第10話
俺が「跪け」と言った瞬間、勢いよく地面に叩きつけられるように体勢を崩した王子サマ。俺の言葉通りに跪いた王子サマは、体勢を変えようと必死にもがいていた。まあ、そんな簡単に体勢変えられるわけないんですけどね。だってそういう技だし。
「どうだ、王子サマ。初めて人に跪いた感想は? えぇ? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」
そう言いながら、俺は自らの足元から魔剣レーヴァテインを取り出した。右手でしかっりと掴んで、軽く振る。
『お主、今完全に悪役じゃぞ。勇者から遠くかけ離れておるぞ』
『この舞台に立った時点で俺悪役だったじゃん。勇者からかけ離れてるとか今更じゃん』
だって、相手この国の王子サマですよ? しかも超イケメンの。悪役以外なれないじゃん、俺。
まあ元々勇者なんかガラじゃなかったからもういいんだけどね。諦めました。寧ろ開き直りました。
悪役楽しい! この際普段言えないこといっぱい言っちゃえばいいんじゃね? 楽しもうぜ、悪役を!
『開き直りおったか……』
どこぞの神様の呟きが聞こえた気がしたが、俺は気にしない。
「ぐ……く、なんだ、この魔法は!」
訓練場の中心で王子サマが喚く。王子という身分だし、他人に跪いている姿勢というのは相当屈辱的な姿勢だろう。顔を真っ赤に染めて唸っていて、はたから見ていてとても愉快である。
「お前程度の相手に魔法なんて使うわけないだろ。なに? この俺に、この
とある漫画の登場人物の技をイメージして使っただけだ。体の電気を操作して、相手に言うことを聞かせるという技。魔法ではなく、人間の持っている体の機能を異常なまでに引き上げて使う、ただの技だ。魔法ではないのだ。ていうか、俺純粋な魔法とか使えないし。
『そんなに否定せんでもいいじゃろうが……』
「なんだ、その物言いは……! 貴様、今自分が誰を相手にしているのかわかっているのか!?」
「お生憎様、俺この世界に来てまだ数日だからさぁ。アンタが誰とか、全然知らないんだよね。あ、そう言えば自己紹介まだだったな。俺、宮城悠里っていうんだけど、アンタ誰?」
「僕を、愚弄するかぁ!」
顔を怒りで染め、魔力を爆発させるクソ王子。魔力を爆発させて俺の支配から無理やり逃げ出す。おぉ、すげぇ! そんな簡単に抜け出せるもんなんだな! やっぱかませさんの技じゃ駄目だよな!
もう少し真面目にやるかぁ。
『王子を殺さん程度にしておくのじゃぞ』
『殺すわけねーだろ! 俺は平和主義だ!』
日本生まれの日本育ちの俺に人を殺すとか、そんなことできるわけないだろ!
『じゃが、プライドは圧し折るのじゃろう?』
『とーぜん!』
「へえ。俺の支配から簡単に抜け出すか。結構やるじゃねーか!」
「僕はこの国の第一位王位継承者『カール・ミスリル・フォン・フィディール』! 貴様なんぞに負けるはずがない!」
「あ、自己紹介どうもありがとう」
「貴様ァ――!」
体勢を整え、剣を構える王子サマ。何かの魔法を使っているのか身体が淡く光っていた。
それを見て、俺も一応魔剣を構える。といっても、剣の扱いなんかこの数日でちょこっと齧ったばっかだから、見様見真似なんだけど。
まあでも、俺自身が剣の素人だろうが、玄人だろうがあんまり関係はない。だって邪神の力ってそういうもんだし。
改造コード打ち込んでゲームプレイしたことある? まともに頑張る気なくなるよ、あれ。今の俺ってばまさにそんな状態だからさ。
「ほら、来いよ。ソッコーで倒してやるよ!」
「はあぁぁ――!!」
何やら叫びながら王子サマが飛び込んで来る。
――速い!
