釘をさす。

「なにせ、機密が多いので」


「い、言いませんよ……。嫌ですもん、職場で逮捕されちゃうの……」

 自ら窃盗犯だと暴露する度胸などない。

「堂々と言わないなら逮捕しちゃいませんのでご安心くださいね」

 ぴっと指を上げる三嶋の機械のような微笑みの合間に、ユーモアが垣間見える。


「逆に言えば、僕らにとっても多賀はコネの一つだよね」

 章の言葉に皆が一斉に頷いた。

「できれば、多賀のコネの中には、スリだけやなくて俺らのことも入れといてな」

「多賀くんのこと、大事に思ってるんですよ」

「そうそう。表に見えるコネだけあってもしょうがないの」

「たとえ犯罪だろうがなんだろうが」

「地味だから余計有利だし」

「世の中天然パーマだけじゃないよ」

 はじめは自分とメンバーを同列に扱われた嬉しさを感じたが、途中からはやはり悪口である。


「怒るなよ、悪かったってば」

 怒るというよりはショックという方が正しいのだが、多賀は訂正しなかった。


「あのな、多賀。僕らがコネを持っていてもいなくても、あの特殊な世界ってのは勝手に回るんだ。

 僕らはその世界の一員でありたくもある。一方、その世界から出たくもある。両方のいいとこ取りができるのが情報課なんだよ。安全なところから特殊な世界をかき回し放題だなんて、最高だと思わないか?」

 机に頬杖をつき、廣田のニュースを放送するテレビを眺める伊勢兄弟が腰掛ける椅子の背には、廣田の親の会社で仕立てたジャケットがかけられていた。



*Mission2:インサイダーパーティー・完*

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