第4話 【輪切りのハニー】表

例え、この愚かなる懺悔が届かずとも。

最も馬鹿な男の話を、あなたに。


輪切りのハニー


「人間の心とは心臓ではなく、脳にある。所詮脳の作り出した幻なのだ。経験や学習によって個々に育った棒グラフの落差によって、個々の性格が違う結果になる。年を取ると誰しも似たようなグラフになるからね、老人はいつだって似たような穏やかなタイプが多いだろ? おっと、脱線をしてしまっとね!──さぁ、一つ疑問を投じる。人間は自らが抱える心を支配しているのか、心に支配されているのか? 具体例を出そう。精神的な病を持った人間が自殺をした。しかしそれは本人の意思によるものだったのか? 精神の病によるものだったのか? 精神科に通っていて既往症に病名があれば確かに病によるものだが、たとえ受診していないからといって病を患っていなかったという証拠はどこにもない。果たして、どこまでが彼の意思、心なのかな? 時に宿主である肉体を殺してしまう心って何かな? 彼は病とは関係なく、本当に死にたかったのかな?」




「チェリカ殿に会えないまま、早二週間。オイラ様の探偵としての能力は全くもって役に経ってませんなぁ」

「……文化祭前だから、写真部は忙しいだけだぜ。時期外れの新入部員に掛かりっきりらしいし」

「でもぉ、ルノ殿と約束したのにぃ」

「こればっかりは。どうしたって仕方ないぜ。チェリカさんが空想遊びに夢中だなんて言いふらしても仕方のないことだし、そのことを知っている人は少ない方がいいし。落ち込んでも意味ないんだけど」

 狭っ苦しい探偵部の部室内。ゴロゴロしたままゲームに頑張っていたルミナスがふと顔をあげる。気遣わしげなオッドアイが向けられて、シヴァーは膝を抱えた。

「……なっちゃん、なにか?」

「そんなに気を落とさないでって、言いたいだけだぜ」


 夏休みが終わり、二学期が始まった。しかし二週間前に起ったとある出来事のせいで、シヴァーの顔が晴れることはない。

 図書室の幽霊、ルノ。シヴァーの友人だった彼の正体は、人狼ゲームによって命を落とした被害者だった。彼の最後の願いをかなえるべく、“妹”であるチェリカとどうにか接触をしようと試みているのだが……どうにもうまくタイミングが合わない。シオンに協力してもらおうにも、時期はずれの新入部員の世話をしているという情報がもたらされただけだった。来月の頭にある文化祭では写真部が活躍することは明らかだ。何せ、学園全体の青春の一ページを残す部なのだから。それに備えるため、撮影場所の手配やカメラの整備、基本的な設備の調整が忙しいのだろう。

「チェリカ殿は人狼に狙われてる。ってオイラ様の口から言っても、さっぱり通じないでしょうしなぁ」

『うーん、今忙しいからあとでね!』

 たとえ廊下ですれ違うことができてもなんてあの眩しい笑顔で片付けられるのは目に見えている。

 下駄箱で張ってみたり色々と努力をしてみたのだが、不思議なくらい手がかりがない。あの明るい外見からは想像もできなかったが、空想上の兄を求めるくらい孤独な少女なのだ。現在地や連絡先を知る、仲の良い友だちもいなかった。

「なっちゃん。オイラ様って、とことんダメなやつですぞ」

「そんなことない。シヴァーが頑張ってるのは、わたしはよく知ってるぜ」

「うう。どうしたらいいと思いますかな?」

「むぅ。レインさんに頼ってみたんだけど」

「え!? すでに!」

「……でも。レインさん、ずっと何か考え込んでて……」

「どーせ晩御飯のおかずのことでは?」

「むぅ」

 半袖から伸びたスラリとした腕を組み、ルミナスが首を傾けた。艶やかな黒髪がさらりと流れる。

「……言われたんだぜ」

「なにをですかな?」

「協会はいつオレを始末するんだって」

「へぇ?! なんでまたそんなマイナス思考な…」

「わからない。……ただ、最近ずーっとパソコンいじってるから」

「あぁ、それはオイラ様も気になりましたぞ。何気にさびしんぼのニートの癖に、オイラ様たちが遊びにいってもどっかよそよそしいんですよなぁ。オイラ様はてっきり、ちょっとエッチなサイトでも見てるから距離があるのかなぁと」

「そ、そんなもの見るわけないぜ」

「レイン殿だって男ですから」

 何気なく言ったつもりが、ルミナスは見る見る顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。シヴァーはとんだ失言をした自分を恥じる。意識するあまり、男友だちに接するようにしてしまっては台無しだ。ルミナスの好感度が下ってしまったことにシヴァーはしゅーんと落ち込んだ。 

 ともあれ、校内を自由にうろつけるレインの協力もなく、チェリカと会う手段もなく、探偵部の部室に篭ってみても妙案は浮かばない。朝、校門前でウィルにとめてもらおうかと頼んでみたが、ウィルが立つ前にチェリカが登校してしまうようで捕まえることができなかった。

「魔物退治はできるのに、その魔物が見つからないなんて……わたしはハンター失格だぜ」

「そ、そんなことは」

「その通りだわ、無様ねルミナスお姉さま!」

 ババーン! お世辞にも上品とはいえないドアの開閉と共に、よく通る声と白い影が飛び込んできた。編みこまれた髪に止まる蝶の髪飾りと、毛先に行くにつれてゆるくウェーブがかった白い髪。目の上で切りそろえられた重めの前髪から覗くオッドアイは、左が紫で右目が緑だ。人形のように愛らしい顔をこれ以上ないほど歪めてけらけらと笑う少女に、シヴァーは思わず叫び返す。

「何用ですかな、ここは関係者以外立ち入り禁止ですぞ!」

「うるっさいのだわこの野良犬。……それにしても汚い部屋ね、お姉さまにお似合いだこと」

「だ、誰が野良犬ですかな! オイラ様はともかくっ、なっちゃんに対する無礼、聞き捨てなりませんぞ!」

「あら、お前ごときがわたしに歯向かうというの? それに探偵はいつだって真実を語るものよ。負け犬には侮蔑を、くたびれた蝶にはクモの巣を」

 おーっほっほと高飛車に笑う少女。あんまりな言い草だが、当のルミナスは反論しないで、少し困ったように微笑んでいる。シヴァーは二人の間に立ち塞がると少女を睨みつけた。

「ええい、だまらっしゃい! いくらなっちゃんの妹といえど、オイラ様とて我慢の限界がありますぞ!」

「ワンワンうるさいわぁ、ちょっと口を閉じなさいな、臭いのよ」

 シヴァーの威嚇は全く持って効果なし。冷たい目を向ける少女の紫色は、ルミナスとは大違いだ。


 二学期に入り、担任が『転校生を紹介します』と言った。もちろん、クラスは色めきたち、可愛い子かな、かっこいい子かなと皆期待をしていた。

 担任の呼びかけに応じて教室に入ってきた少女は確かに美少女だった。白い髪を揺らし、これまた白いタイツに包まれた足は折れそうなほど細い。小さな顔は人形のように整っていて、桜色の唇をほころばせて笑うとクラス中がどよめいた。

 そんな少女を見て、シヴァーは健全な男子そのものの思考を繰り広げてシオンとニヤニヤしていた。つまり──下劣な考えかもしれないが──どっちがいいかな、である。女子が聞いたら怒り出しそうな妄想だがそこは許して欲しい。色めき立つ男子生徒とは違い、一歩引いていられるだけ少しは偉くないかなぁ?

