第1話2部:俺の騒々しい日常(マジ)

「はぁ…。」


あー、かなり面倒臭い。やっぱり俺が今まで選択してきたぼっちという生き方は間違っていなかったということを痛感させられた。

青春を謳歌せしあいつらに囲まれて話さなければいけないとか面倒臭い事この上ない。

あいつらに黒騎のことめちゃくちゃたくさん聞かれたけど別に俺はあんな中二病患者と好きで一緒に話しながら帰ったわけじゃないし。んー、でもまぁ黒騎はまじめで悪いやつではないと思うけどな。あの面倒臭い性格と特性を除けばの話だが。


それはそれとして、俺は普通にぼっちの高校生活を送りたいのにこの今の状況(青春を謳歌せしやつらに黒騎のことを集中質問され、嫌気がさしトイレに逃げ込んだ状況)を考えると静かにぼっちで俺の趣味である人間観察を楽しむ高校生活を送れそうにない。




…と思っていたのだが俺の心配は無駄に終わることになる。なぜならクラスに戻ると、



俺の席に群がっていた質問放射器共はいなくなっており、代わりに教室にはすべてが凍るような冷気を伴った雰囲気が漂っていたからである。これはどうしたんだろう。と思った俺は隣の知り合いに「何かあったのか?」と、聞くとそいつは「く、黒k」と言ったところで、何かに気付いたように俺をシカトしたので何があったのか大体予測することができた。

どうせ黒騎が何かやらかしたんだろうな。って事が。


と思い、あたりを見回したが教室内に黒騎の姿は無かった。


「アイツ、どこにいるんだ…?」


んー、やはり教室の中のどこにも黒騎の姿が無いので、探しに行くことにした。

全く、あいつは何やってんだ。もう授業始まるのに…。というか、俺が教室を出た時に背後で先生が「おい。神山どこに行くんだ!授業始まるぞ!」って言ってるの聞こえたし。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



授業開始のチャイムから15分程経ったが、未だ全く黒騎の向かった先を示す手がかりを見つける事は叶っていない。何度か保健室に向かう生徒などとすれ違いそいつらに聞くことも出来ただろうが、俺にそんなコミュ力は皆無である。と、歩きながら探し回っていると後ろから、


「賢杜。今すぐ授業に戻れ。」


後ろを振り向くとそこには俺の幼馴染であり今のクラスの委員長である、逢沢 爽香(あいざわ そうか)が立っていた。


「爽香、お前が正しいのは分かってっけどそれは残念ながら聞けねぇよ。」


「はぁ、賢杜。お前はいつもそうやってボクのいうことを聞かないじゃないか。今ここであの女を追いかけてもお前には何のメリットもないと何故わからないんだ?」


こう言われても流石に黒騎を探すのは諦められない。適当に流しておけばいいだろう。


「いやいや、メリットならあるぜ。」


「ほう。では、それが何なのか言ってみろ。ボクに言わせてもらえば、あんな女に関わること自体がデメリットでしかないがな。」


どうしたんだ?あの爽香がこんなに特定の人を嫌うなんて。こんなことは今までなかったと思うけど…。


「お前は理解出来無いだろうけど、授業そのものをサボること自体がメリットなんだよ。」


まぁ、建前だけでもメリット言っとけばいいだろ。ホントのことでもあるし。



「ほう。それがお前の答えか。」


「あぁ、事実だしな。」


こう言っとけば、爽香も黙って授業にもどるだろう。柄にもないグレた感じを演じたし。


「そうか。なら、このボクが君を矯正してやろう。そんな舐め腐った根性をな。」


まさか、そんな武闘派的な考えで返してくるとは思っていなかったから少しだけ驚いたが

コイツとは何度か幼い頃に殴り合いの大喧嘩したことがあったが、負けたことは無いから多分大丈夫だろう。


「ふんっ。できるものならやってみろ。友達さんと浮ついた生活を送っているお前が、ぼっちで日々精神を鍛えているこの俺に勝てるとでも思っているのか?さぁ、かかっt」



ひゅっ!


どさっ



最初はどうなったのか全く分からなかったが頭がはっきりしてくると何が起こったのか、はじめて認識できた。



俺が『かかってきやがれ。』と言おうとした途中で爽香が脚払いをくりだしてきたのだ。それを目視で認識できなかった俺が思いっきりすっ転んだという状況だった。


という思考をまとめ終わった頃には胸ぐらを掴まれ片手で足が浮くほど掴みあげられており、


「ここまでされてもお前はまだあの女を探すと言うのか?まったく。お前は昔から本当に馬鹿だな。やる前から少しはこうなる事が予想できたんじゃないのか?」


「まぁ探すのは当然だな。」


「そうかそうか。お前は命でさえも惜しくないと言うんだな。」


いやいや、こんな事で俺の命を消し去らないでほしいのだが。


「いや、全く命は惜しいんだけどね?それより、お前がこんなに強いの予想できなかったんだが、なんでこんなに強いんだ?」


「そうか、君はボクが空手で黒帯を持っているのは知らなかったか。ボクはもう昔のボクじゃないんだよ。」


理由は知らないが爽香は俺の知らない所で空手をやっていて、その上全国大会屈指の実力者であるらしい。まぁ、そんな奴に無防備で『かかってきやがれ。』なんて言おうとした俺はただの馬鹿なんだが…。



