第5話🏹出発

 親父がいなくなって、独り取り残された俺をどうするか、組織は扱いを決めかねていた。こんなことは今までなかったし、そもそも弓矢作りに専念する集団にとっては、まったく範疇外のどうでもいいことだったに違いねえ。


 その隙に俺は、早速、地図にあった北の山を目指すことにした。やるとなれば行動は早い。すぐに身支度を整え、抜け出す機会を窺った。


 本来、組織の離脱は簡単じゃねえ。幸衆には機密情報が満載だからな。だが、幸か不幸か俺はまだ誰も気にかけねえヒヨっ子だった。それだけじゃねえ。少なくとも俺はそう見せかけるように、意図的にそう振舞っていたんだ。親父にくっついているだけの、まだ何も分からねえただのガキだと。わかるか?普段から「相手を油断させておく」というのは、ものすごく大事な戦術の一つなんだ!


 それに重要な情報にも一切アクセスできる立場にはなかったのも事実だ。だから俺一人去ったところで、組織としては痛くも痒くもねえ、ってわけだ。


 それに、俺が親父から最後の秘伝を受け継いだことは誰も知らねえ。


 俺にしたって、親父がいなくなった今となっては、もはや組織に義理も未練もねえ。俺を育てたのは組織じゃねえ。親父だからな。


(しかし俺の考えが甘かった。結局最後までこれが尾を引くなんて、そのときは夢にも思わなかったからな。恐れ入ったぜ!)

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