第15話:味方 ~スリでもちょっと自信ない~

「だってそうでしょう? 元カノなんて、コネとしてはめちゃくちゃ強力ですよ。そんなコネでも、証拠が見つからないわけです。正直、コネが意味をなさない事件に、情報課の出る幕はありませんよ」


 やはり笑顔の三嶋に、伊勢兄弟の顔が引きつる。

 おそらく、三嶋には悪気など微塵もない。


「ナオの『証拠がない』を当てにはできない」

「うん、あの子の性格上、怒りに任せてタレこんできた可能性が高い」

「……でもそれじゃ、もっとガセの確率上がっちゃうっすよ」


 諏訪が、少し哀れな表情を伊勢兄弟に向ける。

 しかし、仲の悪い男を抹殺する機会をフイにしたくない兄弟の熱意は、ぞくりと重く伝わってきた。


「でも、ナオの勘は絶対に外れない」

「試験のヤマをあんなに当てる女は他にいない」

「ナオがあの次男が被疑者と言ったら絶対に被疑者だ」


 裕が大きく頷く。絶対に外れない勘を持つ、章と廣田の元カノのナオ。

 一体全体何者なのか。

 正反対の妻を持つ三嶋にはピンとこず、頭の中のナオ像は魔女と化している。


「……まあ、タレコミがガセじゃないと信じましょう。

 それを疑っちゃ話になりませんね。すみません」

 三嶋はごまかすかのように咳払いをした。


「しかし、元カノでも見つからない証拠を、どう見つけるかが重要なのは同じです」

「そりゃそうだ」


 うつむき、しばらく考え込むようにしていた章がぱっと顔を上げる。

「なぁ、スマホはどうだ?」

 章の言葉を解したのはメンバーの半分といったところか。


「龍平は小心者な分、用心深いからな。やっかいだぞ」

 ニヤリと笑う裕は、章の作戦を察したらしい。

「なんとでもするさ。こっちには強い味方もいるし」

 なあ多賀、と章はにっこり微笑みかけた。


「ぼ、僕ですか? 新米なので、あまり期待されると……」

「平気だよ。ナオがつかめない証拠があるとしたら、多分それはスマホの中だ。

 多賀はそれをスってくるだけでいい。あとは僕がなんとかする」


 多賀は勢いに押されて思わず頷く。しかし、

「廣田さんは警戒心が強いんでしょう? うまくいきますかね……」

 だからといって、自信があるとは到底言えなかった。


「大丈夫大丈夫。場所は合コン会場だから。人の往来が多いところなら、難易度は下がるだろ?」

「ええ、まあ」

 曰く、来週末に高収入の彼女なし男を集めた合コンがあるのだという。

 一会社の社長である廣田は、当然高収入だろう。有名企業重役の伊勢兄弟も誘われているらしい。

 そんな男ばかり集めた合コン、相手の女のステータスが気になるところである。


「主催は龍平の先輩だ。絶対に来る」

 というのが裕の見立てだ。

 廣田が嫌いな伊勢兄弟は、彼が合コンに来るというだけで断るつもりだったようだが、状況がひっくり返った今は、二人にとって至極楽しみな合コンになった。


「危ないところだった」

「ほんと。返事、明日までだったもんな」

「多賀も連れていく? いいって言ってくれるかなぁ」

「まあ、会費払えばいいんじゃない? いつも調節してくれるし」


「多賀は、僕の秘書扱いにしよう。いいだろ? お前彼女いないんだから」

「まあ、いませんけど……」

 彼女がいるいないではなく、そんな高収入男ばかりの会場で浮くか浮かないかが、多賀のいちばんの心配なのだが。

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