そのスピードは確実に人間の限界を超えていた。地面を穿つほどの力で飛び出して来た王子サマは、構えていた剣を足元から振り上げてきた。
「おっと」
それを魔剣で受け止める。金属同士がぶつかり合う高い音が響いた。
「いきなりそんな、足元から顔を狙ってくるとか怖いわぁ」
そう言いつつ、王子サマの剣を弾く。剣を弾かれた王子サマはすぐさま体勢を立て直して、もう一度今度は上段から振り下ろしてきた。
それを半身になって避けると、空いた王子様の胴体にボディブローを入れにいく。が、それを王子サマ剣から離した右手の小手を使って弾いてきた。
反応速度はや! ていうかこんな剣術のかけらもない、喧嘩殺法染みた攻撃にも対処できるんだな。
いや、まあ俺まだ全然本気じゃないんだけど。俺の分身の方がよっぽど強かったけどね? いつも絡んでくる兵士の皆さんに比べて速いってだけだから。そこ、勘違いしないように。
「意外にやるじゃん。でも、まだまだだね」
「貴様、どこでそれほどの剣の腕を……! 僕があしらわれるなど本当に人間か、貴様は?」
「失礼な。少なくとも朝原光なんて奴よりはよっぽど人間やってるよ」
「ヒカルは……貴様よりも上だというのか?」
「さあね。確かめたかったら決闘でもしてみたら?」
会話の間にも、切り払いやら振り下ろしやら切り上げやら、拳やら脚やらがいろいろ飛び交いまくっている。
今だったら俺の方が強い自信あるけど、俺に注目が集まるのも嫌なので含みを持たせて光を強調しておく。後で光に何か言われるかもしれないが、そんなのは気にしない。
ほら、俺をこんな世界に引きずり込んだんだから、少しくらいあいつに迷惑かけたって罰は当たらないでしょ?
「あーあ、なーんか思ってたより弱かったし。がっかりだなー。もう終わらせちゃおっかなー」
チラッチラッ。
余裕の態度で王子様を挑発する。人間最強ってわけじゃないだろうけど、でも人間の中の強者ってこんなもんなんだなって感じ。これじゃ勇者の一人や二人くらい召喚したくなるわな。
俺と全く勝負にならないわけだし。これなら、ホントにまだ光の方が強いんじゃないの? わかんないけどさ。
「ふざけたことを! 終わらせられるものなら終わらせてみろ!」
俺の挑発に、王子サマの剣がもっと速くなる。と言っても、俺からしたら別に苦も無く対処できるくらいだ。まだイリアとのウォーミングアップの時の方が速いくらいだわ。
「じゃ、お言葉に甘えて」
王子サマを弾き飛ばしていったん距離を作ると、手を顔の横に持ってきて、相手に向かって剣先を突き出すように構える。
「まじかるー! なんつって」
思い切り魔剣を振り下ろす。
振り下ろした魔剣の先から、真っ黒い衝撃波が飛び出す。俺がいつも使っているあれだ。
でも、今回は少しだけいつもと違うのだ。大きさ、威力、あと、見た目。
いつもはただの斬撃の形をした衝撃波なんだけど、今回のはその斬撃の周りにバチバチとスパークが纏わせてある。ちなみにあのスパークに威力はない。ただの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。
王子サマはその衝撃波を受け止めようと、剣を構える。避けた方がいいんじゃないかなーと思いつつ見ていると、案の定受けきれずに剣が折れて、弾き飛ばされていた。
「ガハッ!」
訓練場の端まで飛ばされて壁にぶち当たり、そのままズルズルと地面に落ちて動かなくなった。気絶したっぽい。どうでもいいけど。
俺の完勝。やったね俺! かぞ――この話は止めておこう。
まあ、俺に一太刀も浴びせられなかったし? 大勢の人間の前で跪かせたし? 挑発もしたし? 王妃サマに頼まれたことはできたってことでいいでしょ。これでプライド圧し折れてなかったらなかなかなプライドの持ち主だと思うけど。
「んー……弱かったな」
『主が強すぎるんじゃ。人間が神に勝てるわけなかろう』
『……それもそうか』
それにしてもちょっと弱すぎない? まだ本気出してなかったとかなのかな。まあ、装備とかも揃ってなかったしな。普通の服と、量産品の剣とかだったし。装備そろえたらもっとマシになるのかな。
光のパーティメンバーは大丈夫だろうか。まさかあれより弱いなんてことはないよね? ちょっとだけ心配になってきたぞ。
魔剣を足元に沈めると、王子サマを放置して訓練場から出た。王子サマにはなんかわらわらと救護斑みたいな奴らが集まってたみたいだから問題ないだろ。
これ以上ここにいたくないのだ。ブーイングがすごいし。
訓練場を出て王宮に戻ると、廊下でセンリと謎の美少女が近寄ってきた。
金髪に海色の瞳。腰の辺りまですらっとストレートに伸びた長い髪に、王宮には似合わない質素なドレス。王妃に似た顔付きの美少女だ。
俺にこんな美少女の知り合いはいない……はず。王宮は人の出入りが激しいから一概には言えないけど、こんな美少女一目見たら忘れはしない。
俺は光みたいに女の子が寄って来る体質じゃないんだ。美少女の顔くらいは覚えておかないとやってられない。何がやってられないかっていうのは、察してくれ。
「その美人さん誰?」
センリが口を開く前に質問。なんか怒られそうな気がしたから。若干目が怖いんです。俺なんかしたっけ? 何にもしてないよね?
