やっときた平穏

★帝歴2501年12月3日 ヒューパ ティア



「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」


 こんにちわ、ティアです、6歳です。

 またまたですが、ラマーズ法ではありません。


 本日もありがたい事に、鬼教官ムンドーじいじ殿のありがたい特訓で走っておりますです、サーイエッサー。

 鬼教官殿は、ホラ占領政策が一時的に落ち着いたのでヒューパに帰って来たのだそうでありますサーイエッサー。


 私の後ろを見ると、ヒューパの街のトラビス以下悪ガキ組12名と、ベック、そしてマイハーレムのチュニカ以下孤児の女の子達も走らせていますが、一番下は3歳児なので一緒には着いてこれません。

 5歳児以下グループを作って、並んで歩く訓練からやらせています。

 例え幼子であっても、これから先どうなるか分かりません、彼女達も自分で自分の身を守れる用に仕込むのが、あるじたる役目。


 このメンバーに加えて、ムンドーじいじがホラの街から連れて帰った、男の子達10名がいます。

 この男の子達達もまた、チュニカ達と同じ、異端認定されたため迫害された孤児達です。

 じいじがホラの有力者達の家から救い出した時は、粗末な布を纏っただけの骸骨のように痩せこけていた状態からご飯を食べさせて、ヒューパの街まで連れて帰ってきました。


 わーい、私の家来がまた増えたよー。



 家来と言えば、ゲネス以下悪人面組は、ヒューパ領のために領内を飛び回っていましたが、今はお城にいて一緒に訓練に参加しています。

 因みに今私の後ろを一緒に走っていますが、二人一組になって、1人を背中に荷物のように担がせて走らせてます。


 体力のあるゲネスの肩の上には、特別に2人も座わらせて走らせてますよ。

 大人の癖に、お城の周りのを一周させただけで泡吹いて倒れる始末です。

 軟弱な。


「ひ、姫様勘弁してくださいよ~」


 私は、他人の泣き言を無視するタイプなので、ほっといて、泡吹きながら倒れてる大人達を交代させて交互に走らせています。


「オラオラ、気合入れて走れ、戦場でこいつが倒れたら見捨てるつもりか? 担いで走れ、いつかお前が戦場で助けられるかもしれないんだ、命がけで担いで走れ」


 いやー、海兵隊式ですな。


 皆の体力に合わせたメニューをこなし、魔法特訓も全員でこなしますが、流石に大人組のゲネスの奴は、派手な魔法を使いますね。

 初めて見たのですが、土精霊魔法で、手の周りに土の精霊で金属のような盾を創りだして、相手の攻撃をいなしています。


 確か初めて私と戦った時、剣を投げつけてやったのですが、こんなの見せなかったですね。

 『なんで?』って聞いたら『あの時はマーヤMP魔力が尽きてたからです、それはそうとあの時剣の刃の部分が当たっていたら、もしかしたらプラーナ防御壁を一発で抜いて死んでたかも知れなかったですよ、狙って剣の柄を当てたのですか?』と、聞かれたので『そうだ』とだけ答えましたが、ゲネスの奴、全然信じてなかったな。まあ偶然だったしな。



