紅葉の木の下に落ちる

優侑

第1話 プロローグ ~出会い~

彼女をこうしたのは、僕なのか。

それとも、僕とのその後の事なのか。

僕のせいなのか、誰のせいなのか。

わからないけど、彼女を傷つけたのは確かで。

それは紛れもない事実で、

変わらない過去で、

今目の前にいる彼女も、

きっと変わってはくれないんだろう。



彼女はいつも唐突に僕の目の前に現れて、素敵な言葉を残して、去っていく。

ただ単純な言葉。

よく聞くただのお世辞だったり。

でもそんなものはどうでもよく、

彼女は綺麗だ。

長く伸びた艶のある黒髪、

夏を過ぎたというのに少しも焼けていない白い肌、

夜更けの空に浮かぶ星のように輝いている茶色い瞳、

彼女は綺麗だ。

「あなたはあなたが思っているほど、あなたじゃないよ。」

彼女は綺麗で、

きっとこの言葉も、大して知らない僕を見て、

かっこう悪い僕を見て、

情けない僕を見て、

ひたすら自分を過少評価し続ける僕に、

そんなにあなたは悪くないよ。

って、言ってくれたんだって、

そういう風に思った。

それだけで、

そんな言葉だけで、

そんな勘違いだけで、

恋に落ちるには十分だった。





高校二年の秋、僕は彼女に出会った。

静かな放課後の図書室。

夕焼けの赤い光が差し込む窓際の席で、

彼女はいつも本を読んでいる。

やりたくもないのにたまたまなった図書委員、

本の知識もない、

読むのは漫画だけ、

どちらかといえば体育会系、

それでもなってみれば、こんなに嬉しい日が待っていた。

毎週、火曜日と金曜日。

彼女に会う日。

彼女に会える日。

彼女を見つめる時間。

彼女と交わす言葉は、たった一言で、

「もうそろそろ閉めますよ。」

会話なんてものじゃなくて、事務的なもの。

僕はいくらでもここで彼女を見ていたいのだけど、

そういうわけにもいかないものだから。

「あ、はい。」

彼女はいつもそういって、

読んでいた本をスクールバッグに入れると、

図書室のドアの横にある貸出カウンターにいる僕に軽く会釈して、

すたすたと軽い足音をたてながら帰っていく。

ただそれだけの関係。

関係と言っていいのかもわからないような状況。

そんな日が続いていく中、

変化があったのはもうマフラーをするようになった冬の日の事だった。

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紅葉の木の下に落ちる 優侑 @yu_u____ss

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