 甘い顔立ちの転校生。クールな美貌のルミナス。顔はどちらも可愛いけど、体は全然違うんだな、比べると際立つ、ルミナスの肉感は素晴らしいなぁ、胸から腰にかけてのライン、太ももの感じが全然違うなぁ。そう、言うならば転校生は作り物というか、無機質というか、どこか飾り物のような……つまりは人形に見える。自分たちとは全くもって別のものに見えるのだ。自分そんなものに対して、劣情のれの字も催さないことがよく分かった。

 ……妄想はエスカレートした。なっちゃんとちょっと買い物にいって、ガラスケースの中の小さな転校生をみて、

『わたし、こういうのも好きだぜ』

『うむ。なっちゃんもやっぱり女の子ですなぁ』

『そ、そんな……そうなんだけど……』

 といって頬を赤らめるルミナスを見てにやにやしたい、幸せをかみ締めたい、プレゼントして喜ばせたい、そしてそのまま手を繋いで帰りたい……。

 ──ここでふと、我に返る。

 あ、あれ? 何を考えているんですかな! なっちゃんとそういう、デートとかしたいってことかな? なっちゃんのこと男だと思ってたけど、女の子だって納得したけど、守りたいって思ったけど……それって友だちの延長上で、女の子と同居してるってことに舞い上がってて、でも慣れてきて……あれ、あれ?

 ……なんてパニックを起こしていたから、必要以上に男友達と接するようにしてしまったんだ。うーん、小難しいことを考えさせられたのもこいつのせいだ!


「シヴァー、待って」

「待ってって……むむむ」

 ぐるるる、と喉を鳴らすシヴァーを見やり、ついにルミナスが口を開く。どうどうと背中をさすってから、彼女はホワイトに向き直った。

「なにをしにきたのホワイト。わたしを追いかけてこの学園にきた理由を、しゃべって欲しいぜ」

「お分かりでしょう? お前のすっかすかな頭でも」

 ルミナスが首を振ると、彼女の白い妹──名前まで真っ白の、ホワイトはより楽しげに笑い出した。なんて耳障りな声だ。シヴァーが無遠慮に耳を塞いでる様すら面白いらしい。

「協会から指令が下ったわ。体ばかり発達したバカな姉の代わりに、このわたしが人狼を始末するように、と」

「……嘘だぜ」

「嘘なんていうもんですか。探偵はいつだって真実のみを語るのだわ」

 ほら、コレが正式な文章よ。まっ平らな胸元から出された一枚の紙を読み、ルミナスは困ったように眉を下げる。シヴァーも横から覗き込んで見た。『人狼討伐計画として、本格的にシスターズを投入することにしました。なお、』

「なお、先遣として派遣されていたルミナスが所持している銀銃、メルヘンぜールを回収、シスターズのリーダーとしてホワイトの派遣を決定します……と。ほら、よおく分かったでしょう?」

「シスターズ……? なっちゃん、ほかにもご姉妹が?」

「いるぜ。チームを組んだ、義理の“姉妹”だけれど。わたしたちシスターズは、皆人狼を倒すためだけに教育を受けたものたち。それだけが使命の、討伐部隊」


『協会も妙なことを考える。お前みたいなド素人の小娘たちで人狼の討伐部隊を作り上げるだなんて。ロリコン趣味に走ったのか』


 ──以前、レインが言っていたことを思い出した。

 ド素人の小娘たち。ルミナスや、このホワイトのことか。……引っかかる。


「さ、銃を渡しなさい」

「断るぜ」

「まあ、生意気を言うのね」

「その文章が本物かどうかを言い争うつもりはないぜ。それに、銃を渡す気も、この学園での狩りの主導権をホワイトに譲るつもりもない」

「……何故?」

「人狼は、わたしが狩る」

「言うと思ったわ、たかが少し先に生まれただけで、姉という位置に収まって得意面。ねえ、どうして姉が妹よりも先に生まれるか分かってる? 後から生まれる賢い妹の踏み台になるためよ!」

「ホワイト……、わたしは……」

「ふん。昔からお姉さまって強情で頑固で、まじめなんだから。はしたない体のわりに」

「は、はしたないなんてこと、ない。別に普通だぜ」

「事実じゃない。協会のやつらも垂らしこんだんでしょう? じゃなかったら、お姉さまみたいな愚鈍で愚かな女が先遣に抜擢されるはずがないもの。けれどもやっぱり能無しだからお役御免になったんじゃない」

 ずいっと伸ばされた手が無遠慮にルミナスの胸を付く。ルミナスは弱弱しくむぅ、と唸って一歩下るも、ホワイトはさらに追い詰めるべく一歩踏み出した。待ってろ、と言われたものの、シヴァーは堪えきれずにその手を払いのける。……ホワイトの眉がつりあがった。

「まあ汚らわしい!」

「はぁ!?」

「軽々しく触らないで頂戴。お姉さま、犬の躾くらいきちんとしなさいな。それでもこの野良犬の日々楽しくただれた毎日を送ってるのかしら? ねえ、言い返せないの?」

「……独り相撲もいい加減にしてくだされ」

「誰がよ!」

「なっちゃんがそんなことをするわけないし、大体なっちゃんは貴様なんて歯牙にかける必要がないから答えないだけですぞ。なに、聞いていればぎゃーぎゃーと適当なことをやかましい。会話のキャッチボールができてないって、ちょっと反省したほうがいいですぞ」

「あらぁ。わたしが他人に遠慮なんてする必要があるとでも? いつだってわたしは自分の好きなようにしゃべるし、他人から情報を好きなだけ手に入れるわ。何故ならわたしは探偵だから」

「三度目にしてつっこみましょう。オイラ様こそが探偵ですぞ、物語に探偵は二人も必要ありませんからな!」

「あらじゃあお前が退場なさい? まあ、別にわたしは構わないわ。お前と違って、本物だから。いくら脇役が騒ごうとも、微塵の殺意も起きないのだわ!」

「キーむかつく! この真っ白女っ! 表へでろですぞ!」

「お前が出て行きなさいよ」


「シヴァー、待って」


 弱弱しい声でルミナスが制止する。それでも、瞳だけは真っ直ぐホワイトに向けていた。


「なんと言おうと、わたしはこの銃を渡さない。ホワイトはホワイトで、銃をもらったはずなんだけど」

「ええ、もちろんよ」

「なら、それを大事にすることだぜ」

「……なによ。生意気にわたしにアドバイスするつもり!?」

「もう一度言う。人狼は、わたしが、狩る」

 ルミナスのそれは直接の返答ではなかったが、ホワイトの神経を逆なでするには十分な一言だった。彼女はやおらに太ももに手を伸ばすと、くくりつけてあるホルスターから黄金の小型中を引き抜いた。──意図は明確だ。まさか撃ちあいに、こんなところで──。

 しかし、全ては杞憂に終わった。部室に転がり込んだノックの音に、ホワイトが銃口を引っ込めたのだ。さすがに関係のない人前で──シヴァーもある意味無関係とも言えるのだが──のトラブルは避ける、という思考はあるらしい。

 助かった。でも、誰だろう? 訝しみつつ、その場を動けないのでどうぞと声を張り上げる。……遠慮がちに扉が開かれ、銀色の頭が覗き込んできた。

「ル、ルノ殿!」

「誰です、それ」

「あ、違う……ボリス殿」

「すみません、がっかりさせてしまいましたね」

 弱々しい謝罪をしながら部屋に入ってきたのはボリスだった。しかし……どうしたことだろう? これがあの大学生だろうか?

