第3話🏹親父
親父がいつどういうきっかけで組織に入ったのか、そもそも親父がどういう生い立ちなのか、俺はまったく知らねえ。何せ、いつもただ黙々と弓矢を作る姿しか俺はみたことがない上に、親父は必要以上のことはほとんど口にしない、とにかく素性はまったく明かさない男だったからなぁ。
その代わりというのもなんだが、親父の腕は確かだった。職人達の中でも一目置かれていたのは間違いないねえ。それは単に技術力だけの話じゃねえ。いわゆるアイデアってやつも豊富だったんだ。画期的な発想で、いくつもの新しい型式を生み出していったんだ。
狙いを外さない精度の高さ。飛距離。どんな甲冑も貫く強度。──新型は常に従来の性能を凌駕した。そうやって新たに開発された新型は、下部組織に回されて大量生産されていった。
つまりそれは──大量に敵を殺す道具が、機械的に大量生産された──ってことだ。そりゃぁ、もちろん俺たち幸衆にとってはこの上なくいい話だ。しかし敵にとってみれば、この世の終わりってことだな。
言うまでもなく、組織においては、新しい技術を生み出すことは最大の評価となる。結果として、親父は組織の中で揺るぎない信頼を得ていった。
ただし、親父には欠点があった。
──親父は、ある意味、純朴過ぎた。
親父は、純真に弓矢作りを愛していたんだ。殺人兵器になんてもちろんこれっぽっちも興味はねえ。ただ黙々と自分の好きな弓矢、理想の弓矢を極めたかったんだ。ただそれだけだったんだ。
だが組織の中にいるとそうもいかねえ。自分の理想とは別に、組織の目標を達成しなければならねえんだ。親父はいつも心の奥底で葛藤していた。
俺にはわかっていたんだ。親父が作りたかったのはそんな冷徹な殺戮兵器じゃねえ。
──真の名器だった。
もはやそれは兵器じゃねえ。それはいわば、ある種の芸術作品みたいなもんだ。殺戮に必要な機能と要件を満たすのは当然だとしても、それ以上の何か──そう、それ以上の何かを追求しているってことなんだ。学のねえ俺には言葉じゃうまく言えねえがなぁ。俺には分かるんだ。親父の生き様と作品を一番近くで見続けてきた俺だからな。
そしてそのことを薄々感づいていた組織の連中にしてみれば、内心、親父の存在がいささか
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