第17話

「あらあら、やっと来て下さったんですか。待ちくたびれて魔法で呼び出しかけようとしてたところですよ」


 俺が王妃サマの部屋に行くと、王妃サマはニコニコしながらそんなことを言い出しやがった。やめてくれ、そんな学校の校内放送みたいなこと。スゲー目立つんだよあれ。スゲー目立つ上に、なんかひそひそ話されるし。

 王妃サマの部屋はなんかもう形容するのもめんどくさいほど凄い。広さとか家具とか窓とか魔法の光とか。電気みたいにシャンデリアが光っている。なんで自室にシャンデリアなんかあるんですかねぇ。

 そんな部屋の椅子にはさっき喋った王妃サマとエレナが座っていた。


「俺に何の用です? 暇だから、なんてしょうもない理由で呼び出したわけでもないでしょうし」


 メイドさんに椅子を勧められたので座る。座ると同時に湯呑に入った緑茶が出てきた。俺の好みを把握しているだと……!?

 っていうか、この世界って湯呑なんかあったんだね。知らなかったわ。見たことなかったし。

 内心で一人驚きながら王妃サマの方を見た。


「勿論ですよ。ユウリ様を御呼びしたのは議会での決定をお伝えするためですわ」

「議会での決定……?」


 え、なに? この国って王サマとかいるのに議会なんて言うのもあるわけ? しかもそこが、よくわからんけど俺に対して何か言いたいことがあると。

 なんかめんどくさそうだなぁ……。


「ユウリ、君は南北援助同盟条約アライアンスって、知っているかい?」


 王妃サマに代わって、今度はエレナがそんな長ったらしい条約名を口にしてきた。

 アライアンスって、なんだか聞き覚えがあるような、無いような。なんだっけ、どっかで聞いた気がするんだよな。


『ほれ、この間決闘騒ぎの後に、センリが話しておったじゃろう』

『あー、あれね。はいはい。お金の話のやつ』


 なんか、それのおかげでこの国が成り立ってるんだっけ? 興味なさ過ぎて忘れてたわ。


「センリから聞いたから知ってる」

「そうか、それなら話が早い。実は君を呼び出したのはその条約に関連することなんだ」


 そこでエレナはバトンタッチとでも言うように紅茶を飲み始めた。それを見ていた王妃サマは俺になんで呼び出したのかの説明を始めた。


「実はその条約で、この国から排出できる勇者が一人って決まってるんです。なのに、実際に召喚された勇者は二人いた」

「ああ、俺が予想外に召喚されたから混乱している、みたいな感じ?」

「混乱している、という程ではないんですが……ねえ? 夫のお気に入りはヒカル様ですし」


 なんだよその含みを持ったような言い方。もっとストレートに話してくれよ、疲れるジャマイカ。

 俺はストレートな人間が好きなんだ。トラブルメーカーの光と親友やってるのだって、幼なじみってこともあるけど、アイツが裏表のないストレートな奴だからだ。


「つまり王は光を押してるけど他がそれを渋ってるってことですか」

「そうさ。君がカールに圧倒的な強さで勝ってしまったからね。国としてはやはり強い者を勇者として輩出したいのさ」


 エレナがカップをテーブルに置いて言った。

 まあ気持ちはわかる。お金とか、そういうのも絡んでくるし、命がかかってると思ってるんだから、弱いやつより強いやつ送り出したいわな。俺だってレベル一の勇者よりもレベル九十九の勇者送り込みたいもん。

 俺は緑茶をズズッと飲みながら二人の顔を見た。


「そこでですね、ユウリ様達にはヒカル様達と戦っていただくことになりました」

「だが断る」


 即答で断る。弱腰で断ると王子サマの時の二の舞になりかねんからな。いや、あのときだって俺は弱腰で断ってなんかいなかったはずだ。

 たがそんな俺の気持ちを知ってか知らずか……というか確実に知った上で王妃サマは満面の笑みで俺の拒否を拒否ってきた。


「貴方に拒否権はありませんわ。これは国の最高議会の決定ですから。この国に所属している限り例え王でも覆すことの出来ない決定です」

「なん……だと……!?」


 最高議会ってなんだよ最高議会って。そういう設定はもういいから。後だしで出してくるとかやめてほしい。

 もう定番になってきた驚き方で俺の心情をアピールする。だが王妃サマは俺のことを華麗にスルーすると紅茶に口をつけた。

 まーた王族特有のスルースキルかよ。


「決闘の日時は明日の正午。決闘の仕方は、一対一の個人戦の後に、パーティでの戦闘をする、というものだね。この決闘に勝ったパーティが勇者として魔王討伐に出向くんだ。多額の援助を貰ってね」