 アイロンのかけとどいていたシャツはよれ、きっちり分けられていた七三の髪は乱れて額を隠している。眼鏡が光れば指紋の痕が顕著になり、その下の表情はやつれ、青ざめていた。

 そんな状態でも室内を見渡し、ただならぬ雰囲気を察したようだ。「取り込み中でしたか」と、ぼそぼそと呟いて回れ右をしようとする。

「ちょ、ちょっと待ってくだされ! 何用ですかな?」

「……すみません、何でもありません。僕、どうかしてる……君たちみたいな子供に話しても仕方ないのに」

「なによ、話してみなさいな。どうせ対した時間にはならないでしょうし、代わりに暇潰しにはなるわね」

「君は……?」

「黙っててくだされ、妹殿。ここはオイラ様となっちゃんの部室。余計な茶々は無用ですぞ」

「お前が馬鹿だから口を挟んであげてるのよ、感謝なさい」

「はぁ?!」

「……あのねぇ馬鹿犬」ホワイトは肩を竦め、右足を前に出して斜めに立つと顎を持ち上げた。思い切り見下すポーズを取られ、シヴァーはたじたじとなる。咄嗟に反論しなかったのをいいことに、彼女はふんと鼻を鳴らして続けた。「ここは探偵部でしょう? そんなところに、こんな思い詰めた顔の人間がくる意味、わかる?」

「え……あっ」

「そうね、わからないのよね、馬鹿だから」

「もう分かりましたぞ!」

「さぁ、依頼者のお前。話を聞かせてみなさい、そして感謝なさい。

こんな野良犬ではなく、わたしのような探偵がこの場にいることをね!」

 おーほっほ、と笑うホワイトを見て、シヴァーはため息をついた。ちらりとルミナスをみればすでに床に座り込み、ボリスに座布団を勧めている。ついでに、ホワイトにも。が、ホワイトは座布団を踏みつけ、苛立たしげに床を蹴る。こんな汚いものに座れって? お姉さまって本当に馬鹿ね、と悪態をつく。……お姉さんなの? そんなこと言っちゃ駄目ですよ。ボリスに窘められてもホワイトは譲らない。

 ……あぁ、この人形女、本当に腹立たしいッ! 探偵探偵とも張り合ってきて喧しい。どうせ咬ませ犬なんだろ、ワトソン君だっていないひとりぼっちの高慢女の子なんだろッ!

「シヴァー、ごめんねだぜ」

 ルミナスがどうどうどうどう、と背中をさすってくれた。……なっちゃんはどうして悪口に言い返さないんだろう。あぁ、何もかも、何もかも!

「ホワイトは寂しがりやだから」

「そ、そんな風に受け止められるレベルを超えてますぞ」

「うん、でも、そういうことだぜ」

 結局ホワイト一人を立たせたまま、シヴァーたちはボリスの話を聞くことにした。


「実は、お願いと言うのはその……僕の恋人のことなんです」

 ……噂にはかねがね。といいたくなったのをぐっとこらえ、先を促す。

「先日からどこか態度がおかしくて……忙しいし、ストレスも溜まってるのかなって思ってたんですけど。ついには連絡が取れなくなって」

「あらぁ、ふられたのねぇ」

「違います! 僕とレイネは別れたりしてません。理由もないし、それに、今までだって多忙のあまり連絡が取りにくくなりそうだったら一声かけてくれてたんです。それが、もう音沙汰もなくて」

「ほうほう。それで、その恋人殿を探して欲しいと?」

「探して、というか……、その……」 なぜかボリスは言いよどみ、それからぼそりと続けた。「僕が至らないばかりに、失望させてしまったのなら……もう一度話がしたくて」

「はぁ? やっぱりふられたんじゃない」

「……ホワイト」

「なによお姉さまったら、こんな男の肩を持つというの!?」

「まだ全部聞けてないぜ」

 がくがくされながらも呟くルミナスに、はっとホワイトが手を止める。ボリスはうろうろと視線を彷徨わせてから、言う。

「お願いを、したんです」

「お願い?」

「占いみたいなもので……その、大学ではやってて。眉唾ものかなって思ってたんですが……」

 ボリスが懐から取り出したA4の紙。ひょいと覗き込んだシヴァーだったが、ルミナスの顔が曇ったのを確かに見た。が、ホワイトはふんと鼻を鳴らしてその紙をあろうことかくしゃりと丸めてしまう。

「こっくりさんだなんて呆れちゃうわ。用はなに? その女を探し出せばいいんでしょう、簡単だわ。わたしがいてよかったわね」

 写真は? と手を出すホワイトに、ボリスがスマートフォンに写った女性の写真を見せた。柔らかな笑顔で微笑む美少女だ。白衣の下のブラウスの胸元が恐ろしいほどに豊かでぱつんぱつんである。ついでに写真を送ってもらいながら、シヴァーはうーむと首を捻った。ルミナスの様子が気に掛かる。

「わたしのほうが先にこの女を捜して見せるわ。そのときにはお姉さま、わたしに銃を渡すことね! おーっほっほっほ!」

 耳障りな笑い声と共にホワイトが出て行ってから、ルミナスはふうとため息をついてボリスを見やる。そんな彼女を、自分の焦燥した様子を隠してボリスが気遣った、

「……あの。失礼かもしれませんが、妹さんと仲が悪いのですか」

「いや、違うぜ。ホワイトはちょっと、気難しいだけだから」

「なっちゃん。甘やかすのも良くないですぞ」

「そういうけれど……あの子は、あの子で、いいところがたくさんあるから」

 そういって微笑むルミナスの目はとてもとても優しくて。彼女がどれだけあの妹を思っているかが伝わってきた。

 ……シヴァーの知らない時間を共有してきた二人だ。うーむむむ。納得できないけれど、ルミナスは妹の暴言狼藉を姉妹のアレコレとして赦しているらしい。

 なんでだ。

「シヴァーも、ホワイトと仲良くして欲しいぜ。……わたしがこうして出しゃばると、またホワイトの機嫌が悪くなるんだけど」

「まあ、なっちゃんがそこまで言うなら」

「あの子、探偵って名乗ってたけど。ハンターとして修行を積むがてら、きちんと探偵の仕事をしてたんだぜ。魔物が絡んでいることもあるし、警察とのパイプにもなるから協会もホワイトを重宝していた」

「でも、リーダーに選ばれたのはなっちゃんでしょう」

「……むぅ」

 ──実戦の経験がないルミナスと、対して血なまぐさい現場にも顔をだしていたホワイト。……何故、この人選だったのだろう。

「いいですぞ。オイラ様にとって、守ってくれたハンターはなっちゃんだし、守りたいハンターもなっちゃんだし。その妹殿にも、少しは愛想よくしてやりますからな」

 シヴァーが微笑んでやると、ルミナスは安堵したように身を震わせた。そんな二人を見つめるボリスの目はとても優しい。

 メガネの奥で細められた瞳の奥に、秘められた光には本人すら気付いていなかった。


 チェリカ探しと平行して、ボリスの彼女『レイネトワール』を探すことになったシヴァーとルミナス。探し人の彼女が在籍している十六夜大学医学部の研究棟は、そこだけで中等部三つ分くらいの広さを誇っていた。

 ……これは、骨が折れそうですぞ。

 九月の太陽の下、馬鹿でかい建物を見上げてシヴァーは襟元を緩めた。道案内を申し出てくれたボリスを、かっこつけて断らなければよかった。……いいや、探偵とは自ら情報を見つけ出すもの。他人の誘導で得られたものを並べてみたってなんにもいいことないんだから! あの小生意気な妹を見下して、超中学級の探偵は誰なのか思い知らせてやらないと!

