第2話🏹組織

 俺はかつて「幸衆さちしゅう」と呼ばれる弓矢職人の集団に属していた。おかみ直属の秘密組織だ。だからその組織のことなんか知ってるやつはどこにもいやしねえ。でも幸衆には全国各地から腕の立つ職人達が秘密裏にスカウトされてきた。世に言う「神隠し」だ、「人さらい」だ、そんな話を耳にしたら、それはもしかしたら幸衆の仕業かもしれねえ。そうやって人材をかき集めては、最新の技術を研究させ、秘密裏に最高の極意を継承していた。


 そして、言うまでもなくこの組織の目的はただ一つ。───戦で敵を一蹴するための最強兵器の開発だ。


 俺をこの道に引き入れたのは俺の親父おやじだ。親父も幸衆の一人だった。しかし「親父」といっても血の繋がった親子じゃねえ。俺はまだ幼い頃に戦に巻き込まれて家族を失った。途方にくれていた俺を拾って、男一人で育ててくれたのが、その親父だ。


 親父は俺に「幸彦ゆきひこ」と名付けた。


(ふん、まったく芸のねえ名前をつけてくれたもんだぜ。しかし俺はそもそも本当の名前なんか覚えちゃいねえ。だから今となっては気に入ってるぜ。この名前。分かるだろ?これはまさに、名器の完成を運命づける名前だからな!)


 そして常に俺を側に置いて親父は仕事をしていた。俺は物心つく前から、親父と、親父の作る弓矢に囲まれて生活していたんだ。


 その頃親父はすでに組織の中で上層部の役職に昇り詰めていた。だからつまらねえ権限てやつを持っていやがって、俺みたいなまだ右も左もわからねえ子供を組織に連れ込むなんて、好き勝手ができたんだ。


 ただその代わり俺は、その世界からは一歩も外へは出られねえ、一切、自由の効かねえ身になっちまった。(まったく親父め。俺の運命を勝手に決めやがって!)

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