第7話 風車

出迎えをしてくれたヴィランを倒して進んでいった先には、稲荷のきつねが狙い続けていた伯爵が待っていた。広間の真ん中で、煙草を吹かす様子は焦りはない。


泣き笑いのように見える笑顔でも稲荷のきつねは微笑んだ。



「お待たせ」


「……」



橙色の小さな紙でできた風車を投げつけると、伯爵に当たる前にそれは床に落ちた。不自然な風の流れが起こり、床で風車がまわりだして音を立てる。



「僕のせいでもあるね、僕も君を忘れない」



人間ではない奇妙な鳴き声を上げて目の前の伯爵はヴィランに変化した。でも、目の前のヴィランはカオステラーではない。

ここで根源を倒して終わりだと思っていたのに予想外の出来事だ。



「他にいるっていうの?」


「まずはこいつを倒さないと」



窓から斜めに差す光に照らされて淡い橙に染まった小さな手の平サイズの風車を唇を細めて吹いて、稲荷のきつねは風車を燃やした。



「眷属といえど、僕も神様なんだ。さあ、いらっしゃい」



穏やかにすら見える微笑みとは裏腹に触れたものを燃やし尽くす高温の青白い炎を操る稲荷のきつねはいらっしゃいの言葉に違わず飛んでくるヴィランを受け止めた。

稲荷のきつね、そして、いつものメンバーとともに、伯爵から変化したヴィランをやっとのことで倒した。窓の外にはもう三日月が浮かんでいる。



「カオステラーが他にいるなんて」


「とりあえずウワノミタマさまとやらの家に帰ろうぜ」


「ウカノミタマさま!でも、そうしましょう」



いつものように名前を間違えたタオに訂正が入る。神様の名前でも間違えるとは、良くも悪くもタオはいつも通りだった。

僕らがあてにしていた推測は間違い、手がかりは途切れてしまった。体制を立て直すためにもまずは一度休憩が欲しいところだ。



「かえれないよ」



内容に釣り合いがとれない軽い声音で、当然のように、え?なんで知らないの?と言わんばかりの対応で稲荷のきつねは「かえれないよ」と言っていた。



「え?」


「神が人の行先そのものを左右するのはご法度、僕はもうウカノミタマさまのところにはかえれない」



燃やし尽くしたはずの風車の小さな飾り羽を拾って大切そうに稲荷のきつねは胸元にしまった。



「伯爵への祟を達成したら、僕はただの妖でしかない」



迷子のように、かえれないと言う稲荷のきつねで一つの可能性に気がついた。元の物語ではそういう話かもしれないが、今はカオステラーによって、話が書き換えられている。

稲荷のきつねが干渉した相手はもう人間ではなくヴィランになっていた。それなら、稲荷のきつねはまだ妖ではなく、神様のはずだ。



「まだ帰れるよ」



そう切り出したエクスの言葉の先をレイナが上手に拾ってくれた。



「そうね、あれは伯爵ではなく、ヴィランだったわ」


「この変わってしまった物語はカオステラーを倒して、レイナが調律を行うことで元に戻る。一度、家に帰ろう」


「そっか、帰ろっか」



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