「あれれ、可愛いお客さんだね」

 通りがかった学生が微笑んできた。ホワイトとはまた違う、青みがかった白髪の少年だ。……大学生、というにはあまりにも華奢で、そばかすと丸い目がますます彼を幼く見せている。

「見学かな?」

「は、はい。人を探していまして」

「ふうん、奇遇だね。この会話も今日二回目だし、今日は不思議な日だ」

「はぁ?」

「あぁごめんね。さっきもね、白い髪がわっさーってなってる女の子が声かけてきてさ」

 ──ホワイトか。シヴァーの目元が険しくなったのにも気にせず、少年は笑いながら懐をまさぐり、黒い手帳を突き出してきた。

「ぼく、こういうモノです……ドラマっぽいよね! 言ってみたくて、一回。あ、ホンモノだよ! ちなみに今日は非番です。だから本当は出しちゃだめなんだけど、ま、いいよね」

 少年はまくし立てるようにしゃべり、にっこりと笑う。……ええっと、えっと。管轄がどうだとか、全部無視してシヴァーはぽかんとした。この少年、警察官……らしい。

「ぼく、クロットユール。高校でてすぐ警察になって、まだまだ新米なんだけど」

「警察の人が、何故?」

 ルミナスが進み出ると、少年は途端にでれでれと目じりを下げた。

「ちょっと気になることがあってね」

「気になること……」

「さっきのお嬢さんにも聞かれちゃった」

「ホワイトが?」

「ホワイトっていうの、あの子? 可愛いけどちょっとわがままそうだけど」

「……何か失礼を、しましたか? わたしの妹なんです」

「……はあ。じゃ、君もハンターかぁ」

 ロリショタ警察官の口から出た単語にシヴァーとルミナスは顔を見合わせる。クロットユールはそばかすの浮いた頬を掻いて、ううんと唸った。

「名前も知らずに、ハンターってだけでぺらぺらしゃべっちゃって……バレたら減給されるかな?」

「ちょ、ちょっとよろしいですかな! ホワイト殿は、貴様に何を聞いたのです>?」

「何って、18年前のあの事件のことだよ。……そもそもぼくがここに来たのだって、その事件を調べるためにって、先輩がさぁ」

 はぁあとため息をつきながら、クロットユールは肩を竦める。それから背筋を伸ばすと、一枚のメモを渡してきた。

「ハクアス教授の研究室なら、11-037号室だよ。ホワイト嬢はもう向かってるだろうし」

 差し出されたメモをありがたく受け取ってから、シヴァーは少年を見上げた。

「……オイラ様たちは、別件でここにきたんですぞ」

「え? そうなの? まいったな」

 まったく参ってなさそうである。こんなんが警察官で大丈夫なんだろうか。

「でもあれでしょ? レイネを探してるんでしょ?」

「何故それを?」

「だって、ホワイト嬢が言ってたし……ぼく、レイネとは幼馴染なんだよ。もちろんボリスノークともね」

 ボリスの名前を口にするとき、少年は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「なんと。偶然とは恐ろしいですなぁ。で、貴様は彼女の行方を知っていますかな?」

「知らないよ。レイネだって、たまには一人になりたかったんじゃない? あーやっと別れたかなって、ぼく的には万々歳だね」

「クロット殿はボリス殿が嫌いなのですかな」

「まーね。三角関係であぶれちゃったら、誰だってライバルを嫌うでしょ」

「そういう関係でしたか。それは失礼」

「ほんとだよ。腹立つな」

 まったく怒ってなさそうである。このぽんぽんとした弾むような物言いは、彼の癖なのだろうか。

「君だってわかるよ、そのうち。後ろの彼女が君以外を好きになったら、改めて友だちになろうか」

「ななななな、なっちゃんがそんな、そんなことはっ」

「むぅ?」

「ねーお嬢さん。こんな彼氏でいいの? ちょっと子供っぽいんじゃない?」

「シヴァーは、彼氏じゃないぜ」

 言いながらルミナスはシヴァーの一歩前でそっぽを向いた。その表情を無遠慮に追跡し、クロットユールはけらけら笑い出す。

「ごめん、ごめんって。からかいすぎたね」

「まったくだぜ」

「思ってないでしょ? じゃ、がんばってレイネのこと探してねー。レイネはハクアス教授のゼミ生だから、一石二鳥だねー」

 手を振るクロットを置き去りに、ずんずん歩き出してしまったルミナスの後ろを慌てて付いていく。

「な、なっちゃん! 待ってくだされ」

 調度とまっていたエレベーターに乗り、ゆっくりゆっくりと体が持ち上がっていく。十一回のボタンはすでに押されているので、あとは待つだけだ。

「もう、あんな軽口警察官がうろうろするようになっては、この世も末ですなぁ」

「ま、まったくだぜ。でも、色々教えてくれて助かったんだけど」

「そこだけは感謝しましょう、ですなぁ……」

 ちん。軽い音とともにドアが開く。……途端に眩しさに目がくらんだ。大きなガラス張りが続く廊下を歩く白衣の学生たち。うっすら漂う消毒液にニオイに、申し訳程度の観葉植物が肩身狭そうに葉を広げている。

 とても変な感じだ。雰囲気は病院そのものなのに、そこからのうす黄色い蛍光灯と、ほの暗い死のイメージを抜き取ったような妙なギャップがある。

 はぐれないように、でも気恥ずかしくてさまよわせた手を、ルミナスがごく自然に握ってくれた。


 *


「今日はお客さんが多いねぇ」

 ハクアス教授は予想外にまともそうな風貌をしていた。二十代後半から、三十代半ばといった体か。後ろに撫でつけた焦げ茶色の髪の毛と、ひょろりとした体躯に汚れた白衣。いかにもマッドサイエンティストといった要素を兼ね備えているにも関わらず、柔らかな笑顔がそんな陰気な要素を取っ払ってしまう。若々しい笑顔は学生に混じっていてもおかしくないのに、落ち着き払った眼差しが彼が責任ある立場にいることを教えてくれた。

 噂はかねがね、ビーカー入りのコーヒーを進めてくれるハクアスは、背凭れにだらしなく体をあずけながら二人を興味深そうに見やってくる。来客用のソファに腰掛けたシヴァーは素早く室内を見渡した。何せ、この男はどうやら二つも事件に関係しているようだから。