「負けた方はどうなるんだ?」

「こちらも非公式の勇者パーティとして送り出されるけど、非公式だから援助はない。決算報告を援助してくれる国にしなきゃいけないから、不透明なお金の使い方は出来ないだろう?」


 ふーん……勝ったら豪華な旅が出来て負けたらボンビーに憑かれたような貧乏な旅をすんのか。

 まあ普通に考えたら俺達のパーティの方が強いんだろうけど、でもあんまり有名になるのもな……後々めんどくさそうだし、自由に動けなさそうだよな。有名税ってそういうもんでしょ? 俺の妹みたいな。いや、アイツ覆面だから自由に動き回ってたわ。


『お主は変なところで現実主義的な考えを持っておるから女子に好かれぬのではないか?』

『下手な夢見るよりマシだ。ロマンチストよりもリアリストになりたい』


 っていうかそもそもなんで勇者一人しか輩出出来ないのさ。二人出たんだから二人輩出すればいいのに。条約って面倒。そんなにお金出したくないの? お金出せよ。それで安全買ってるんだからさ。


「俺ってあんまり目立ちたくないんだよね。ほら、俺達って魔王討伐なんかやんないじゃん? 下手に有名になって知らない人達に縛られるのって嫌なんだよね、予定詰まってるのに」

「まるでヒカル様達のパーティに勝てるような言い草ですね」


 エレナよろしくカップをテーブルに置いた王妃サマがまた口を開いた。くそ、あとのことはずっとエレナが喋ってくれてたらよかったのに。その方が話しやすいじゃん。

 ってかこの人わかって言ってんだろ、俺達のパーティの方が強いって。イリアっていう魔王がいるパーティなんだぜ? こっちのが強いに決まってんだろ。相手は普通の人間なんだしさ。


「まあ、余裕で勝てるでしょ、こっちには魔王だっていますし。欠伸しながらだって勝てそうな気はしますね。でも、それだとちょっと困るんで、俺たちはわざと負けさせてもらいたいんですけど」

「そう言うと思ってましたわ」


 思ってたって……そう言うしかない状況にしたのはあんただろうが。


「はあ……話はそれだけですか」

「ええ、貴方も暇ではないでしょう? あの子達にも伝えて下さいね」


 どっと疲れが溜まる。精神的に疲れた。相変わらず王妃サマはニコニコしてるし。

 俺は一時間も経たずに体力を奪われた身体を引きずって王妃サマの部屋を出た。






 とりあえずセンリの部屋に行くとまだ二人共喋っていた。俺に椅子を勧めてくれたセンリはそのままベッドに座った。

 最近なんだかセンリが天使に見えるわ。俺も末期かな、ロリコンまであと一歩だ。いや、もしかしたら俺はもうロリコンなのかもしれない。

 俺は二人に王妃サマとエレナに言われたことを伝えた。


「それで、俺達は明日わざと負けるから」

「了解した、が……誰が負ける役なんだ? ストレートで全員負けるというのも面白くないだろう。それにエレナはあの王女よりも実力が上だということは周知の事実だ」


 へーそうなんだ。エレナって強いんだ。ていうか、あの王女サマが弱いのかな。実際に闘ってるとこなんて見たことないし、よくわかんね。


「あ? あー……考えてなかったわ。とりあえず俺は負けるとして……ってか対戦人数が偶数だから難しいよな。最後のパーティ戦って、二対二にならなきゃやんないのかな。その辺聞いておけばよかったな」


