第7話🏹城下

 すぐそこは城下町だ。すかさずこの賑やかな人混みに紛れ込む。一見簡単な話に思うかもしれねえ。しかし実はそうじゃねえんだ。


 城下町っていうのは、庶民に解放された、華やかな世界と思うかもしれねえ。誰もが自由気ままに何かを買い求めたり、飲み食いしたり。みんな好き勝手に楽しそうに暮らしてるかのように見える。


 だが誰も気づいちゃいねえ。実は隅から隅までお上に監視されてるってことをさ。誰一人としてそのことを知らねえんだ。まるで自分の暮らしは全部自分の意思で動かしている気になってやがる。(まぁ、知らねえからこそ幸せなんだろうがなぁ)


 しかし言うまでもねえ、本丸を守ることが第一の命題だとしたら、城下町がその第一の砦になっているのは当たり前だ。(城下町の外には寺町があるが、それは単なる気休めに過ぎねえ。まやかしみたいなもんさ。ただひたすら座り込んで、仏像みたいなもんに拝んでたって何にもなりゃしねえからな。)


 だから城下町にはそこら中に役人がいる。案山子みてぇに間抜け面して突っ立ってる役人は、もちろんどんな阿呆でもすぐ分かる。一目瞭然だ。だがそれだけじゃねえ。俺たちと変わらねえ姿をして、平然と庶民の生活に紛れ込んでいる隠密がウヨウヨしてやがるんだ。それに密告者さ。同じ庶民のくせに、小銭欲しさに役人に媚び売ってケチな金銭をせびる。大事な仲間にも平気で嘘をつける姑息な奴らなんだ。


 だから俺は誰も信用しねえ。


 どんなにいい奴で、どんなに俺に気遣う素振りをされてもだ。逆に、そんな奴が一番危ねえ。裏のある奴っていうのは、必ず表の顔を必要以上に良くしようとするからな。怖え怖え。油断も隙もねえもんだぜ。


 だから俺は、少しでも怪しいと感じる奴がいたら、そいつを避けて通る。知ってるか?俺は結構そういう感は鋭いんだ。


 かといって、あからさまに避けるのも返って怪しい。だから出来る限り平然を装って振る舞うんだ。そんな時の俺のとっておきの技を、今回は特別に少しだけ教えてやろう。


 ───急にしゃがみ込んで、解けてもいねえわらじの紐を結び直す真似をする。

 ───まったく興味もねえ干物売りの婆さんに「景気はどうか」なんて話しかける。

 ───意味もなくお天道様を見上げて、わざとらしく汗なんか拭ってみたりする。


 怪しい奴が来たとなれば、そうやってやり過ごすのが俺の流儀さ。分かるだろ?俺って奴は、本当に用心深い人間なんだぜ。


 とにかくそんな場所だから、あんまり城下町に長居するのは物騒だ。とっとと抜けようと歩みを早めた時だった。俺の目に飛び込んで来たのは、他でもねえ、射的場の看板だった!


 弓矢と共に育ってきた俺だ。「射的場を覗いてみたい」という感情を抑えるなんて、到底無理な話だった。でも俺は少しでも早く目的地には辿り着かなければならない。親父の遺言を早くこの目で確かめたいからだ。遊んでいる暇はない。こんなところで遊んでいたら真の名器なんて完成できない。


さあどうする?俺!

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