 書類が山積みになった机、色取り取りの液体が入った試験管たち。落書きのような線が延々と引かれている用紙に、出力を続けるプリンター。やはり申し訳なさそうにたたすんでいる観葉植物がいじらしい。……ブラインドから控えめに差し込む太陽と、そして香ばしいコーヒーの香り……なんとなく、居心地がいいような。

「うーん、お茶受けはまだ残ってたかなぁ」

「ああ、お構いなく」

「ふふ、あの店のドーナッツだよ。子供は我慢しないで喜ぶべきだよ」

 そういって何かのメモの裏に無造作に置かれたドーナッツ。ふわふわで蕩ける口どけの、ほら、並んでると一つ揚げたてが貰える……あの店のドーナッツだ。これにはシヴァーも断る理由をなくし、皿については咎めずにありがたく頂くことにした。

「君もホワイト嬢と同じで、十八年前の事件とレイネの行方を探しに来たのかい?」

「……あの女の後を辿るのは若干不本意ですが。説明の手間が省けましたな」

「はは。素直で宜しい。なに、探偵ごっこって流行ってるのかな? 僕が君らくらいの歳の時は、全く別のゲームが流行してたけど」

「ごっこではありませんぞ!」

「あっははは、これは失礼」

 フィルターから抽出されたドス黒いコーヒーにどばどばミルクを入れながらハクアスは笑う。うーむ。どうやら子供扱いされているようだ。……邪険に追い払われないだけ、マシか。

「レイネはね、僕の家にいるよ」

 ──なんと。え?

「そんな顔しないでよ。変な関係じゃない。ただね、研究が立て込んでて泊まり込んでるだけさ。他にもそういう子、いるよ」

「ボリスさんが心配をしているんだけど」と、ルミナス。

「連絡するよう、伝えて欲しいぜ」

「そこは二人の問題だからねぇ。でも取り敢えず、伝えるようじゃないか。折角の頼まれごとだしね」

「頼みましたぞ! これにて一件落着ですなぁ」

「少し気が早い気もするんだけど」

 すでにもぐもぐやってるルミナスは、人のことを言えないだろう。さてとシヴァーもドーナッツに手を伸ばしたところだった。やおら、ハクアスが机の引き出しから一眼レフを引っ張り出してルミナスに向ける。

「君。ドーナッツ食べてる姿がすごくいいね! どれ、写真を一枚、いいかな?」

「むぅ」

「君の輝き、頂き!!」

「……あぅ。」

 ドーナッツの粉を付けた頬をさっと染めてファインダーから逃げようとするルミナスの行動は、シヴァーの心の内側を柔らかく引っ掻いた。わけもわからぬままうずうずし、やけ食いとばかりに一口でドーナッツを頬張るシヴァーにもハクアスは笑顔でカメラを向けてくる。

「僕、カメラが好きでね。昔は写真部だったんだ」

「写真部……?」

「そ。まだあるんでしょ? 懐かしいよなぁ、僕のときは廃部寸前まで追い込まれててねぇ。スクープをとって人を集めようと躍起になっていたもんだよ」

「今なお継続しているということは、ハクアス殿はスクープとやらを撮れたのですかな?」

「とれたよ、すごいのが」笑い声からは真偽のほどはわからなかったが、ハクアスは懐かしそうに目を細めた。

「僕さぁ、十六夜学園に通ってたけど病気で途中から遠くの病院で療養しててね。そのまま向こうの学校に編入して、大学三年のときに今度はこっちに編入してまた戻ってきたから。だから撮れた写真がどうなったかとか、なんだったのかも分からないんだけど。残ってるってことはスクープだったんじゃないかな」

「わからない……?」

「うん。心霊写真みたいなものがとれたんだよ」

「具体的には?」」

「ははは、わからないってば」

 ──魔物の類だろうか。ルミナスが口元に手を当てて考え込んでいる。偶然にもチェリカと同じ部活だったハクアスのもたらした情報は、何か使い道があるかもしれない……?

 ぼーっと座っていてて、またいそいそカメラを構えるハクアスの被写体になっていても仕方がない。帰ろう、とルミナスをつっつくと、彼女は残りのドーナッツを慌てて口に入れた。

「ありがとうございました。親切に教えれくれて助かりましたぞ」

「うん、でも僕は人見知りだからね。普通はここまで歓迎しないよ」

「はぁ、では何故?」

「そこのお嬢さんが可愛かったっていうのもあるけどね。何よりは君だよ、シヴァー君」

「ひえっ! こここここ、困りますぞ!」

「困らないでよ。……君、シアング君の息子さんなんでしょう?」

 何故それを。きょとんとして首を傾げれば、ハクアスはああやっぱりと微笑んでコーヒーに口をつけた。

「目の色だけ違うけど、髪の色も雰囲気もそっくりだ。昔、シアング君が『将来子供が生まれたらシヴァールヴァーニと名付ける!』って言ってたのを、ふと思い出してね」

「いやいや! そうではなく何故父上のことをご存知なのですかな?」

「昔十六夜学園にいたって言っただろう? あそこはね、前はルームメイトは同学年じゃなくて縦割りで部屋が決まってたんだよ。僕とシアング君──正確にはシアング先輩だね。年齢こそ違ったけど、ルームメイトとして、友達としてもよくしてもらったよ」

「それはなんとまぁ、意外な繋がりですなぁ。父上は恥ずかしがって学園での生活を全然教えてくれなかったんですぞ。もっと早く分かってれば、夏の授業参観のついでに旧友のハクアス殿にも会えたかもしれないのに」

「夏、来てたのかい? それは残念だ。……懐かしいな。彼の作るケーキは絶品だった。寝る前にゲームしながらよく食べたなぁ──あぁ、シヴァー君。ところでお母さんは誰かな? 僕の知ってる人かな、ルノちゃんかなぁ」

 ──ルノ?

 夕暮れの図書室で寂しく消えていった孤独な幽霊を思い出し、シヴァーは思わず凍りついた。が、ハクアスはその様子に気付かないようで、笑いながら続ける。

「それはないか。二人はべったり仲良しだったけど、ルノちゃん、男だもんね。あ、ごめんね? ルノちゃんって言う、またルームメイトの子がいたんだ。すごくキレイな子でね」

「……紅い目の、本が好きな?」

「そうそう、図書委員の。なんだ、知ってるのかい? ルノちゃんは元気? まだお父さんと連絡とってるのかい?」

「い、いえ。ちょっと聞いたくらいで。ハクアス殿は──」

 ──知らないのか。ルノが、どんな最期を迎えたのか。

「ハクアスさん。貴方が療養にいったのは、いつぐらい?」

 横槍ともいえるルミナスの問いに面食らった体だったが、ハクアスはすぐに笑顔で答えてくれた。五月くらいだったかな、春の終わりだった、と。

「こっちに戻ってきてから二人の連絡先を探したんだけどさ。高等部卒業時くらいしかわからなくて。シアング君は大学に進学してたみたいだけど、ルノちゃんに至っては、途中で転校しちゃったって記録だったよ。昔のことすぎて連絡する勇気もないままズルズルきちゃったけど──君に会えて良かったよ、シヴァー君。お父さんに似てモテるんだね」

 親戚の子供にするような、優しい目を向けるハクアスに思わずたじたじしてしまう。……この人は知らないのだ。いや、それよりも衝撃的だった。

 “ルノとシアングは友人だった”

 ──シアングが学園生活の思い出を語らなかったのは、ルノの死を思い出すからか?

