第2話 聞かない方がいい話もある
ええ、その病院には、何度か行きました。
当直室は狭く、電気もちかちかしていました。壁のシミからもだいぶ年季が入っていることがわかりました。小さいベッドに、14型のテレビ。それでも個室が充てがわれるだけまだまし、そう思っていました。その日も横になりながら、日々の激務を少しでも癒し、次の日の業務のため体力回復をしよう、そんな事を思っていました.
「●●先生、よろしいですか?」
21時も過ぎた頃でしょうか。突然の呼びかけに、はい、と返事をして、ドアをあけると、そこには40代半ばの女性が立っていました。
「先生、これ給料明細です。他の先生にも渡しておいてもらえますか」
どうやら女性は事務の人間だったようだ。
自己紹介もなしに、面倒な仕事を押し付ける。おそらくこの病院のお局的な存在なのだろう。
その図々しい態度に、少し距離をおきながら、分かりました、そう返事をしてドアを閉めようとしたとき、女性はまだ話を続けるのです。
「センセー、大丈夫でした?」
何がですか? 純粋に私はそう答えました。すると女性は、何をいまさら、そんな表情を浮かべながら、しわの混じった目尻を細くしたのです。
「センセ、まさか聞いた事無いんですか? この病院のウ・ワ・サ」
どうやら最初からその話をどうしてもしたかったらしい口調で女性は続けました。断る事が苦手は私は、いかにも嫌そうな顔をしながらも、その話につきあうはめになったのです。
まさかその後、全く眠れない当直になるとも知らずに。
その話のせいで——。
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