 こんな感じで皆が頑張っている間、私はと言うと、相変わらず魔法が使えません。

 小さな子供の中には、精霊魔法の素質がある子もいて、早くも精霊が周りに近寄ってきて初歩の魔法を使いそうになっていたりするのに、私といえば……

 精霊が以前より大勢集まってくるようにはなりましたが、増えた分、多くいたずらをされる身になりました。


 私いい子なのになぜだ!?  私は、超カッコいい魔法を使った魔法少女になりたのに、さすらいの魔道士として名を馳せるのを夢見てたのに、うううう先は長いな。



 格闘特訓になると、小さな子供達は、全員、木刀を持たせて素振り100回です。

 数を数えられるようになったベック少年の号令で、全員に数の勉強もかねて一緒に数を数えさせてます。


「1」「1」、「2」「2」……「17」「17」、「18」「18」、「19」「19」


 ……うんうん、ちゃんと数えられてるね……


「35」「35」、「38」「38」、「36」「36」……


 ふんふん36ね……ってちょっとまてーい。


「こらー、ベック数間違えてるぞ、さてはお前、30の台を曖昧に覚えたな」

「うわわわわ、ゴメンナサイ姫様」


 皆爆笑してるじゃないか、笑ってるけどお前たちも間違ってたんだぞ、しょうがないなあ。


 ハプニングはあったが、ベック自身も必死で覚えようとしているし許しましょう。



 私は、大人組に混ざっての特訓だ。

 この時間になるとムンドーじいじは、席を外してもう居ない。


 わたくし、魔法はお察しの状態ですが、体術は得意分野なのです。

 ワイバーンのダルマ経験値と、空手をやっていた感覚がこの体を動かしてくれる。

 小さな身体を利用して相手の攻撃をくぐり抜け、わき腹を模造刀でえぐってます。

 私相手に舐めた練習をしてくる奴らは、例外なく内蔵への打撃で足元に転がします。

 まあ、ゲネスの奴は、きちっと剣術を習った経験があるのか、私の攻撃が当るのも五分五分と言ったところでしょうか。

 非常に気に入りません。

 一度手を抜いて攻撃をしてきたので、土の精霊魔法で防御する暇も与えず、肝臓に綺麗に模造刀を入れて悶絶させてやったところ、仕返しに思いっきり下段の構えから私のわき腹を切り上げてきたので、足の裏でゲネスの模造刀を踏んで、ゲネスのミゾオチから斜め上に心臓へと模造刀を突き込んでやりました。

 