 “ルノは転校として処理されていた”

 ──チェリカが持ってきたスクラップは偽物なのか? けれどもルノは確かに死んで、幽霊となって図書室にとどまっていた。


 ……おかしいじゃないか?

 当時生まれてもなかったシヴァーが、そのニュースを知らなくても当然だ。だがこの有名私立でそんな事件があって、その栄光を保ち続けることができるだろうか。マンモス校だとしても……いや、問題はそこじゃない。事件が報道されていても。あのスクラップが闇に葬られたものであり、もみ消されたものだとしても。そんなこと、ちっとも大事じゃない。事件があったことは紛れもない事実なのだ。ルノは死んだ。これだけは覆らない。

 そんな事件があったそんな学園に──息子である自分を通わせるだろうか? 大勢に埋もれた、名も知らぬ、存在すら知らなかった相手ではない。他でもない、大切な友人が殺された場所に。


「男が料理上手だと花嫁修業は大変だよ、ねえルミナス嬢」

「……むぅ?」

「でも大丈夫、シアング君はすごく面白い舅だと思うよ。ほら、ゲームを考えるのもうまかったから。楽しく教えてくれるんじゃないかなぁ」

「ゲーム?」

「そう。今も流行ってるって聞いたよ?──『人狼ゲーム』」


 

「ほんの些細な遊びだったさ」

 誰に向けるでもない。研究室の部屋の中にいるのはハクアス一人だ。彼はキーボードをがちゃがちゃ言わせながら、独り言を呟いていた。

「そう。僕にも可愛い学生時代というものがあってね。意外かな? いや、事実だよ。とにかく、そうそう。ゲームに夢中だったんだ。寝る前にビスケットを齧りながら、ベッドの上で役割を決めてね」

『それが人狼ゲームなのですか?』

 と、柔らかな声が返答する。……いや。優しいが、まるでロボットのよつな一本調子な声だ。

 ハクアスは今や一人ではない。膝の上に小さな少女を乗せたまま、キーボードを叩き続けている。

「そうさ。でもね、大人数の方が楽しいからって……色んな連中に広めたのが間違いだった。楽しい推理ゲームは、犯人を覆い隠す便利な嘘になってしまった」

『犯人は人狼。』

「そう言って誤魔化して、物を盗んだり悪いことをする奴らが出てきたんだ。中でも派手にやってるやつがいてね。仮にAとしよう。僕たちはAにバツを与えることにした」

 ハクアスは手を止め、そのまま瞼を閉じた。……あたりに漂う濡れた土のにおいが、ひどく懐かしい。まるで森の中にいるような錯覚を覚えた。

「……僕ら三人は、人狼になった。……いや、違う。シアング君だとおもう。Aを殺したのはね。学生だったから怖いもんなしでしょ?」

『ハクアス先生は。途中で療養に行ってしまわれたから、そのあたりが曖昧なのですね』

「そう。それがとても心残りだよ」

『でも。先生、変ですわね』

「何が変なのかな?」

『三人部屋って、中途半端だと思いますわ』

「うん? 三人は……あぁ、確かに、二人と一人になってしまうねぇ」

 ──ルームメイトは、三人だ。……いや。〝自分を含めず″三人、だった?

「覚えていないということは。覚えていなくても困らない、こと』

『……うん……。いや、思い出す、べきなんじゃないかな?」

『いいえ』

「そうだね。あまり昔のことを考えていたらまた見失ってしまう。大切なものは目には見えないとはよく言ったものだよ、確かに僕は……」

 そうしてまた、ハクアスはキーボードを叩き出す。

 この世界のことなんて思いだすことも、考えることもない。そんなことで頭を一杯にすることはない。

 ……すべきことはたった一つ、忘れてはいけない贖いを。


 そんな彼の研究室の隅で、キラリと光る白い糸。それはまるで天から垂らされた糸のように、ふうらり、ふうらりと揺れるのだった。


「うーむむむ」

 探偵部部室内。あぐらをかいたままシヴァーは唸る。その横で、ルミナスはのんきにリンゴジュースと洒落込んでいた。

「なっちゃん! まったりしてる場合じゃありませんぞ!」

「むぅ」

「父上に連絡を取らないと。あと、ボリス殿に報告をして……あ、あとあと。咬ませ犬殿にも進展を聞かないと」

「咬ませ犬って、ホワイトのあだ名?」

「もちろんですぞ。ああいうテンプレツンデレはどうみたって主人公であるオイラ様の当て馬、咬ませ犬枠。異議なしですな」

「ふふ。聞いたら怒ると思うんだけど」

「……なっちゃん? 何故にそんなに笑顔なんですかな?」

「貴方があだ名をつけたということは。ホワイトは友達になったということだぜ」

「ち、ちちちち違いますぞ! やだなぁなっちゃんたら」

「トトさんも、プルートさんも。ウィルさんも、レインさんも。貴方は仲良くなりたい相手にすぐあだ名をつける」

「い、いや。マイナスな意味でのあだ名は……お近づきになりたくないというか……」

 逆に、いい意味でのあだ名は。

「耳赤いんだけど。照れてるぜ」

 シヴァーの気持ちなんて露知らず。ルミナスはご機嫌で鼻歌なんか歌っている。妹の友達が増えたのが嬉しいのだろう。

「シヴァー」

「は、はいいっ」

「一つ一つ、しようぜ。シアングさんの連絡よりも先に、ボリスさんを安心させてあげたいんだけど」

「それは確かに。直に連絡がくるはずだから……って、ハクアス殿のことを話した方がいいですかな?」


「おバカさん。間男の名前を喋ってどうするのよ」


 突然の小生意気な声に、シヴァーは思わず叫びそうになったのをぐっと堪えて声の主を睨み付ける。勝手知ったるなんとやら、ホワイトが自分専用の座布団を持ち込んで座っていた。

「ちょっと! 誰の許可を得てここに!」

「騒がないで、埃が立つのだわ。ああ地球上で無駄なエネルギーが使われていく。知ってる? エントロピーとかいう眉唾の法則」

「また好き勝手しゃべって! なっちゃんもお菓子出さなくていいですから!」

「心配しなくても犬の餌なんか触らないわよ」

「キレましたぞこの女ァ! 咬ませ犬の癖に!」

「ちょっとぉ! 誰が咬ませ犬よ無礼者!」

「……それでホワイト。なにかわかったの?」

 のほほんとしたルミナスに、散っていた火花は一瞬消えた。シヴァーからようやく視線を外し、顎の下で手を組んでホワイトは笑う。

「聞きたいお姉さま? 妹に頼るしかない、おバカで無様なお姉さま」

「むぅ……それは、少し傷ついたぜ」

「な、なに間に受けてるのよッ! だからバカなの、自ら証明してるのよッ! お前は少しは自覚なさい、このわたしの姉なのよ?」

 ホワイトは苛立たし気にテーブルを叩く。が、ルミナスがお姉ちゃんに教えて、と微笑むと、緩慢な動作で姿勢を正して切り出した。

「ボリスに、レイネとかいう女のことを報告する際は。あの間男の名前を出すことは避けなさいな」

「じゃあ妹殿は、詳しくは言えないけれど、無事だから待ってろ、とでも?」

「そこはうまく言い訳なさい。いいこと? 余計な諍い、争い、疑心暗鬼は避けるべきよ。人狼に嗅ぎつけられるわ」

「人狼……?」

「あのハクアスとかいう男。どうやら前回のゲームの流行に一枚噛んでるみたいね。あぁ、お姉さまならわかるわよね? 野良犬は黙ってなさい」

 シヴァーが反論する前にホワイトはその目を摘み取り、くしゃくしゃにしてしまった。仕方なくルミナスを見つめるシヴァーの目の前で、ルミナスは自分の体を抱え込むように腕を組んだ。