「昔は喧嘩しても俺が負けることなんて無かったのにな」


「まぁな。だが今はボクのほうが強い。全てにおいて強者こそが正義だ。」


「お、おう。まぁ爽香が強いのはすごく分かったよ。痛いほどな。だからもうそろそろこれ、降ろしてくれないか?」


「それは無理な質問だな。君はなんでこの状況になったか理解していないようだが、ボクは君を矯正するために、こうしているんだ。で、どうかな?改心する気にはなったかな?」


「あぁ。お前が正しいのはよく分かったよ。痛いほどな。」


「そうか。ボクは信じていたよ。君がわかってくれるってね。」


と言いながら爽香は俺を降ろした。


その瞬間


「でも、俺はやっぱりお前の指示には従えない。やっぱり爽香と俺はどうあっても分かり合えないみたいだな。」


と言って距離をとる事に成功した。


暫く俯いて黙っていた爽香だったが気づいた頃には


「黙れっ!やっぱり君のことはもう信じたりしないっ!だから殺すっ!」


爽香はまさに鬼の様な形相で俺を睨みつけていた。


「今ここで全ての決着を付ける。ボクの気持ちの事も過去の事も清算する。」


「過去はまぁ、心当たりが無い事も無いけど気持ちって方は全く分からんぞ。」


「ふ。知らなくていい。『コレ』はボク自身のことだからね。『コレ』を、終わらせることでボク自身が自己満足できる。それだけだ。だから気にしないでぶっ潰されてくれ。」


「いやいや、そう簡単にわけの分からんことでぶっ潰されるわけにはいかないからな?最悪この場から逃げることも考えるけど。」


「キミは何を言っているのか分かってるのか?さっきどうなったか思い出してみるといい。」


わかってないのは爽香の方だ。


「確かにお前は俺より強い。ただ、強い=確定された勝利。って訳じゃないんだよ。まぁ、『強者こそが正義』って言ってる爽香には全く理解出来無いだろうがな。」


「うっさい。ツベコベ言わず、大人しくボクにぶっ潰されろ。」


と、同時に爽香は一気に間合いを詰めてきて俺が一歩も動けない内に目と鼻の先まで接近してきていた。そして、拳と蹴りを次々と繰り出してきた。

一応回避を徹底しているが、五発に一発の割合で俺の体にヒットしているため確実にダメージを蓄積させていく。反撃の隙も全くと言っていい程存在しない。俺の回避は続いているがジリジリと後ろへ下げられて、壁へ追い込まれるのは時間の問題だろう。だからと言って負けるわけにも行かないので


俺は『一歩踏み出した』。


気持ち的な比喩表現じゃなくて、物理的にだ。正直なんで、こんなことしたのか分からないが気持ちの衝動で気づいたら俺は一歩踏み出していた。


この突然の行動で爽香の攻撃に一瞬の隙が、生まれた。


その時だった。





「なんで、そうお前達は昔から不器用で馬鹿なのかしら。」


そう言って何も無かったかのように俺と爽香の間に入り、爽香の横蹴りを片手で受け止めている黒騎の姿があった。


「きっ貴様っっ!!」


「貴様、貴様って、お前も昔から変わらないのね。ずっと貴様ではなく、黒騎だって言っているのに。」


「うるさいし、もういいっ!!」


「私ももういいわ。どこかへ行ってちょうだい。」


「いちいちムカつく奴だな、貴様は。ボクはクラス委員だから、授業に戻る。あと、賢杜、」


「何だ、爽香?」


「覚えとけ。」


そう言う爽香の顔は怖すぎて直視できなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「お前って馬鹿なのよね?」


「は?」

唐突な質問に俺は呆けてしまった。


「あの行動は誰がどう見ても馬鹿だって思うわよ。」


「んー、まぁ、確かにそうかもな。でも、結果として黒騎が来てくれたし。」


「そういう、心にも思ってない結果論を述べるのはやめてくれるかしら。」


「ま、確かに結果論っちゃ、結果論だな。俺も正直黒騎が来るなんて全く考えてなかったし。」


そもそも、こんなやつに貸しは出来れば作りたくない。


「……でしょうね。」


「ん。てか、俺がやられそうになって飛んで駆けつけてくるお前って、俺の事好きすぎじゃね?」


「気持ち悪いから、黙ってもらえるかし

ら。」





こう言われるだろうということは、こいつと話していて大体予測はついた。黒騎は俺の事が基本的に嫌いだろう。俺も正直嫌いだし。ただ彼女の中の正義心が、強すぎるがために俺の様な嫌いな奴でも助けてしまうのだろう。そう考えると助けてもらった恩はあれど彼女の事を馬鹿だと考える自分がいる。というか、心の底から馬鹿で救いようのない奴って思っている。人生生きていく為には臆病であることが、大切だと思う。




…だから俺の将来の夢は臆病は臆病なりに引きこもって専業主夫がやりたいと考えている。



などと、ひとりでに考えながら帰宅した。























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