第43話:庶子 ~さすがに一部はヤバくない~

「多賀にはちょっとピンとこないかもしれないけどさ」

 どう答えればよいのかわからず、ただ黙る多賀に、章が畳み掛ける。

「例えば、僕と裕って、庶子なんだよね」


「しょし……ですか?」

 はっきり意味がわかるわけではないが、良い意味ではなさそうだ。

「まあ、隠し子みたいなもんだね。だから、多賀に貸したタキシード、あれの持ち主のすぐるは僕らの異母兄なんだ。

 優の母親は、親父の本妻だからね」


 伊勢家で家族写真を見た時の記憶が戻る。そういえば、目が細めの伊勢兄弟よりも優は目が大きく、似た兄弟とは言えなかった。章と裕はそっくりなのに。

「僕らは親父似でさ。優は母親似でさ。あんまり似てないんだな」


「なのに、外聞が悪いからって同じ家にぶち込まれるわけだ。

ちなみに、居心地は全然よくないよ。優はすごく良くしてくれるし、仲良しだけど」

「親父と優の母親が、なんかぎこちなくてね。仲がいいとは言えないんだよね」

「でも俺らは一応本家筋だから、うちの本社に就職させないわけにいかないだろ。だって、外部の人は俺らを愛人の子供だなんて思ってないんだから」

 庶子の意味を唐突にはっきりと知って、多賀は言葉を失った。


「で、うちの親は僕らをどうしたかというと、緊急時用のお偉いさんにしたんだ」

「お偉いさん、っすか?」

 この事情は、諏訪や春日も知らないことのようである。二人は珍しい事情を聞けるチャンスを逃すまいと、身を乗り出すようにして聞いていた。


「……不祥事が起こると、昇進が増えるという話を聞いたことはないかい?」

「いえ、ないっす」

 諏訪が首を振ったが、一方頷いた者がいる。三嶋だ。


「不祥事があると、度々偉い人が責任を取らされますよね。この時、下っ端を昇進させて、責任を取る生贄にするという手段があるんですよ」

 ああ、と諏訪が納得したように頷く。

「で、その生贄ってのが伊勢さん達なんすね」


「そだねぇ。まあ、専務や常務を解雇するレベルの不祥事なんざ滅多にないから、生贄ってほど悪辣な環境でもないけど」

「うん、会社でもある程度仕事をもらいつつ自由にこっちに来れるのって、むしろ素晴らしい環境だからね」

 笑顔で語らう二人ではあるが、なんだか素直に飲み込めない内容であるような気がして、多賀は周囲を伺いながら曖昧に頷いてみるしかない。


「わかった、多賀? 

 実は、情報課ってのは、こうやってワケありのコネで出来た課なんだよね。

 僕らだけじゃなくて三嶋もそうだよ。うちよりもっと家庭内不和すごいし」

「そういう言い方やめてくださいよ。事実ですけど」

 笑顔の伊勢兄弟に、隙なく微笑む三嶋が加わると、もはや不気味というほかない。


「……ちなみに、多賀、俺とか諏訪は、全然家庭内に問題あれへんからな。

 別にコネの方にも問題あるわけちゃうからな。この人らと一緒にせんといてな」

 多賀の耳元で囁く春日の顔があまりにも真面目すぎて、逆に笑いそうになったのは内緒である。

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