「……人狼は人間の心を食らう。ボリスさんが恨んだり、妬んだりする感情を食べて、復活するかもしれない?」

「ええ。……この学園のように、人間風情がわさわさ蠢いているなら絶好の狩場でしょうね。ここには魔物が多いことだし……。ねえお姉さま。お前、人狼の目星はついたの? まさか封印されたままになってると思い込んではいないわよね? とっくに実体化して、動き出していてもおかしくはないのよ?」

「そ、それは」

「春から変な事件が続いてるじゃないの。ウサギ小屋でのことも、わたしが知らないとでも思った? あんな狂人ほっとくお姉さまの考えが読めないわね。あの、トトとかいう変態こそ人狼かもしれないわ」

「トトさんは人間だぜ! 確かにちょっと歪んでるけど、人狼なんかじゃない」

「それだけ? わたしを納得させることは言えないの?」

「わ、わたしは……あまり、うまく、考えを伝えられないけれど……わたしがこの学園であった人に人狼はいない」

「ふうん? じゃあ、あの吸血鬼二人はなんなのかしら」

「あの人たちは、あの人たち。どちらかといえばわたしたち人間の味方だぜ」

「だから根拠を言えって何回言わせるのよ、このクズ」

「……むぅ」

「もういいわよ。お姉さまったらいつだってむぅで黙るんだから」

 ホワイトはため息とともに指を遊ばせる。まるで糸でもこよるような、妙な仕草だ。白く華奢な指の動きに嫌でも目を奪われる。

「そうそう、ハクアスについて面白い噂を聞いたわ」

 ほう。聞こうじゃないかと身構えるシヴァーには目もくれず、彼女は続ける。

「あの男。レイネトワールに気持ち悪いほど執着しているようね。行きつけのバーで、彼女に対して盲目にアピールする様子が何度も目撃されていたのだわ」

「二人の間には恋愛感情があったと?」

「ボリスとレイネは夫婦ではないけれど、今ならプラトニックな交際でも不倫として認められるはずよ。本人たちがそんなつもりはなくとも、二人っきりで会い続けるのはクロだと思われても仕方ないわ。レイネトワールは、ハクアスとの約束がある日はボリスに嘘をついていたし」

 ──どうしても終わらないレポートがあって、ゼミの研究会があって、とか。その時期にそんなレポートも研究会もなかった。ホワイトは懐から取り出した手帳をつらつらと読み上げる。

「何故そんな嘘をつく必要が?……答えは勧誘だわ。ボリスはレイネの浮気を疑っていた。そんな状況で、疑惑の相手のハクアスの名前は出せなかった。つまり、レイネトワールはハクアスとの仲が疑われていることを自覚していた。それなのに会い続けた」

「そ、それは……確かに、真っ黒ですなぁ……」

「二人の間に何があったかはわからない。でも。単なる知り合いではないはずよ」

「そんな相手のところにいる、なんて言ったらボリス殿嫉妬に狂いそうですぞ」

「修羅場だぜ」

「なっちゃん、静かだなーと思ってたらそんなことをドヤ顔で……。とにかく、ボリス殿にはうまくぼかして報告しましょう。咬ませ犬殿、情報収集能力については認めましょうぞ」

「誰がよ! 全く、口の聞き方を知らない犬だわねぇ」

 ホワイトはギロリと睨みを効かせ、そうして、ふと呟いた。


「どの犬もわたしには懐かないわね」




 ボリスをから、レイネと連絡がとれた、とメールが来たのはその数日後だった。ありがとうございます、君たちのおかげです、と。

 そして。時を同じくして、シアングから電話がきた。


『メール、読んだぜ。まさかお前がルノのこと知ってるだなんて思わなくて、驚いた』

「何故、黙っていたのですかな」

『別段話すこともねーだろ。……思い出すのが、辛かったんだ』

「では何故、オイラ様をこの学園に? 父上にとって、辛いことではないのですか」

『そうだよ。でも、オレの思い出とお前の進路は無関係だろ? そこは確かにいい学園だ』

「それはまぁ……その通りですぞ。この学園でなっちゃんに会えましたし」

『ルミナスちゃんは元気か?』

「元気ですが。父上、はぐらかしたってダメですぞ。ハクアス殿にも会いました。父上ったらこの学園のこと、自分は無関係ですって態度とるんですから」

『ハクアス……か。あぁ、あぁ。思い出した。えーっと』

「ハクアス殿もお元気そうでした」

『そっか。……そうか。なぁ、シヴァー』

 不意に、電話越しに父の声色が沈んだ。シヴァーは旧友の扱いが適当なシアングに若干苛立ちながらも先を促す。

『……うまく伝える自信がないから、がんばれ、とだけ言うよ。オレ、お前に言ってないことがあるんだ。絶対に怒ると思うことだよ』

 ──おや。随分と弱気な態度だ。思わずスマホの画面にべったりと耳をつけてしまう。

「なんですかな、藪からぼうに。らしくもないですぞ。言ってくだされ」

『……“オレ”は……。』



 *


「シヴァー! なにやってんの、焦げてるよ!」

 シオンの悲鳴ではっとする。油の中のドーナッツは、すでに黒い塊としていた。慌てて吸湿するも、跳ねた油で今度は自分が悲鳴をあげることになる。

「うぁっちい!」

「あーあー。ちょっと、大丈夫? 冷やしてきなよ」

「シオン殿……申し訳ないですぞ」

「いいよ、ほら、休憩して一息いれてきなって。本番じゃなくてよかったね」

 文化祭前日。シヴァーたちのクラスではドーナッツ屋をやることになっていた。男子のお化け屋敷か女子の希望のドーナッツか随分もめていて、結局は女子が勝った。

 そして女子たちは接客、野郎どもは淡々と調理を担当することになり、衣装だなんだときゃいきゃい騒ぐ声を尻目に高温の油と戦う羽目になったのだった。今日は本番に向けての準備期間だ。