 模造刀だったから良かったけど、真剣なら私の普段使ってるブーツの底だと切られてましたね。危ないところでした。

 チビの私対策で、下段の構えを使われると危ないのが分かったので、これはこれで収穫です。

 大人が使ってくる下段の構え対策が、今後の格闘術の課題でしょうか。


 って、あれ? ゲネスが倒れた姿のままポーション飲んでる。

 もしかして、心臓止めかけたのかな? メンゴメンゴ。


 途中から私を除いた大人組は、槍を使った槍術の訓練になりました。

 集団で移動しながらのフォーメーションの組み方とか、ゲネスはかなり高度な軍事知識を持っているらしい。

 じいじと一緒になって軍運用の議論しているのを真後ろで観察していると、集団としての動きの意味が分かってくる。

 今やっているのは、円陣を組んだ防御陣地の構築方法を話し合っていた。

 やっぱりこいつは良い買い物だったな。あの時殺さずにおいて良かった(さっき殺しかけたけど)。


〜〜〜〜


 こうして子供達も含めての合同特訓は、朝の2時間程かけて過ぎていく。

 大人の訓練は、別メニューで用意してるが、子供達の集中力には2時間が限界だね。


 私たち子供組は、宿舎に戻って、私直々の勉強教室を開いていた。


 とにかく名前、自分の名前を石版に白亜石チョークで書かせて、書けるようになったら隣の子の名前を書かせるようにしました。

 文字の表は、部屋の壁に私が大書(豚の毛で大きな習字用筆作ったよ)しておいてあるし、外の壁にも大書しておいたのでバッチリ。


 これを繰り返させて、飽き始めた時間になると、私特性のそろばん教室が開かれます。

 この子たちは、思ってたよりすぐに10進法を覚えたので、ちょっと拍子抜けです。


 あれえ?  ベック少年の時は、あんなに苦労したのになあ……



 今は、こんな感じで子供達を養っていますが、以前の金欠が嘘のよう。

 アルマ商会さんからの資金提供のお陰です。


 アルマ商会さんに貴腐ワインの新酒サンプルを試飲してもらうと、大絶賛され、貴腐ワイン作りの融資はすんなり通りました。

 本当は、ちゃんと熟成した方が、貴腐ワインはさらに濃厚でバランスの採れたワインになる。

 将来、私や、ここにいる子供達が大人になった頃、何かのお祝いで飲む分を残して、後は勿体無いけど売ります。


 おかげで、余分に手に入れた資金を使って、この子達を養う事が可能になりました。


 業務上横領じゃないよ、従業員福利厚生の一部なんだからね。


 宿泊所には、暖かい暖炉を入れる事にも成功しましたし、相変わらずチュニカを行かせると売ってくれませんが、トラビス達を使って新鮮な野菜を手に入れられるようになった。

 秋の終わりには、豚を数頭丸々買って、燻製ハムやソーセイジを作り、美味しいお肉を毎日食べられようにもなりました。


 豚は、お肉だけを利用したわけじゃなくって、全部を利用させてもらったよ、命をいただくんだからね♥

 それに高いお金を出して買ったのだから、全部を使いきらないといけない。

 油は、ラードとして別の用途で使うために取っておきます。

 豚足や硬い腱、皮のコラーゲンたっぷりのゼラチン質の部位も、しっかり煮込んで、ゼラチンを回収する。


 豚の解体も勉強の中に含みました。

 解体作業は、ムンドーじいじのレクチャーの元、ゲネス他大人も含め全員で、獣の身体の仕組みを学びます。

 魔獣相手に戦う時、どこが魔獣の弱点なのか、実際の生き物の豚を解体しながら弱点の内蔵の位置や、骨格等の防御力の高い場所を覚えていきます。


 ブーちゃんは美味しいだけじゃないのよ、詳しい話は省くけど、占領したホラの復興のために、子豚をヒューパとして大量に買い付けています。

 ブーちゃんは、捨てる所の無い優秀な命です。南無南無。



 一日の仕事が終わったら、お風呂の時間。

 暖炉と繋いだボイラーで炊いたお湯を使ったお風呂に、子供達全員を浸けて石鹸で洗います。

 豚を解体した時に取ったラードと、暖炉で燃やした灰を水に浸けてその水を煮詰めて作った炭酸カリウム(強アルカリ)で、加水分解反応を利用して石鹸を作りました。

 この加水分解反応は、豚から取ったゼラチンと反応させれば、にかわ=接着剤ができる。


 以前アルマ商会さんにインクの事を聞いたら、あれは他の国から輸入していて高い物だと聞いた。

 どうみても墨汁だってので、豚のゼラチンから作ったにかわと煤で墨汁を作り、アルマ商会さんに、冬もう一度来てもらって買い取ってもらう約束を済ませていた。


 このお金で、皆の冬用の可愛い服を買ってやるんだ。

 まだ包帯を外して素顔を出したくないみたいだけど、絶対に可愛いはずだ。私が言うんだから間違いない。

 そのためにも墨作りは、成功させたい。

 墨に使うにかわの元は、さっき説明した通り、動物性蛋白質のゼラチン。

 ゼラチンは、時間が経てば腐る。

 なので防腐剤が必要になる。

 ムンドーじいじに、物を腐りにくくするハーブは無いかと聞いたら、以前、ジョフ親方と一緒に山奥でワイルドライフをした時に使った、チコリポップの木の皮が良いと言われ、採ってきてもらっていた。

 これを使い防腐剤として、墨を作る時に使う予定です。


 続いて、墨作りのレシピを考えましょう。

 墨の黒い成分は、煤。

 ちょうど、油ならクレオソートやテレピン油が売るほどあるので、使います。(あまり売れ先がなかったせいでもある)

 アルコールランプの要領で火を点け、その上から壺を被せて壺の中に煤を貯める装置を作ってやった。

 こうして集めた煤と膠とチコリポップから抽出したアロマとを、色々な比率で混ぜて、墨の試験作が完成する。


 完成した墨で紙に文字を描いてみると、いくつかは、失敗作もできたけど、概ね良好。

 実験記録から、最も成績の良かった材料比で生産を開始しました。

 因みに、紙の生産もしたかったけど、ヒューパは寒い地方だったので、紙漉きに使えるような木が殆ど無くて(温かい地方の木に多い)紙作りは諦めます。

 針葉樹をパルプ化させて中性紙を作りたいが、炭酸ソーダや強アルカリが安定的に作れるようになるまで、製紙はおあずけだ。



 来週来る予定のアルマ商会さんに、墨が全部売れるといいなあ。

 前のお金でワインボトルを1200本分購入したので、残ったお金で買えたのは、真冬用の大きめのコートを1枚ずつとブーツだけ。

 女の子達には、可愛い服を、男の子達には、動きやすくてカッコいい服を買ってあげたかったなあ。

 今度こそ買えたらいいな。


 あ、そうだ、最近いつも手伝いをさせてたトラビスや、悪ガキ組の奴らにも買ってあげなきゃ。

 あいつらの内の半分は、以前ホラからの襲撃で家を追われたり孤児になった子達だ。

 お給料を少額だけど出してるが、ボーナスをしてあげないとな、いっその事一緒に家で養うかな。

 手持ちにお金があると人間、気が大きくなっていけない。

 特にトラビスには今、街の探索を命じてるし、貢献度高いよね。


 あの野菜売ってくれない事件の後、彼に露天商組合ギルドの組合長を探らせていました。

 情報が集まるようになって、露天商組合ギルドの組合長周りから、ややこしい情報が聞こえるようになってきてた。


 ややこしそうなので、ムンドーじいじに相談をしたかったのに、この所忙しいのか、特訓が終わったらすぐ姿を消していたし、時々参加せずにどこかでお仕事をしている。



 いずれこの落とし前はつけないといけないし……じいじに相談したら止められるから自分でやーろおっと。


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