第4話語られた真実

 久しぶりに見た彼女は、相変わらずの美貌で僕はすっかりと目と心を奪われてしまった。レジで呆然となる僕と彼女の視線が交わり、その一瞬がすごく長い時間のように思えて、まるで時間が止まったかのように感じた。彼女もドアを背にその場にたたずんでいた。先に動いたのは彼女だった。切れ長な目を細めて、僕に微笑みかけながらも会釈をしてきた。咄嗟に僕も会釈をし返す。やっぱり僕と彼女には何かがある。また、彼女には何か深い事情がある。

 僕と彼女が最初に逢った旅館で別れた時、彼女は僕を無視したわけではなかったのが今の態度からわかる。それに、気付いていないわけでも無かった。それじゃぁ彼女はなんで反応をしてくれなかったのだろうか。だがそんな疑問も、彼女が僕に好意的な態度を示してくれることで僕は舞い上がっていたから、直ぐに考えるのをやめていた。自分でも単純だと思う。

 彼女はこんな時間に何を買いに来たのだろうと気になったので、ずっと観察していた。飲み物売り場に行き、うーんと唸り、お菓子売り場にいてまた唸る。彼女の外見と反して子供みたいな態度が妙に可愛らしい。やっと決めたのか、ポテトのスナック菓子とコーヒー飲料という、あまり合いそうもない組み合わせを持ってきた。彼女は、何かを決意したように少し目を見開いた。


 「あの、私の事覚えていますか。だいぶ前だけど、帯幌の旅館であったんですけど・・・」

 「は、はい!」


 何処の訛りなのか、彼女のイントネーションは少しおかしかった。

 彼女は僕が返事したのをしっかりと目で確認して言った。

 

 「佐々部勇気さんっていうんですね、私は南町子って言います。あの、帰り際に私に何か話しかけてくれましたよね」

 「いい名前ですね。そんな事もありましたね、他愛も無い世間話ですけどね」


 ハハハと笑い流すように言うが彼女の顔は真剣だった。


 「あの時私は何も返事をしてあげられなかった。後になってからあなたの事を傷つけたんじゃないかと思って。あの時私たちは何の関係もない赤の他人だったのに、そんな態度をして凄い失礼だったなと思って」


 彼女は申し訳なさそうに顔を俯けた。


 「何の関係もないだなんて・・・!僕は君と夢で逢った、君は凄く辛そうだった。それを必死に励まして、元気になってほしくて。そこには2人だけしかいなくて・・・ってあれ、それは僕だけの事か。でも、アレはただの夢じゃないと思っている!あんなにハッキリとした夢僕は見たことがない。もし、もしも・・・君があの日の夜夢を見ていたのなら・・・教えてくれないか」


 顔をはっと挙げて彼女は言った。



 「ごめんなさい、あなたが何を言っているのかわからない」


 妄想を希望と勘違いしていた僕は、その答えを聞いて、悲しさと恥ずかしさの混ざった様な感情が込み上げてきて、心臓がきりきりと痛んだ。

 

 そんな僕を前に彼女は続けて言った。

 「これは最初に言っておくべき事でした。言いたくないけれども、言わないとわからないから」

 

 次に彼女から発された言葉に、僕は息をのんだ。


 「私は耳が聞こえないの、だからあなたが何を言っているのかわからない」

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Deaf Fortune パックス @Pax1205

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