 教室を出て、水道へと向かう。手のひらにできた水ぶくれに流水をさらすと心地いい。……人とした痛みが、頭の中のもやもやに刺激してくるようだった。

「大丈夫?」

 肩に手が添えられる。振り返ればルミナスが心配そうな顔でシヴァーを覗き込んでいた。

「や、やあなっちゃん。これは恥ずかしいところを」

「ぼーっとしていて、怪我したってシオンから聞いたぜ。この前のシアングさんとの電話、まだ気にしてるの」

「……ごほん。気にしてないといえば嘘になりますかな。だって、びっくりして」


 ──“オレ”は、人狼の存在を知ってる。

 ハンター、魔物。そんなものとは無縁に見えた父の一言。


『シヴァーがそういう存在に好かれることも、知ってた』

「そ、そんな! 父上、そんなこと一言とも!」

『悪い。ずっと、ずっと黙ってたんだ。お隣に住んでたキークさんたちが、そういうのを狩るハンターだってことも』

「……なっちゃんの両親が亡くなったのは、やっぱりオイラ様のせいなんですかな」

『……電話越しに頷いたって、お前わかるからな。そうだよ、あの二人はお前を狙って魔物と戦って亡くなった……ショックで、当時のことをろくに覚えちゃいないだろ?』

 ──確かに。ルミナスが泣いていたことしか、覚えていない。いや。それだけははっきりと記憶している。

『できることならオレが代わりたかった、その学園には行かせたくなかった……だけど、逃げたって意味はないんだ。人狼の呪いからは逃げられない』

 ──搾り出すような父の声。あれ、あれあれ。らしくないじゃないか。

「呪い……」

 呆然と繰り返した一言に、電話口で息を呑む音が聞こえた。自らが口走った言葉をようやく自覚したような態度に、シヴァーはその場にへなへなと座り込む。こんな父親、らしくない。そうだ、シヴァーの父親は、もっと……。

 隣でゲームをしていたルミナスが、異変を悟ったようだ。シヴァーの背中をさすりつつ、ぴったりとくっついてくる。

『ごめん。不安にさせちまった』

「いえ……呪いって、何のことですかな」

『…………。お前のその体質のことだよ。魔物に好かれ、引き付ける。キークさんたちが亡くなってから学園に通うまで協会からハンターが代わる代わる派遣されてきてた。お前のことを守るために……協会のことはルミナスちゃんから少しは聞いてるか』

「聞いてます。本当に少しだけですが」


 ──わたしの両親の代わりのハンターがあの家の傍にくるってことと、わたしを次の世代のハンターとして教育したいって。わたしはその話を拒む理由がかなったから、あの地区を後任の人に任せて協会へ行って……。今年、魔物の長である人狼の封印が解けるから、封印場所であるこの学園へ行けって命令がきて、ここに来た。そうしたら貴方にと再会できたの。人狼復活に向けて魔物の動きも活発化するから、狙われやすい貴方を守ろうと決心したんだけど──。


 そうルミナスは言っていた。それで納得してしまっていた。

 ……なんだよ、違うじゃないか。ルミナスから両親と人生を奪ってしまったのは、全部自分のせいじゃないか……。


『……今お前のいる十六夜学園はハンター協会の目も手も届くところだ。危険も安全も両立してるけどな、オレが傍にいるより安心だろう』

「父上。一つ聞かせてくだされ。どうしてオイラ様が呪いなんてものを? オイラ様、人狼に会ったことも、恨みを買うようなことをした覚えもありませんぞ」

『お、お前は悪くない! なにも悪くないぞ』

「じゃあどうして? なっちゃんの両親まで巻き込んで、そんな、そんなの……!」

『……ごめんな』


 父はそれ以上何も教えてはくれなかった。隣で聞いていたルミナスの体温だけが、シヴァーの心を優しく受け止めてくれていた……。



「……なっちゃんは、オイラ様のことを責めませんな」

「責める理由がないんだけど」

「だって、なっちゃんの親は──」

「サラリーマンじゃなくて、危険が付き物の仕事をやっていただけだぜ。貴方が責任を感じることはない」

 肩に添えられていた手が離れ、次の瞬間にはふわりと後ろから抱きしめられていた。柔らかく、温かく、大きい彼女の体。甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

「シヴァー。わたしは、貴方を守ってみせる。チェリカさんのことも。人狼になんて、負けないから」

「なっちゃん……!」

 首に回された手をタップすると、彼女はすんなりとシヴァーを離してくれた。シヴァーは振り返り、今度は自分が彼女を抱きしめる。しがみついているように見える身長の差がとても悔しい。

「オイラ様、自分の謎を解き明かしましょう。呪いと、人狼の正体を必ず解決して見せますからな! 闇の名探偵の名にかけて!」

「うん、傍で見てるぜ」

「だから! なっちゃんは必ず見届けてくだされ! 一人で危ないことをしないと約束して欲しいですぞ」

 見上げれば、ルミナスは両目をぱちぱちとやっていた。やがて、貴方らしいぜといって微笑んでくれる。その笑顔が、それだけで。



「ちょっと! 何遊んでるのよ!」


 ホワイトのきんきんした怒鳴り声に振り向くと、毛を逆立てて近づいてくる彼女とその後ろから首を覗かせてデバガメをやっていたシオンのにやけ顔に気が付いた。

「このわたしが手伝ってるのよ!? それなのにお姉さまったら、犬と遊んでないで仕事しなさいな!」

「ごめんねだぜ」

「まったく、愚図でのろまでクズなんだから! ちょっと犬! 発情してないでお前も働きなさい!」

「誰が犬ですかな、誰が!」

「犬でしょう。いやね、年がら年中発情期の犬」


 ふんと鼻を鳴らして立ち去るホワイトを見て、ルミナスと目を合わせる。それからやっと、シヴァーは自分がルミナスの胸元に顔を埋めていたことに気が付いた、どうしよう、こ、困ったな。

 動くに動けずにいたところに、突如シャッター音が響き渡る。しかしそのおかげで。動揺したついでに離れることができた。


「あ、ごめんごめん、脅かしちゃったかな」

 振り向けば、カメラを構えた上級生が近づいてきた。……なんとも頼りなさそうな、おどおどした笑顔を浮かべている。申し訳ない、というオーラを背負っているのが丸分かりだ。

「学祭ってカップルが増えるよね。絵になってたから、つい」

「ついじゃないですぞ! そういうの、被写体の許可を得るべきでは!?」

「ご、ごめんごめん。そんなに怒らないでって」

「貴方、写真部?」

 恥じらいがあるのか、少し上擦った声で問うルミナスに、上級生はうんと答えた。

「そう、でも新入部員だけど。だからまだカメラになれてなくて……」

「明日は忙しいんでしょう?」

「お、オイラ様たち、写真部のチェリカ殿に用があるんですが! どこで捕まえられますかな?」

 いっぺんに二人から話しかけられた彼はえええ、と眉を下げたものの、一つ一つ答えればいいと気が付いたようだ。

「うんと、明日は忙しいよ。チェリカに会いたいなら写真部の展示にいっても無理だと思うから、どこかで撮ってるのを探さないとダメだよ」

「せめてヒントを」

「あ、じゃあ携帯番号を教えるよ。スクープがあったら誰彼構わず連絡してって言ってたから、こっそり教えても大丈夫だと思うし」

「あああ、ありがとうございます! 助かりましたぞ!」

「ただ、連絡つくかは保障できないよ? 明日に備えて充電してるかもしれないし、集中したいからって電源落としてるかもしれないから。そしたら、オレに連絡くれればいいよ。オレ、明日はチェリカと一緒に行動するからさ」

「おお、これは強力な助っ人!……ええと、お名前は……」


「オレはトアン。よろしくね」



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