 俺とイリアがそんな会話をしながら明日の予定を立てていく。こういう時にイリアは話し安いし、ぱっぱと決めてくれるから楽が出来る。

 と、今まで聞き手に回っていたセンリが怖ず怖ずといった感じに手を挙げてきた。


「あの……私が負ける役をします。四人の中でしたら、たぶん私が負けるのが一番不自然じゃないと思いますから」

「確かにそうだが……大丈夫か? 手加減しながら負ける、というのは難しいぞ?」

「正確には手加減しているのがばれないように演技しながら負ける、ってことだけどな」


 うーん……誰でも負けるのは嫌だろうから、負ける役を買って出てくれたことは嬉しいんだけどな。戦いながら演技なんて出来るかわからんけど、てかわからんからこそ難しいんだよな。想像出来ないから。

 俺が若干渋っているのを見たセンリは言葉を続けた。


「というか……私があの方達に勝てる確率なんて低いですよ。全力で戦っても勝てる見込みが少ないんですから、問題無いと思いますけど」


 センリが真顔でそんなことを言い放った。


「いやいや、魔族の魔法を制御出来るようになってきたセンリに勝てる人間なんてそうそういないよ。例えるならクリリンとヤムチャくらいの差があるよ」

『ヤムチャはやられキャラじゃからな。クリリンには勝てんの。地球最強じゃし』

「例えの意味がまったくわからないです。けど……私ってそんなに強いんですか? 落ちこぼれ魔導師って呼ばれてたんですよ?」


 俺からイリアに視線を移して言う。イリアは魔王だから魔族用の魔法がどれくらい強いかというのを知っていると見込んでのことだろう。

 わかってても気持ちがズーンてなる。それくらいなら俺でも答えられるのに……もっと俺を頼って下さいよ!


『お主は頼りなさげじゃからな』

『俺ってそんなモヤシっ子?』

『雰囲気の問題じゃ』


 ふいんき(何故か変換出来ない)の問題だと……!? そんなの治しようがないじゃないか!

 とまあそんな俺を置いてイリアはセンリに説明していた。


「魔族の使う魔法は人間が使う魔法とは比べ物にならない。人間の使う魔法は所詮魔族の使う魔法の簡易版……いや、劣化版だ。防御魔法だけはやたらと優れているがな」

「そう、なんですか……? というか、そういうのエレナ様に教えなくていいんですか? あの方は魔族用の魔法の研究のために私達に着いて来るのに」

「聞かれていないからな。それにエレナは頭がいい。何も言わなくてもその内自分で気付くだろう。というか、もう気付いていてもおかしくはない」

「じゃあ負ける役は俺とセンリで決定だな。センリ、明日ボロ出すなよ? 自分の実力を少し試すくらいならいいけど、自然な感じに負ける努力をするように」

「は、はい! 頑張ります!」


 意気込んで笑顔で頑張りますと言うセンリ。負ける役を頑張りますって……なんか違う気がしたけど何も言うまい。本人的には凄いやる気なんだから。

 演劇でのやられ役って考えたらそうおかしな話でもないしな。

 っと、ここまでで負ける役が二人決まったな。エレナには勝ってもらうとして……あとは帳尻合わせだな。一勝二敗一分けくらいだとキリがいいよな。パーティ戦するかどうかは知らんけど、まあしないこと前提で勝敗を組んでいこう。パーティ戦なんてめんどくさいだけだし。


「じゃあ……イリアはいい感じに引き分けに持ち込んでくれないか? 無理なら無理で別の案を考えるけど」

「いや、それでいい。引き分けに見せるくらいなら簡単に出来るからな」


 即答で了承してくれたイリア。決断が早くて助かる。


「次は誰が誰と戦うかだな。ユウリはヒカルとでいいだろう」


 イリアがそんなことを言い出した。そっか、戦う相手決めとかないと明日やりにくいもんな。


「それでいいよ。他はイリアがグレイスって人と、センリがフィールって人と、んでエレナが王女サマだな。妥当なところだろ?」


 即決で決めたがこんなもんだろ。一応二人に確認を取る。


「そうだな。問題無いだろう」

「それでいいと思いますよ」


 二人とも直ぐに了承してくれた。

 これで明日の予定は決まったかなー。あ、後でエレナにも伝えておかなきゃな。あいつって普段どこにいるんだろ、全然知らねえや。

 明日の予定が決まった後は二人と雑談を交わしながらディアナの相手をしていた。

 そして……決闘的なことをする日になりますた。

 嫌だなぁ、めんどくさいなぁ。

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俺と幼なじみが勇者になった件 Yuki@召喚獣 @Yuki2453

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