『何にもしとらんな』
『じゃあ何で怖いんですかね』
『それは知らぬ』
ですよねー。わかったら苦労しませんわ。
「……この方はフィディール王国の第一王女のエレナ様です」
「ふーん……そうなんだ」
第一王女、第一王女ねえ。第一王女っていやあ、あの王女サマの姉にあたる奴で……って、え?
「お、おおおお王女様でいらっしゃいますか。あの王妃サマの血を引く王女様で?」
「ああ、そうだよ。僕は国王と王妃の血を引く王女さ」
また厄介な人キタ――!
王族とか、王族とか。厄介な人の集団じゃないですか。人の話聞かないし強引だし何考えてるかわからんし確変起こすし。
あんなの王妃サマだけで十分だってのにまた一人増えるわけですか、そーですか。
俺は内心で盛大に溜息を吐いた。もう増えなくていーよ。さっきそのうちの一人といざこざ起こしてきたばっかりなのにさぁ。
「……その王女サマが俺に何用ですか?」
「なに、ただの挨拶だよ。僕も君達のパーティに加わることになったんだ」
「僕も……?」
『どうした、主よ?』
『リアル僕っ娘……口調はミステリアス……あれ? どうしよう、何故か男の娘にしか見えないや。女装男子が漫画によく出てきたからか? さいかたんかわいい』
『お主よ……わらわは今日までお主を哀れだと思ったことは何度もあったが、ここまで馬鹿だと思ったことはないぞ』
『馬鹿って言うなよ。俺だって自分のこと馬鹿だと思ってんのに、他人に言われるとへこむんだよ』
俺は少し引き攣った表情で右手を差し出した。それを見た王女サマも右手を差し出してきて、俺の右手を掴んだ。所謂握手と呼ばれる挨拶において基本的な動作をしたわけです。
「一緒に……って、王女サマは魔法とか使えんの?」
「妹よりは出来るよ。魔法だけならカールよりも上だ。剣術が出来ないから総合力では負けるんだけどね」
「そーですか……」
――俺、今気付いたわ。
この世界に来てパーティ組んで、初めて『人間』が勇者パーティに加わりましたよ!
これって進歩じゃないんですか? 今まで勇者パーティにあるまじき人材ばっかりだったんですよ!?
勇者:邪神
従者:半人半魔
従者:魔王
何このパーティ。人間いないじゃん。てか魔王いんじゃん。俺達は一体何を倒しに行くんですか? なにしに行くの? 世界征服でもするの? でもってその後光に「世界の半分をやるから俺の仲間になれ」とか言うの? 馬鹿なの? 死ぬの?
みたいなパーティだったのが一人人間が加わっただけで(相変わらず目的は見えないけど)随分マシなパーティに見えますよ!
俺は感動を覚えたね。見逃したと思った新作アニメが、地方だから実は一週間遅れて放送だった時くらい感動したね。
『なんじゃそのオタクにしかわからん感動は』
『神様がオタクとか言わない!』
「なんかユウリ様気持ち悪いです。エレナ様と手を繋げたのがそんなに嬉しいんですか?」
「なん……だと……!」
俺が一人で感動しているとまさかのセンリからの一撃。驚きが口から漏れてしまうくらいの衝撃を受けた俺は、思わず涙目になってしまった。
そんな俺を見て、おかしそうに笑う王女サマは手を離すと、
「まあ、今は疲れているだろう? 詳しい話はまた後でするよ。センリにはもう説明してあるしね。何はともあれ、今日はもう休むといい。勿論パーティには出席しなくてもいいよ。それは君達の自由だからね、強制はしないさ。カールにも勝ったしね」
と言ってくるりと回って俺に背を向けた。そしてそのまま歩き始めた。
待って! この状況でセンリと二人きりってちょっとすごく厳しくないですか!? だってセンリが不機嫌な理由がわかんないんだよ!? それってピンチじゃない!?
そんな俺の心の叫びも虚しく王女サマはそのまま歩き去った。
厳しく感じるくらいの気まずさを持ちながらセンリを見ると、センリは半眼でじとぉ、と俺を見ていた。
「エレナ様の御背中を名残惜しそうに見つめて……エレナ様に惚れたんですか?」
「違います。それとセンリさん怖いです」
「なんで敬語なんですか? 何か後ろめたいことでもあるんですか?」
俺はなんで怒ってらっしゃるのかイマイチわからないセンリの誤解? を解くのにその日は相当苦労しましたとさ――
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